データ駆動科学における共創型研究拠点形成事業「バーチャルラボ」を始動  ~第一弾として四つのバーチャルラボを設立~

 ISM2024-03
2024年11月1日

 2024年11月、統計数理研究所(所在地:東京都立川市、所長:椿 広計)は、産学官および国内外の研究者らが分野・組織・国境の垣根を越え、データ駆動科学の新学術創成やオープンイノベーションを推進する「バーチャルラボ」共創拠点形成事業を始動しました。Society 5.0を牽引するディープテクノロジーである人工知能(以下「AI」という。)は、科学・産業・国民生活のあらゆる領域を変革する可能性を秘めています。データ科学はその学術的基盤を担います。AIやデータ科学を取り巻く研究環境は大きな変貌を遂げつつあります。欧米やアジア諸国は、巨大IT企業を巻き込みながら膨大な研究費を投じて、AI関連の諸分野において熾烈な覇権争いを繰り広げています。このような世界の巨大プロジェクトと伍していくには、集合知を活用した共創型研究プロジェクトの構築が必要不可欠です。本事業では、戦略目標を掲げる統計数理研究所の研究者が、所内外の多数の研究者を集めてバーチャルなラボを構築します。メタバースツール等を活用しながら、従来の競争型共同研究の域を超えた強固で密な共創体制を構築することで、個では達成困難な挑戦的先導研究を推進していきます。

 本事業の第一弾として、四つのバーチャルラボを設置しました。統計的機械学習の国際共同研究拠点「統計的機械学習共創ラボ」(ラボ長:福水健次教授)では、国内外の研究者が連携して統計的機械学習分野の挑戦的研究を展開していきます。若手研究者主導で諸科学分野との学融合を図る「諸科学統計数理ラボ」(ラボ長:矢野恵佑准教授)では、様々な科学分野で現れる統計手法を議論するワークショップや統計相談といった交流を通し、統計数理を介した学融合及び諸科学の発展に資する最先端の統計数理の創発拠点を作ります。三菱ケミカル株式会社との産学共創型バーチャルラボ「ISM-MCCフロンティア材料設計拠点」(ラボ長:吉田亮教授)ならびにJSR株式会社とのバーチャルラボ「JSRスマートケミストリーラボ」(ラボ長:吉田亮教授)では、マテリアルズインフォマティクスにおける機械学習プラットフォームの開発と新材料創製を推進します。各ラボの概要は、以下の通りです。

 

  • 統計的機械学習共創ラボ
    メタバースツールを活用し、ハイブリッド形式による研究会や勉強会、滞在を併用した国際共同研究・国際ワークショップなどを通して国内外の研究者による連携と共創を深め、統計的機械学習分野の挑戦的研究を展開していきます。

  

  • 諸科学統計数理ラボ
    本ラボのメンバーはこれまで、地球惑星科学1) や核融合物理学2) といった多様な科学分野における統計数理の発展に寄与してきました。また、公募型共同研究集会3) を通じて、統計数理を軸に諸科学分野の研究者が議論できる場を提供してきました。今後、本ラボではさらに「バーチャルラボ」という仕組みを有機的に活用し、ハイブリッド型の研究集会や統計相談の場を通じて議論を一層促進し、諸科学のための統計数理の発展と、最先端の科学を通じた新たな統計数理の展開を目指します。

  

  • ISM-MCCフロンティア材料設計拠点
    統計数理研究所と三菱ケミカル株式会社は2019年に共同研究部門を設立し、これまでにプラスチックと有機溶媒の相溶性を予測する機械学習システム4) や転移学習という方法を用いたシミュレーションと実験データの統合解析技術5) 等を開発してきました。本ラボでは、これらの成果をさらに発展させて、量子化学や分子動力学に基づく全自動計算機実験と統計的機械学習を統合した材料探索プラットフォームを開発します。特に複合プラスチックのマテリアルリサイクルに資する新材料を探索します。

   

  • JSRスマートケミストリーラボ
    統計数理研究所とJSR株式会社は2020年に共同研究部門を設立し、これまでにカーネル平均埋め込みという機械学習理論に基づく材料記述子6) の開発やメタ学習という方法論を核とする外挿的予測タスクの機械学習アルゴリズム7) の研究を推進してきました。本ラボでは、これらの成果をさらに発展させるとともに、材料研究の実践に展開し、新材料開発や高品質製品製造プロセスの開発を推進します。

   

 これら四つのラボは、バーチャルオフィスツール oVice (オヴィス)を用いて構築したメタバース空間上の建物に設置されます(図1)。各フロアに設置されたラボには、ミーティングルームや雑談室、ホワイトボード等が設置されており、ラボのメンバーは日常的にコミュニケーションをとることができます。共用フロアでは、異なるラボのメンバーがセミナーや勉強会、公開シンポジウムを合同で開催します。また、共用フロアの雑談室を利用して、分野や組織の垣根を越えた交流機会の創出や共同研究シーズの育成を促進していきます。

 昨今のデータ駆動科学のように超学際的な複合領域では、小規模なグループによる競争的な研究支援プログラムで到達可能な領域は限定的になります。この限界を突破するには、広範な専門性を持つ多数の研究者が分野・組織・国境の垣根を越えて資源・知識・技術を共有し、集合知を活用した「共創」を図っていく必要があります。統計数理研究所は、データ科学分野の研究拠点として、「バーチャルラボ」共創拠点形成事業を通じて共創型研究による学理融合とデータ駆動科学における新分野創成のハブ機能を担っていきます。

     

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   図1. メタバースツールoViceを活用したバーチャルラボ

       

  1. Yano et al., Graph-partitioning based convolutional network for earthquake detection using a seismic array, Journal of Geophysical Research: Solid Earth 126, e2020JB020269 (2021). doi: 10.1029/2020JB020269
     
  2. Okuno et al., Autoregressive with slack time series model for forecasting a partially-observed dynamical time series. IEEE Access 12, 24621-24630 (2024) doi: 10.1109/ACCESS.2024.3365724
     
  3. 統計数理研究所公募型共同研究集会 [諸科学における統計思考] (代表者:横山 雅之, 所内受入教員:矢野 恵佑) https://sites.google.com/view/shokagaku/ホーム
     
  4. Aoki et al., Multitask machine learning to predict polymer–solvent miscibility using Flory–Huggins interaction parameters. Macromolecules 56, 5446-5456 (2023). doi: 10.1021acs.macromol.2c02600
     
  5. Minami et al., Scaling law of Sim2Real transfer learning in expanding computational materials databases for real-world predictions. arXiv:2408.04042 (2024). doi: 10.48550/arXiv.2408.04042
     
  6. Kusaba et al., Representation of materials by kernel mean embedding. Physical Review B 108, 134107 (2023). doi: 10.1103/PhysRevB.108.134107
      
  7. Noda et al., Advancing extrapolative predictions of material properties through learning to learn. arXiv:2404.08657 (2024). doi: 10.48550/arXiv.2404.08657

  

  

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 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所
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