所長挨拶

椿 広計所長

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2024年6月14日

統計数理研究所長 椿 広計

 統計数理研究所(統数研)は、1944年6月に文部省直轄研究所として設立され、以来様々な時代環境の中で特徴ある活動を行ってまいりました。今年は創立80周年を迎えます。その中で、統数研が時代を通じて一貫して大切にしてきたのは、データをどのように取得し、どのように解釈し、モデリングし、意思決定に繋げるかという学術横断的な基盤となる方法論の探究です。一方、統計数理科学は真空の中で成立する学術ではなく、「現実・現場との接点にこそ、その真理の発展が存在する」との研究所の先人が築かれた文化を設立以来受継いできました。水準の高い方法論を現実・現場の接点から創成し、それを基礎研究の成果として持続的創出を目指すことが私たちの第一の使命と考えています。

 第一の使命のさらなる高みを目指すため、所内での議論を重ね、これまでの3研究系体制を大幅に見直して、ついに2024年3月、改組を実現しました。研究力向上、研究成果を急速に社会還元可能とする仕組みの構築、学協会などの統計数理科学コミュニティの形成、そして統数研活動との連携を必要とする分野の統数研所内においての消失ないしは縮小を避けることも企図し、創立100周年の未来を見据えた改革となりました。この改組の一番大きな特徴は、所長直下となる「先端データサイエンス研究系」と、その系下に分野横断型の「統計的機械学習研究センター」と特定領域型の「マテリアルズインフォマティクス研究推進センター」の2高等研究センターを設置したことです。両センターが持つネットワーク活動の有機的連携を実現する場として、また他の研究系、所内外の理論・方法論のトップ研究を特定分野研究に展開し、相乗的効果を生み出す世界トップ拠点として、バーチャルラボラトリの運営も今後予定しております。

 一方で、分野をつなぎ、人をつなぐ統計数理科学の特性を活かし、多様な学術分野との共同研究や産官学協働で解決すべき社会課題達成に、最善の統計数理科学的方法論を適用することで貢献することが統数研の第二の使命です。このため統数研がハブとなるNOE(Network Of Excellence)形成事業で構築しているネットワークを中心に、分野融合や新分野創生に係る国内・国際共同研究発展に引き続き注力してまいります。

 日本の高等教育研究機関は、諸外国では当たり前に存在する大学院統計学専攻を持ちませんでした。そのため統数研では、日本社会のニーズに応え、様々なレベルの教育プログラムを実施する統計思考力育成事業、大学統計教員育成に係る統計エキスパート人材育成プロジェクト等の人材育成事業をも中核として担っています。これら人材育成への取り組みが統数研の第三の使命としてますます重要になってくることが見込まれます。特に統計エキスパート人材育成プロジェクトにおいては、諸学術分野の29機関から参加した第一期生の若手研究者全員に、2023年9月に全研修の修了認定を与えました。いよいよ29参画機関の大学院統計教育と、各参画機関で用いる統計教育システム開発の一層の加速化、実現化を図る時期に入りました。この事業の継続や拡大への期待も寄せられているところです。

 2020年に発生した新型コロナウイルス感染症も、昨年5月に感染症法上の位置付けが5類に引き下げられたことで行動制限も大幅に緩和され、それまで困難だった国際学術交流や大規模な研究集会の開催も再開できるようになりました。統数研の特徴を活かした研究教育活動により社会に貢献できるよう所員一同つとめて参ります。

 引き続き、統数研へのご理解、ご支援のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。