所長挨拶

椿 広計所長

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2021年7月1日

統計数理研究所長 椿 広計

 統計数理研究所は、1944年6月5日に設立されて以降、「現象と行動の解明と設計を目的とした統計学の理論と応用」の研究を基幹として取り組んできました。今年は設立から77年目。古来の日本の習慣では喜寿に当たる年になります。これも皆様方のご支援のおかげであり、大変ありがたいことです。所員一同、今後も各々のつとめに邁進するとともに、新たな研究プロジェクトや人材育成事業にもチャレンジしてまいります。

 データは現代社会の原資、オイルと言われ、データ駆動型社会活動のあるべき姿を世界中が模索しています。それに伴い、人々の生活も急速に変化しています。その結果として、統計科学を基幹学術とする知識価値や経済価値の生成活動は、研究者を中心とした計量諸学術の進化のみならず、社会経済活動にまで影響を及ぼす時代です。だからこそ、今、「データを適切に扱うことができる統計のスキルを持つエキスパート人材の育成」が日本国内で強く求められています。

 知識価値生成プロセスを対象とした科学、いわゆるデータサイエンスの発展と社会展開に資する連携ネットワークの形成、さらに研究所が、その同志と共に創生したネットワークについて、「学術への貢献」「データ駆動型社会への貢献」「次世代人財育成への貢献」を評価尺度として、不断のマネジメントサイクルを回すことが、大学共同利用機関だからこそ果たし得る本研究所の重要なミッションであり、歴代所長から受け継がれてきたことです。

 私は第12代研究所長としてそれらを承継し、データサイエンスの基盤数理の深化やネットワークの構築と活性化、統計人材育成者とその活動の見える化などを目指し、現在、主力事業である「NOE(Network Of Excellence)形成事業」における新分野 NOEの創成や、統計思考院を場とした「データサイエンス教員育成事業」パイロット版の試行などを方策として推進した実績を下地に、さらに、今後、高度な統計の知識を持つ「統計エキスパート人材」の育成にも尽力してまいる所存です。

 折しも昨年巻き起こった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的なパンデミックは、1年以上たった今も、変異種の出現等もあり、収束の目途が立たず、未だ先の読みにくいウイルスとの持久戦は続いています。所員一丸となってポストコロナ時代における創意工夫を重ねながら、研究活動を推進しておりますが、一刻も早く沈静化し、平穏な日常が戻ることを祈らずにはいられません。

 統計数理研究所は、長年感染症数理に関わるモデリング研究を続けるとともに、感染症シミュレーション専門家の人材育成にも尽力してきました。この困難な時期にあって、統計科学・数理科学の研究機関として、新型コロナウイルスの感染拡大抑止に資する研究プロジェクトを昨年度いち早く立ち上げました。このプロジェクトで開発した統計数理の技術が、新型コロナウイルスに限らず、今後発生するであろう新たな感染症対策の中核技術となることを目指しています。社会のための学問としての統計学、社会に役立つ統計学の研究成果を生み出していくよう、またそれを進化させるための基礎学術、そして、それをしっかり利活用できる人材を育てるために、本研究所は引き続き研究教育活動を展開してまいります。今後とも、統計数理研究所に対する皆様のご支援を賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます。

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