第4回「赤池メモリアルレクチャー賞」受賞者及び記念講演が決定
ISM2022-05
2022年7月8日
◆ 概 要
「赤池メモリアルレクチャー賞」は,2016年5月に統計数理研究所と日本統計学会により共同で創設されました。「赤池情報量規準(Akaike Information Criterion: AIC)」を提唱,予測の視点に基づき従来の統計理論とは異なる新しい統計モデリングのパラダイムを確立して,広範な研究分野に大きな影響を及ぼした故赤池弘次博士の功績を記念したものです。
第4回を迎えた同賞の受賞者は,ヘルシンキ大学(フィンランド)のアーポ・ヒバリネン(Aapo Hyvärinen)教授に決定しました。ヒバリネン教授は,信号処理や画像解析において著名な統計的手法を開発してきたことを始めとして,機械学習や計算論的神経科学,数理統計学の分野で多くの業績を挙げてきました。その中でも,独立成分分析における受賞者の手法は,統計学・機械学習分野で知らぬ者のいないものとなっています。研究の内容やスタイルは,故赤池博士のものとの親和性が高く,赤池メモリアルレクチャー賞にふさわしい,統計科学及びその応用分野で広く国際的に活躍する研究者です。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により,未だ来日が難しい状況のため,記念講演は,成蹊大学で行われる2022年度統計関連学会連合大会の期間中,9月5日(月)に開かれるプレナリーセッションとして,オンラインでのリモート形式で実施されます。
【受賞理由】
アーポ・ヒバリネン教授は,信号処理や画像解析において著名な統計的手法を開発してきたことを始めとして,機械学習や計算論的神経科学の分野で多くの業績を挙げてきました。データから変数間の因果関係を同定する因果探索や,本来は正規化を要する複雑な統計モデルに対する推定手法の開発でも,大きな成果を残しています。その中でも,独立成分分析における受賞者の手法は,統計学・機械学習分野で知らぬ者のいないものとなっており,その元となる文献は引用数が2万件を優に超えています。その顕著に優れた手法を,あくまで広く実用化されることを前提として磨き上げていくスタイルは,故赤池博士に通ずるものであると思われます。また,AICを基とした新しいタイプの情報量規準の開発もしており,実際の研究内容でも故赤池博士との親和性があります。
特筆しておきたいことは,若い研究者を中心として多くの日本人統計学者と共同研究していることです。少なくとも,20名以上の日本人研究者との共著論文があります。その中でも,非正規性を利用した因果探索手法,非定常であることを許容する独立信号の分離手法,正規化の難しい統計モデルにおける簡便な推定手法は,当該トピックで不可欠なものとなっています。日本の統計学界に大きな貢献をしていることは明らかであり,その意味でも受賞はふさわしいといえます。
以上の理由により,統計科学及びその応用分野で広く国際的に活躍する研究者として,選考委員会はビバリネン教授に第4回赤池メモリアルレクチャー賞を授与することを決定しました。
◆ 第4回受賞者 アーポ・ヒバリネン教授について
【研究業績】
アーポ・ヒバリネン教授は,信号処理や画像解析,機械学習,計算論的神経科学,数理統計学など,多岐にわたる分野で多くの業績を挙げてきました。その中でも,独立成分分析におけるヒバリネン教授の手法は,統計学・機械学習分野で知らぬ者のいないものとなっており,その元となる文献は引用数が2万件を優に超えるものとなっています。詳細を述べると,独立成分分析とは,複数の独立な信号源からのデータが混ぜ合わさって観測されるとき,それらを分離する方法のことです。雑音の混ざった音声データから主要な音源を抽出すること,脳波データから意味のある信号を抽出することなど,豊富な応用先をもち,その根幹をなす手法の提案の貢献は計り知れるものではありません。一般的に想像できる統計手法と違い,最小限の仮定だけから目的を成し遂げる発想豊かなアプローチをとっており,驚きをもって広まったと言われています。
独立成分分析におけるヒバリネン教授の手法は,ヒバリネン教授によって様々な形で汎用化され,また少し形を変えて因果探索などでも用いられていきました。ここでは,その他の業績の一つとして,ノイズ対照推定法の開発に触れます。これは,本来は必要である正規化が困難となるような複雑な統計モデルに対し,その正規化を不要とするような推定法のことで,やはりヒバリネン教授らしい驚きのあるアプローチがとられています。この推定法の特殊性より,モデル選択においてAICをそのまま用いることは妥当でないのですが,最近になりヒバリネン教授を含むグループが推定法固有の情報量規準を開発しています。AICを基としているため,ノイズ対照推定版AICと呼べるものであり,故赤池博士の研究との親和性も示唆します。
論文名 著者名 |
被引用数 2022年5月30日現在 |
出版年 |
Independent component analysis
