所長挨拶

椿 広計所長

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2019年4月1日

統計数理研究所長 椿 広計

統計数理研究所第12代所長に就任いたしました椿です。歴代統計数理研究所長が築かれた研究所の文化を引き継ぐと共に、社会で研究所が果たすべき役割を着実に果たす所存ですので、よろしくお願い申し上げます。

現在、データを原資とするデータ駆動型社会活動のあるべき姿を世界中が模索しています。それに伴い、人々の生活も急速に変化しているのです。その結果、統計科学を基幹学術とする知識価値や経済価値の生成活動が、研究者を中心とした計量諸学術の進化のみならず、社会経済活動にまで影響を及ぼす時代となりました。大げさでなく、統計数理の役割を社会の根幹に据えなければならない時代が到来しています。

統計数理研究所は、統計科学とそれに関連する数理科学に関するわが国唯一の研究機関です。しかし、この社会変革を一身に引き受けられるほどの大規模研究機関ではありません。それでも統計数理研究所が、大学共同利用機関だからこそ、果たし得る重要なミッションがあります。

それは、知識価値生成プロセスを対象とした科学、いわゆるデータサイエンスの発展と社会展開に資する連携ネットワークの形成です。更に研究所が、その同志と共に創生したネットワークについて、「学術への貢献」、「データ駆動型社会への貢献」、「次世代人財育成への貢献」を評価尺度として、不断のマネジメントサイクルを回すことです。もちろん、これは歴代所長が成し遂げてきたことを私流に承継するに過ぎません。

これを研究所長方針に落とし込めば、以下の3つです。

第1は、知識価値生成プロセスの各フェイズを支える統計数理科学あるいはそれらの共通基盤となる統計数学を国内外の研究者と共に支える研究体制を構築することです。これを通じて、データサイエンスの基礎数理を深化させます。この実現を目指して、私は、統計科学・数理科学・データサイエンスの基盤数理のロードマップを関連するコミュニティを形成したいと考えます。

第2は、統計数学・統計数理科学・その他の学術領域が、どのような融合を経て、知識価値生成プロセスに実装されるべきなのかを産官学の有力なデータサイエンティストと共に追求し、その標準シナリオを広く共有する仕組みを形成することです。これを通じて、データ駆動型時代への対応が必要な、日本の学術界・産業界等の新化を促進します。このために、NOE活動を通じて、基幹数理系研究者による領域横断的研究の深化を目指した国際ネットワークと、領域型研究者ないしは、実務家の中での統計数理コア人財を可視化し、国内領域型活動自体の新化を目指した国内ネットワークを育成します。両者の活動目的の差を明確にしたうえで、必要に応じて両ネットワーク間で情報交換し、効果的なネットワーク育成を目指します。

第3は、データサイエンスの時代を支える次世代研究者層あるいは、一般社会の中に有力なデータサイエンティスト層の育成を産官学で支援する仕組みを形成することです。これを通じて、日本に欠如しているプロフェッショナルデータサイエンティスト層を形成し、データ駆動型時代の進化に貢献します。この第1歩として、少なくとも日本国内については、統計人財育成者とその活動を見える化したいと考えています。

以上の方針を支え、来るべき社会の期待に応えるのに何より大切なことが、統計数理研究所全職員の創意にあふれる自発的活動です。それをエンカレッジすることこそ、所長としての私の最大の職務です。職員の自己実現を通じた成長こそ、研究所とそれを支えるコミュニティの成長の最も重要な原資です。

統計数理研究所は、今年75周年を迎えました。研究所の100周年には、統計数理研究所の学術・社会貢献の小さな波紋が、データ駆動型社会に生きる人々の悦びの輪に繋がるように、所員一同チャレンジしてまいる所存ですので、皆様方の叱咤・激励よろしくお願い申し上げます。