所長のプロフィール

樋口 知之 所長のプロフィール

十一代所長:樋口 知之

同氏は平成元年に統計数理研究所に入所して以来,一貫して現実の問題に即した統計的モデリング学の発展に務め, 特にベイズモデルの応用研究において優れた業績をあげている。近年は,ベイズモデルにより, シミュレーション計算と大量データ解析をつなぐデータ同化研究の日本におけるパイオニアおよび先導者として, 学術界並びに産業界においても広く認知されている。また,同氏の提案したフラクタル解析の手法は"Higuchi法"と呼ばれ, 脳波を含む様々な領域での複雑な様相を呈する時系列解析の標準的解析法の一つになっている。

同氏のリーダーシップに関しては,JST CRESTの研究代表者や, 情報・システム研究機構の新領域融合研究センターでの大型研究プロジェクトのプログラムディレクタを務める等, 研究計画の立案構想力や多くの研究者集団の指導性に優れている。 同時にそれらのプロジェクトを通して,統計的モデリングに関する多数の研究者の育成に熱心に取り組んできた。

教育においても,総合研究大学院大学の教員を長年にわたって併任するともに,東北大学(情報科学研究科連携講座教授), 茨城大学,東京大学,東京工業大学,京都大学,岡山大学,九州大学,慶應義塾大学等の大学院の非常勤講師を務める等, 後進の教育・指導に積極的に尽力してきた。現在 JSTの"さきがけ" 「知の創生と情報社会」研究領域のアドバイザも務めており, 大量データからの知識発見に関わる情報技術研究の人材育成に献身している。

これらの研究業績と情報学(とくに統計科学)に対する貢献は高く評価されており,日本学術会議・連携会員(情報学)に選出されている。 また国際的にも,学会分科会のアドバイザや国際的学術誌の編集委員を務めており,統計数理の国際交流の発展に尽力している。

所長からの談話

私が統計数理研究所に入ることを志した理由は,赤池弘次先生(2006年京都賞基礎科学部門受賞。2009年没)の情報量規準と ベイズモデリングを学生の頃勉強して,こんなすばらしい先生の元で世の中の役に立ちたいと願ったからです。赤池先生は, 私の言葉で言い表せば「モデルの使い捨て時代」を切り開いた,モデリング学の先導者です。「モデルの使い捨て」とは, 「今日のモデルはそのままでは明日のモデルにならない。モデルはどんどん改良すべし」的な, 手元にあるモデルの性能が悪ければ潔く見切ってしまうことを意味しています。モデルを乗り換えるためには, モデルを比較する道具(情報量規準)と,より性能の良いモデルを創造できる数理的な枠組み(多変量自己回帰モデルやベイズモデル等)が必要です。 赤池先生が研究第一線を退かれた後のこの20年間,モデル自体の構造がさらに高度に複雑化してきており, ダイナミックに自己変遷する機能を持つ場合もあります。今後も一研究者としては,大先輩の教えを乞いながら大学院生や研究者の新鮮な感覚に触れ, モデリングの研究に精進していきたいと思います。