所長挨拶

2012年7月20日

統計数理研究所長 樋口知之

最先端の研究開発現場からビジネスまでのありとあらゆる場面で大きな変革―『第四のパラダイム』と呼称されることが多い― が起きつつあります。それは、この一、二年”ビッグデータ”と総称される、質的に極めて多様で膨大な量のデータ群を有効利用することにより、地球から人工 物、人間にいたるまで様々な対象をモデル化し、目的に応じたより良い予測情報やサービスを提供する研究開発手段の台頭です。ビッグデータの取扱に必須の基 幹的な科学技術は、巨大データベースに関わる工学領域をはじめとして、統計科学、数理工学、機械学習、データマイニングといった『データ中心科学』研究領 域で生まれていますが、統計数理研究所はこれらの研究者が多数集結している日本で唯一の研究拠点です。

このようにデータ中心科学のプロフェッショナルの必要性が増大の一途でもあり、研究所の二大事業の一つである統計思考力育成事業の一環として、平成 23 年度に『統計思考院』を新たに立ち上げました。そこでは、一つの専門分野の深い知識を持つ大学院生、研究者、実務者を受け入れ、数理に関わる国内外の関連 機関の連携協力を仰ぎながら、第四のパラダイムを実践できるT 型人材を養成します。広範囲な研究領域をつなぐ統計数理のもつ横断的特性を十分に理解した、ビッグデータ時代における学術のキュレーター的人材(次世代司 書)が多数育っていくことを願っています。

もう一つの事業、NOE(Network Of Excellence)形成事業に関しましては、平成24 年1 月に2 つの戦略的研究センターを廃止し、統計的機械学習研究センターとサービス科学研究センターを新設いたしました。この結果、研究センターはすべてNOE 型となり、5 つの分野を主とする粒度の大きい共同研究の推進体制が整いました。最近打ち出された大学共同利用機関の機能強化の一策として、組織レベルの共同研究が奨励 されていますが、NOE 形成事業はこの潮流を先取りするものです。

昨年の震災以降、スマートグリッドを始めとしたエネルギーマネージメントや、大規模な人工物のリスク管理といった、巨大で複雑なシステムに関わる研 究の重要性が再認識されています。システム科学の基礎的研究の一翼を担う研究所として社会からの期待に応えていく所存でございますので、統計数理研究所の 活動に対する皆様のご理解とご支援をよろしくお願い申し上げます。

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