所長挨拶

椿 広計所長

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2020年6月23日

統計数理研究所長 椿 広計

 統計数理研究所は、昨年6月5日に創立75周年を迎えました。当日は、一橋講堂でオープンハウスと同時開催した記念式典・シンポジウム等に、650人を超える方々がご参加くださいました。大勢の方々からの祝福と期待、激励を受け、研究所の100周年には、統計数理研究所の学術・社会貢献の小さな波紋が、データ駆動型社会に生きる人々の悦びの輪に繋がるように、所員一同、今後も各々のつとめに邁進するとともに、新たな研究にもチャレンジしてまいります。

 データを原資とするデータ駆動型社会活動のあるべき姿を世界中が模索しています。それに伴い、人々の生活も急速に変化しています。その結果として、統計科学を基幹学術とする知識価値や経済価値の生成活動は、研究者を中心とした計量諸学術の進化のみならず、社会経済活動にまで影響を及ぼす時代となりました。

 知識価値生成プロセスを対象とした科学、いわゆるデータサイエンスの発展と社会展開に資する連携ネットワークの形成、更に研究所が、その同志と共に創生したネットワークについて、「学術への貢献」「データ駆動型社会への貢献」「次世代人財育成への貢献」を評価尺度として、不断のマネジメントサイクルを回すことが、大学共同利用機関だからこそ果たし得る本研究所の重要なミッションであり、歴代所長から受け継がれてきたことです。

 私は第12代研究所長としてそれらを承継し、マネジメントの方針に(1)知識価値生成プロセスの各フェイズを支える統計数理科学あるいはそれらの共通基盤となる統計数学を国内外の研究者と共に支える研究体制を構築すること、(2)統計数学・統計数理科学・その他の学術領域が、どのような融合を経て、知識価値生成プロセスに実装されるべきなのかの追求とその標準シナリオを広く共有する仕組みの形成、(3)データサイエンスの時代を支える次世代研究者層あるいは一般社会の中に有力なデータサイエンティスト層の育成を産官学で支援する仕組みの形成、の3つを掲げました。

 データサイエンスの基盤数理の深化やネットワークの構築と活性化、統計人材育成者とその活動の見える化などを目指し、現在、主力事業である「NOE(Network Of Excellence)形成事業」における新分野NOEの創成や、統計思考院を場とした「データサイエンス教員育成事業」パイロット版の試行などを上述の具体的な方策として推進しています。

 折しも今日は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界的に猛威を振るい、史上例をみない状況となっています。感染者数、重傷者数、死亡者数が日ごと増加し、海外諸国ではロックダウンが行われ、日本国内でも緊急事態宣言が出されるなど、先の読みにくいウイルスとの持久戦を強いられています。一刻も早く沈静化し、平穏な日常が戻ることを祈りつつ、所員一丸となって創意工夫を重ねながら、研究活動を進めてまいる所存です。

 統計数理研究所は、長年感染症数理に関わるモデリング研究を続けるとともに、感染症シミュレーション専門家の人材育成にも注力してきました。この困難な時期にあって、統計科学・数理科学の研究機関として、COVID-19に起因するさまざまなリスクの抑止に資する研究プロジェクトも立ち上げました。政府をはじめとしてこの対策に尽力している専門家集団を少しでも支援できれば幸いと考えています。引き続き、統計数理研究所に対する皆様のご支援を賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます。

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