私たち統計数理研究所は1944年に設立されました。当研究所では早い時点から計算機の整備を行っており、1954年にはFACOM415Aを導入しました。続く1956年に導入したFACOM128は日本の商用計算機第一号でもあります。
この計算機と同時に物理乱数発生装置として放射線源を用いるものも導入しており、その後、1963年、1971年、1989年とダイオード熱雑音をノイズ源とし、計数方式の装置を開発してきました。発生速度は順に、12,000ビット/秒、200KB/秒、1.5MB/秒でした。 1998年に速度向上と普及を目指して、発生方式を見直した際、PCIボード化とダイオードの熱雑音増幅後にA/D変換を行って一部のビットを乱数とする方式としました。 1999年の初代ボードは25MB/秒でしたが、現在は640MB/秒と世界最高速(注)を誇ります。
これらの物理乱数装置が2016年3月、(社)情報処理学会の情報処理技術遺産に選ばれたことは非常な栄誉です。分散コンピュータ博物館の一つである統計数理研究所 計算機展示室には、これらの物理乱数に関する機器以外にも、当展示室にしか残されていないような希少な機器をはじめ、当研究所がこれまで研究のために用いてきた様々な機器を数多く展示しています。
皆様のご来室を心よりお待ちしております。

[プレスリリース]統計数理研究所の物理乱数発生装置が情報処理学会「情報処理技術遺産」に認定

(注:2015年12月現在)

展示フロアのご案内

交流アトリウム
(1階)

手動式の計算機やスーパーコンピュータのモジュールといった希少な収蔵品の一部を、お気軽にご覧いただけるよう、統計数理研究所 1 階の交流アトリウムに常設展示しています。
当研究所へお越しの際には是非ご覧ください。

展示室(地下1階)

地下1階にある計算機展示室では、物理乱数装置(情報処理技術遺産)をはじめ、そろばんや計算尺から、1980年代のパソコン、さらに2010年代のスパコンのシステムボードまで、様々な計算機と周辺機器を時代の流れとともに展示しています(見学は事前のお申込みが必要です)。

サーバ、大型計算機等の画像

4

5

1

2

3

7

9

物理乱数発生装置群、スパコンノード、ソフトウェアの画像
サーバ、大型計算機等の画像

8

6

物理乱数発生装置群、スパコンノード、ソフトウェアの画像

展示品のご紹介

物理乱数発生装置群

〈情報処理技術遺産〉

物理乱数発生装置群展示品

統計数理研究所では、1956年の放射線を用いた物理乱数発生装置の開発を皮切りに、1963年からは日立製作所の協力を得て、ダイオードの熱雑音をコンパレータで計数する方式の物理乱数発生装置3台を開発しました。
1999年からは、熱雑音をA/D変換してから0と1が等確率になるように回路を工夫した乱数発生ボードを日立製作所、東芝、東京エレクトロンデバイスの協力を得て開発しています。
これらの物理乱数発生装置でシミュレーションに必要な周期性の無い乱数を得ることで、数々の優れた成果を生み出してきました。

1放射線利用物理乱数発生装置部品

製造年:1956 製造者:日立製作所

2初代物理乱数発生器部品

製造年:1963年 製造者:日立製作所

発生速度:12,000bit/秒

HIPAC103を中心としたシステムで利用

3第2代物理乱数発生機(部品)

製造年:1971年 製造者:日立製作所

発生速度:200KB/秒

HITAC8500を中心としたシステムで利用

(M280Hを中心としたシステムまで利用)

4第1世代物理乱数発生ボード 1

製造年:1999年 製造者:日立製作所(共同特許)

発生速度:25MB/秒

SR8000を中心とした統計科学スーパーコンピュータシステムに6枚のボードを装着して利用

5第1世代物理乱数発生ボード 2

製造年:1999年 製造者:東芝

発生速度:32MB/秒

ブートストラップシステム(100台のパソコンクラスタ)で利用

6第2世代物理乱数発生ボード

製造年:2004年 製造者:東芝

発生速度:133MB/秒

Altix2800を中心とした統計科学スーパーコンピュータシステムに6枚のボードを装着して利用

7JISZ9031:2001の乱数表を作成するために用いた

発生装置

製造者:泰地真弘人元助教授(現理化学研究所)

そのほかの展示品

〈1950年代〜〉

数多くの展示品の中から.お薦めをいくつかご紹介いたします。

音響カプラ付携帯端末の画像

音響カプラ付携帯端末 1974年

現在は主にイーサーネットを用いてネットワークに端末を接続していますが、30年ほど前まではモデム、さらに前には音響カプラが使われていました。音響カプラの詳細はWikipedia等を見ていただくとして、この通信速度は300ボーでした。ボーとbpsとは単位としての考え方が異なるので1ボー=1bpsではありませんが、この当時のカプラについては1ボー=1bpsと考えてもよいでしょう。この端末は非常に重く、およそ携帯には不向きですが、タイプライタ形式で前から見て左側にカプラがついていることから、初期の携帯(移動型)端末と言えます。

