所長挨拶
2026年8月3日
統計数理研究所長 山下 智志
統計数理研究所長の山下智志でございます。所長を拝命してから一年が経過いたしました。
統数研は、昭和19(1944)年の創設以来、80年にわたり統計数理科学の発展に寄与してまいりました。その歴史は、制度的な変遷を経ながらも、「現場・現実・現象に向き合い、その背後にある構造を抽出する」という一貫した学問的姿勢によって貫かれております。
近年、AI・機械学習の急速な進展により、データを用いた意思決定の重要性はかつてないほど高まっています。しかしながら、その一方で、データから何を読み取り、どのように解釈し、どのような判断へと結びつけるかという問いは、ますます本質的なものとなっています。統計数理科学の役割は、単なる計算技術の提供にとどまるものではなく、不確実性のもとで合理的な認識と意思決定をいかに構築するかという、知の枠組みそのものを提示する点にあると考えます。
所長としての一年を通じて、統数研が担うべき使命は、この「方法としての統計」を深化させることに加え、それを担う人材を育成し、社会へと送り出していくことにあると強く認識するに至りました。高度な計算技術が広く普及する時代においてこそ、背後にある前提や限界を理解し、現実に即して適切に用いることのできる人材の重要性は一層高まっています。
統数研は、大学共同利用機関として、共同研究や研究集会を通じた知の共有のみならず、次世代の研究者および高度専門人材の育成においても中核的な役割を果たしてきました。今後は、この機能をさらに強化し、統計数理科学の素養を備えた人材が、多様な分野においてその能力を発揮できる環境を整えていくことが不可欠であると考えております。
こうした認識のもと、就任時に掲げた三つの目標についても、その意義をより明確にしながら取り組みを進めてまいります。
第一に、財政的基盤の安定化は、単に研究活動を維持するためだけでなく、長期的視野に立った人材育成と研究環境の整備を可能とするための前提条件であります。
第二に、業務運営の合理化は、研究者が本来向き合うべき「現実の複雑さ」に集中できる環境を整えるために不可欠です。制度や運営の簡素化は、単なる効率化ではなく、研究の質を高めるための基盤であると位置付けております。
第三に、統数研のプレゼンス向上は、研究成果の発信にとどまらず、統計数理科学という学問の価値を社会と共有し、それを担う人材の裾野を広げることにもつながる重要な課題です。
統計数理科学は、不確実な世界において秩序を見出し、意思決定の根拠を与える学問であり、その意義は今後ますます大きくなっていくと考えられます。その発展のためには、理論と応用の双方を架橋しうる人材の継続的な育成が不可欠です。
所長としての歩みはまだ始まったばかりではありますが、この一年で得られた認識を基盤として、統数研の研究と人材育成の双方をより一層充実させてまいる所存です。
今後とも、統数研の活動に対する皆様のご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願
い申し上げます。