A Hyvärinen, J Karhunen, E Oja John Wiley & Sons, Inc |
21265 | 2001 |
Fast and robust fixed-point algorithms for independent component analysis
A Hyvarinen IEEE transactions on Neural Networks 10 (3), 626-634 |
7846 | 1999 |
A fast fixed-point algorithm for independent component analysis
A Hyvärinen, E Oja Neural Computation |
4578 | 1997 |
Noise-contrastive estimation: A new estimation principle for unnormalized statistical models
M Gutmann, A Hyvärinen Proceedings of the thirteenth international conference on artificial … |
1326 | 2010 |
Validating the independent components of neuroimaging time series via clustering and visualization
J Himberg, A Hyvärinen, F Esposito Neuroimage 22 (3), 1214-1222 |
1130 | 2004 |
A linear non-Gaussian acyclic model for causal discovery.
S Shimizu, PO Hoyer, A Hyvärinen, A Kerminen, M Jordan Journal of Machine Learning Research 7 (10) |
1116 | 2006 |
Natural Image Statistics: A probabilistic approach to early computational vision
A Hyvärinen, J Hurri, PO Hoyer Springer-Verlag New York Inc |
815 | 2009 |
Estimation of non-normalized statistical models by score matching.
A Hyvärinen Journal of Machine Learning Research 6 (4) |
677 | 2005 |
Information criteria for non-normalized models
T Matsuda, M Uehara, A Hyvärinen Journal of Machine Learning Research |
2021 | |
Unsupervised feature extraction by time-contrastive learning and nonlinear ica
A Hyvarinen, H Morioka Advances in Neural Information Processing Systems, 3765-3773 |
2016 |
By Google Scholar
アーポ・ヒバリネン(Aapo Johannes Hyvärinen)教授 プロフィール
【現在】
フィンランド ヘルシンキ大学 コンピュータサイエンス学部 教授
【略歴】
誕生年:1970年
学歴:
1997年フィンランド ヘルシンキ工科大学 博士(情報科学)
博士論文 “Independent component analysis: A neural network approach”
主な職歴:
2003年- フィンランド ヘルシンキ大学 着任
2008年- 同 コンピュータサイエンス学部 教授
2016-2019年 イギリス ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン
ギャツビー・コンピュテーショナル・ニューロサイエンス・ユニット 教授
第4回赤池メモリアルレクチャーの実施について
第4回赤池メモリアルレクチャーは,日本統計学会の委託を受け,統計数理研究所と統計関連学会連合大会組織委員会が主催して,2022年度統計関連学会連合大会プレナリーセッションとして開催する予定です。ヒバリネン教授の講演はオンラインを通じて同セッション会場で行われます。
【セッション名】 |
統計関連学会連合大会プレナリーセッション 赤池メモリアルレクチャー |
【講演者】 | アーポ・ヒバリネン教授(ヘルシンキ大学) |
