所長挨拶

English

2018年6月15日

統計数理研究所長 樋口知之

今年度でもって私が所長職を務めるのも最後となります。北川前所長から所長職のバトンを引き継いだのは、東日本大震災直後の平成23年4月でした。所長就任後まもなくビッグデータ時代が到来し、国内においては本研究所が長らく“孤軍奮闘”してきた、データに基づく意思決定ができる人材の育成がメディア等にも注目されるようになりました。さらにこの2、3年の人工知能 (AI : Artificial Intelligence) ブームにより、その基盤である統計学や数理科学にも大きな光が当たっています。たぶん今は、来年75周年を迎える本研究所の長い歴史の中で、一般の方の統計数理への理解度が最も高まっている時でしょう。このような環境の中、7年間の所長職は重責である一方、大変やり甲斐がありました。毎年厳しくなる財政状況等の理由により、外からの大きな期待には十分に応えてきたと言い難いですが、研究コミュニティ等のご支援および研究所職員の真摯な協力により、所長就任当初の目標は十分達成できたと考えております。

残りの任期もあと1年と限られていますが、本研究所のさらなる飛躍のために、2大事業であるNOE (Network Of Excellence) 形成事業および統計思考力育成事業の改革にも着手しています。一昨年度終わりに2つのNOE型研究センターを廃止し、昨年度7月に「ものづくりデータ科学研究センター」を立ち上げました。また今年度の4月には、「医療健康データ科学研究センター」を新設し、国内医学アカデミアにおける統計教育・研究支援体制の整備、および、これらの研究を担うデータサイエンス研究の高度化を推進しています。このようにNOE形成事業では、センター群の再構築を果断に行うことで、社会的ニーズにタイミングを逃さず応えつつ、新しいタイプの異分野融合研究を実践する場を提供しています。

統計思考力育成事業に関しましては、昨年度、長らく定評のあった公開講座を根本的に再検討することで、棟梁クラスのデータサイエンティストを育成するための取り組み、リーディングDAT (Data Analytics Talents) を開始しました。その中でも「リーディングDAT 養成コース」は、少人数のハイポテンシャルな人材を対象として、「リーディングDAT 講座」に加えて実践的な問題の演習や特別講演などを含めた集中的なトレーニングを行うユニークな試みです。コース履習を完了した方には修了認定証を交付する制度で、昨年度末には20数名の第一期修了生を送り出しました。現在、国公私立大学では、学部レベルから修士 (博士前期課程) レベルまでのデータサイエンスを体系的に学べるよう、さまざまな改革が進行中です。この潮流の中で本研究所は、ポスドクや若手教員をターゲットとした、社会人技術 (研究) 者のリカレント教育的性格の強い各種プログラムを強化していきます。すぐにでもデータサイエンス教育を担える人材を養成することで、喫緊の課題であるデータサイエンティストやAI人材不足に対応していきます。

統計数理のグルーバル化も研究所の発展に欠かせません。近年は、学術交流協定の数を増やすことよりも、協定の元で実施されている事業内容の充実に力を入れています。事実、ポスドクや若手教員の相互交流や、その発展形としての共同研究も大変活発になってきています。特にアジアの国々との交流には勢いがあり、URA (University Research Administrator) のメンバーによるサポートが大きな推進力となっています。外国との交流促進以外にも、教員構成の多様性を増すことで、さまざまな分野と人をつなぐ「統計数理」がその機能を十分に果たせるよう努力してまいりました。女性および外国人の雇用を積極的にすすめるとともに、定年退職者やシニア層の所外転出後には努めて若手教員を採用することを前程とした積極的な人事策を行っています。その結果、研究所もずいぶんと若々しい雰囲気に溢れ、新鮮な感覚から尖った研究が生まれそうな予感がしています。残された1年間、これまで以上に研究所および社会への貢献に努めていく所存です。引き続きご指導およびご鞭撻をよろしくお願いいたします。