所長挨拶

椿 広計所長

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2023年6月5日

統計数理研究所長 椿 広計

 統計数理研究所(統数研)は、1944年6月に文部省直轄研究所として設立され、以来様々な時代環境の中で特徴ある活動を行ってまいりました。統数研が時代を通じて一貫して大切にしてきたのは、データをどのように取得し、どのように解釈し、モデリングし、意思決定に繋げるかという学術横断的な基盤となる方法論の探究です。一方、統計数理科学は真空の中で成立する学術ではなく、現実・現場との接点にこそ、その真理の発展が存在するとの研究所の先人が築かれた文化を設立以来受継いできました。研究所は水準の高い方法論を現実・現場の接点から創成し、それを基礎研究の成果として持続的創出を目指す、このことが私たちの第一の使命と考えています。

 一方、このような統計数理科学の特性を活かし、多様な学術分野との共同研究や産官学協働で解決すべき社会課題達成に最善の統計数理科学的方法論を適用することで貢献しなければならず、これが第二の使命と考えています。第4期中期計画においても第二の使命に関しては限られたリソースの中で、国際共同研究活動のデザインを開始すると共に、統計数理科学活用の重点領域の共同研究拡大をトップダウンで図るNOE(Network Of Excellence)形成事業に引き続き注力します。NOE活動としては、統計的機械学習研究センターでの国際連携研究、ものづくりデータ科学研究センターでの「『富岳』成果創出加速プログラム:データ駆動型高分子材料研究を変革するデータ基盤創出」における産学ネットワーク形成、リスク解析戦略研究センターでの「情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-E プロジェクト):長期から即時までの時空間予測とモニタリングの新展開」等は特に重要な活動と考えられます。

 さらに、日本の高等教育研究機関は、諸外国では当たり前に存在する大学院統計学専攻を持たなかったために、統数研は研究機関でありながら統計数理科学のエキスパートという人材育成事業を配置しなければならなかったという、いわば日本の統計数理科学研究機関特有の第三の使命があります。今日、数理・データサイエンス・人工知能を正しく活用できる人材育成が国全体の方針となり、統数研の第三の使命への期待がむしろ高まっているように思われます。統計数理人材の育成に関しては、これまでの統計思考力育成事業に加えて、大学統計教員育成センターでの「統計エキスパート人材育成プロジェクト」における諸学術分野の29機関から参加している若手研究者と統計科学を代表するシニア研究者との価値共創が進んでいます。諸学術分野の大学院統計教員育成とそこで用いる統計教育システム開発を加速する大切な活動です。

 2022年4月から、国立大学法人・大学共同利用機関法人の第4期中期目標・中期計画が始まりました。2020年の新型コロナウイルス感染症の突然の発生から3年以上、統数研の活動も大きな制約とそれに伴う変貌を遂げてきました。2023年度はコロナ感染症による行動制限が大幅に緩和されると考えますが、新たな中期計画、新たな社会環境においても創意工夫を重ねつつ、統数研らしい研究教育活動を推進できる体制の整備、研究組織の改組を含め、所員一同、それぞれの務めにまい進してまいります。

最後になりますが、統計数理研究所のこれまでの取組みに対して、統計科学・数理科学を支える産官学の多くの皆様方のご支援をいただいてきたことにつきまして、所員を代表して厚く御礼申し上げます。今後とも、本研究所へのご理解、ご支援のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。