【題 目】 | Identifiability of latent-variable and structural-equation models: from linear to nonlinear |
【司 会】 | 樋口 知之(統計関連学会連合理事長/日本統計学会長) |
【座 長】 | 椿 広計(統計数理研究所長) |
【討論者】 |
松田 孟留(理化学研究所 脳神経科学研究センター統計数理研究ユニットリーダー) ※セッションはすべて英語で行われます。 |
【日 時】 | 2022年9月5日(月)16:00~18:00 |
【会 場】 |
成蹊大学 〒180-8633 東京都武蔵野市吉祥寺北町3丁目3−1 (https://www.seikei.ac.jp/university/aboutus/accessmap.html ) ※現地とオンラインのハイブリッド形式で行われます。 |
詳細情報は,
統計数理研究所(https://www.ism.ac.jp/
)
2022年度統計関連学会連合大会(https://confit.atlas.jp/guide/event/jfssa2022/top
)
日本統計学会(https://www.jss.gr.jp/
)
の各ウェブサイトにおいて発信していきます。
赤池メモリアルレクチャー賞の趣旨
赤池メモリアルレクチャー賞は,統計数理研究所と日本統計学会の共同事業の提案として2014年から企画が温められてきたものです。統計科学の分野において,多大な功績を残し, その発展に大きな影響を及ぼした故赤池弘次博士(※1)にちなんだ賞を創設し,その受賞者による記念講演(以下,「赤池メモリアルレクチャー」)を実施することで,国内外の統計科学研究者の交流の機会を設け,若手の人材育成を促進すると同時に,統計科学分野のさらなる発展に寄与していきます。
受賞者は,統計科学(制御,最適化など数理科学・数理工学分野も含む)及びその応用分野において,故赤池博士のように時代を先取り,広範囲の研究分野に影響を与え国際的に活躍された研究者の中から,2年に一度,一名が選出されます。なお,受賞者には賞金10万円と記念の盾及び旅費が授与されます。
赤池メモリアルレクチャーでは,人材育成の観点から,学生・若手研究者の数名を討論者として指名し,講演後に,講演者との質疑応答の機会を設けることにしています。そして,講演内容は,討論付きの招待論文として,「Annals of the Institute of Statistical Mathematics (AISM) 」に掲載されることになっています。
(※1)故赤池弘次博士について
1927年11月5日静岡県で誕生し,海軍兵学校,第一高等学校,東京大学理学部数学科を卒業後,1952年に統計数理研究所に入所。
1960年代にスペクトル解析法,多変量時系列モデル,統計的制御法,時系列解析ソフトウェア TIMSAC などの研究・開発を行って時系列解析の分野で世界を先導しました。1970年代には情報量規準 AIC を提唱,予測の視点に基づいて従来の統計理論とは異なる新しい統計モデリングのパラダイムを確立し,広範な研究分野に多大の影響を及ぼし,1980年代には,ベイズモデリングの実用化を推進し,大規模情報時代に即した新しい情報処理の方法の発展に先駆的な役割を果しました。故博士の研究論文は統計科学界において永くに渡って引用され, その研究成果は非常に高い評価を受けた証として,故博士は紫綬褒章,勲二等瑞宝章,京都賞等数多くの栄誉を受勲,受賞しました。
1986年からは統計数理研究所長を務め,研究所の運営及び総合研究大学院大学統計科学専攻の発足に伴う大学院教育にも従事した後,1994年に任期満了退官,同年に統計数理研究所名誉教授,総合研究大学院大学名誉教授となった後も,ベイズモデル,ゴルフスイングの解析に取り組む等,過去の業績に満足することなく,飽くなき情熱を持って最期まで研究を継続しました。また,1989年1月~1990年12月の間,第19代日本統計学会会長を務めました。
2009年8月4日茨城県で永眠(享年81)。
なお,2017年11月5日には,世界16の国と地域で Google 検索画面に「赤池弘次生誕90周年」として,記念ロゴが掲載されました。
(参考:https://www.google.com/doodles/hirotugu-akaikes-90th-birthday
)
*故赤池弘次先生記念ウェブサイト 赤池記念館*https://www.ism.ac.jp/akaikememorial/index.html
お問い合わせ先 |
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所 運営企画本部企画室 URAステーション 〒190-8562 東京都立川市緑町10-3 TEL: 050-5533-8500(代表) E-mail: ask-ura@ism.ac.jp |
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