W. 470 D.420 H.125(mm)/ケースを閉じたサイズ

HITACHIアナログ計算パッチボード 1974年

1974年にハイブリッド計算機(アナログ部分S-300、デジタル部分HITAC10)として導入した日立製作所製のアナログ計算機S-300のパッチボードです。
同計算機は連立微分方程式を等価電気回路により解くことを目的としており、このパッチボードは解くべき微分方程式の合わせた回路を組むためのものです。
ハイブリッドとしているのは、アナログ計算機で工学プラントをシミュレートし、デジタル計算機で統計学的制御を行うためです。S-300は他に、鉄道総研に納入されたと聞いています。

W.670 D.410 H.25(mm)

視聴覚的情報検索システムの画像

視聴覚的情報検索システム 1980年

アイ電子測器製の16ビットミニコンAICOM-C6(1980年導入)を中心としたシステムです。
時系列データを解析するために、データをD/A変換してシンクロスコープにアナログ信号として表示させる、あるいは定常性を知るために音声として出力するなどを目的としました。 また、シンクロスコープを操作することで、解析する部分を選択できるようにしていました。
統計数理第33巻第1号(1985)「視聴覚的情報検索システムについて」に解説があります。

W.1600 D.770 H.1800(mm)

Os CP/M-80 V2.2 CP/M-68KとConcurrent CP/Mの画像

OS CP/M-80 V2.2 CP/M-68K 1983年(写真左)
Concurrent CP/M 1984年(写真右)

CP/M(Control Program for Microcomputers、シーピーエム)は1970年代にデジタルリサーチ社(Digital Research Inc.)が開発した8ビットCPU(主にインテル8080)用のオペレーションシステムです。
写真はSORD社製の計算機(SILTAC社製の時系列制御シミュレータとして導入)のものですが、主にはFM-New7にZ80カードを入れて、プログラム開発をしていました。
コンカレントCP/Mは別項で説明している、ハイブリッドシステムのデジタル側である、アイ電子の計算機のOSとして用いました。コンカレントなので、複数のタスクを同時に実行できるようになっていました。
CP/M-68Kは、モトローラ社の68000をCPUとする、ソード社製のパソコンのOSでした。このパソコンでは、日立の汎用機のグラフィック端末のエミュレータを作成いました。1980年前後まではMS-DOSと競合するOSでした。

アナログ計算機 EAI1000 とPC Ai-M86の画像

アナログ計算機 EAI1000 1987年(写真上)
PC Ai-M86 1986年(写真下)

アナログ計算機は現在の計算機の中心であるデジタル計算機とは動作原理が全く異なります。電気抵抗R、コイルL、コンデンサCからなる交流回路は微分方程式に対応させることができ、写真にあるように色々な素子をつなぐことで、微分方程式を表現できます。ここでは、工業プラントの動作を表す微分方程式を表現することを試みました。 Ai-M86は1986年に製造されたもので、工業プラントの統計的制御をシミュレートするために用いました。
このようなハイブリッド計算機は日立のアナログ計算機S-300とデジタル計算機Hitac-10の組み合わせで実現したものが統数研では最初です。 1987年に作られたEAI1000以降は商用のアナログ計算機は製造されていないと思います。

EAI1000(右):W.505 D.340 H.820(mm)
EAI1000(左):W.505 D.340 H.670(mm)
Ai-M86:W.134 D.670 H.630(mm)

TITANパラレル演算装置の画像

TITANパラレル演算装置 1991年

1991年に パラレル演算装置(TITAN3000(4CPU))、1992年に時空現象可視化装置(TITAN3000V(2CPU))として導入しました。
この頃は並列計算機の黎明期であり、日本の研究機関の中でも統数研の並列計算機の導入は早い方だったようです。
雲がどのようにできるかなど、分子動力学シミュレーション等のために活用され、AVSを用いた可視化も行いました。

W. 570 D.660 H.1280(mm)/1台

CRAY ORIGIN 2000 1998年

MIPS社製のCPU、R12000(クロック400MHz)80CPUからなり、計算統計学支援システムという名称で2000年に導入しました。同名のシステムの初代は1996年に導入したSP2です。 共有記憶型計算機であり、使い易いシステムでした。
SGI社がCRAY社をある時吸収していたため、正面に両社のロゴがあり、このような名称となっていますが、導入時には新しいCRAY社ができていました。 MIPS社製のCPUを使用した最後のスパコンです。

W.800 D.不明 H.1,800(mm)

スパコン CRAY XT6mとコンピュータ・ブレード X6 Compute Bladeの画像

スパコン CRAY XT6 2010年(写真上)
コンピュータ・ブレード
X6 Compute Blade 2010年(写真下)

計算統計学支援システムとして、2010年7月に導入したのが、CRAY社製のスパコンであるCRAY XT6mです。構成は2コアAMD Opteron 88CPU(44Nodes)、主記憶1.375TB、磁気ディスクアレイ LSI4998 Storage Systemとなっています。名前の通り計算機統計学の手法開発のために利用されていました。
写真は、4ノードを搭載したブレードとラック正面のパネルです。CRAY社はユーザが指定した形で表面パネルを作るサービスを行っていました。統数研のものは広尾キャンパスにあった八重桜をデザイン化したものです。CRAYアメリカ本社の上層部に気に入られたようで、ある時期、CRAY社のプレゼン資料の導入サイト一覧に1ラックであるにも関わらず紹介されていました。

CRAY XT6m:W.560 D.不明 H.1930(mm)
X6 Compute Blade:W.600 D.365 H.50(mm)