第5回「赤池メモリアルレクチャー賞」受賞者及び記念講演が決定

 ISM2024-01
2024年7月18日

【概要】
 「赤池メモリアルレクチャー賞」は,2016年5月に創設されました。「赤池情報量規準(Akaike Information Criterion: AIC)」を提唱,予測の視点に基づき従来の統計理論とは異なる新しい統計モデリングのパラダイムを確立して,広範な研究分野に大きな影響を及ぼした故赤池弘次博士の功績を記念したものです。現在は,統計数理研究所と統計関連学会連合の共同事業として,2年に1度,受賞者を選出し,統計関連学会連合大会における受賞記念講演を実施しています。

 同賞の第5回受賞者は,アルノー・ドゥーセ(Arnaud Doucet)教授(オックスフォード大学統計学部教授(兼)Google DeepMind 社Senior Staff Research Scientist)に決定しました。ドゥーセ教授は,モンテカルロ法やそのベイズ統計学への応用,そして近年では機械学習の研究における国際的な第一人者であり,機械学習の技術を取り入れた先駆的な研究の革新的なアプローチで新たな領域においても顕著な成果を収め,業界の最前線を切り拓く等,赤池メモリアルレクチャー賞にふさわしい,統計科学及びその応用分野で広く国際的に活躍する研究者です。

 受賞式とドゥーセ教授による受賞記念講演(赤池メモリアルレクチャー)は,東京理科大学においてハイブリッド形式で開催される2024年度統計関連学会連合大会の期間中,9月2日(月)に開かれるプレナリーセッションとして実施されます。ドゥーセ教授は来日して会場で講演を行う予定です。

  

【受賞理由】
 ドゥーセ教授は モンテカルロ法やそのベイズ統計学への応用,そして近年では機械学習の研究における国際的な第一人者である。特に,2000年代初頭より,粒子フィルタリングにおける理論及び応用についての革新的な研究を次々と発表し,該当分野の飛躍的な進歩に寄与してきました。最近では,機械学習の技術を取り入れた先駆的な研究にシフトし,その革新的なアプローチで新たな領域においても顕著な成果を収め,業界の最前線を切り拓いています。

 2009年に統計数理研究所の特任教授として赴任した経歴もあり,その後も頻繁に客員教授として来所して共同研究を継続的に推進しています。また来日時は,統計数理研究所開催のワークショップ,セミナー,日本統計学会において講演を行う等,日本の統計科学分野の研究者との交流も大変深くあります。2023年4月からは専任で Google DeepMind社の Senior Staff Research Scientistとして学術界のみならず,産業界においても活躍しています。

 統計科学の広範な研究分野に対する顕著な国際的な貢献は,赤池メモリアルレクチャー賞にふさわしいものであり,以上の理由から,選考委員会はドゥーセ教授に第5回赤池メモリアルレクチャー賞を授与することを決定しました。

  

 第5回受賞者 アルノー・ドゥーセ教授について  

【研究業績】
 アルノー・ドゥーセ教授は,ベイズ統計学の理論と計算手法や機械学習の顕著な貢献者として広く認識されています。ドゥーセ教授はこれまでに300以上の研究論文や書籍を発表しています。特に,粒子フィルタリングとその関連技術におけるドゥーセ教授の研究は,統計学の理論と応用の両方において多大な影響を与えてきました。

 粒子フィルタリングは,欠損した変数の推測と生成とを逐次的に行う技術であり,ロボティクス,軽量経済,位置情報システムや生物医学など多岐にわたる分野で応用されています。ドゥーセ教授はこの分野で様々な研究成果を挙げています。たとえばドゥーセ教授らが開発した粒子マルコフ連鎖モンテカルロ法は,粒子フィルタリングとマルコフ連鎖モンテカルロ法が見事に組み合わされた手法であり,欠損した変数の推測とパラメータ推測を同時に行えるようにしました。現在ではこうした手法の包括的理解が進みましたが,当時は2つの手法が円滑に組み合わされることは驚きを持って受け止められました。これらの業績により,英国統計協会からの銀のガイ・メダルをはじめ,数々の賞を受賞しています。近年はさらに生成モデルや最適輸送の研究を盛んに進めており,数々の成果を挙げています。

 教育においても,ドゥーセ教授は国際的に高く評価を受けています。世界中の多くの大学での講演や若手研究者との共同研究を通じて,次世代の研究者の育成にも積極的に関与しています。ドゥーセ教授が指導した多くの博士課程の学生は,産業界や学術界で成功を収めており,その指導は多大な影響を与えています。

 ドゥーセ教授は統計数理研究所に教授として赴任するなど,日本との関係も深く,たびたび来日し,第18回日本統計学会春季集会での基調講演を始め,国内の様々な研究機関で積極的な研究発表を行っています。

 

アルノー・ドゥーセ(Arnaud Doucet)教授 プロフィール 

【現在】
イギリス オックスフォード大学 統計学部 教授
Google DeepMind社 Senior Staff Research Scientist

【略 歴】
誕生年: 1970年

学歴:
1997年 フランス パリ第11大学 博士号取得            

な職歴:
2001-2002年 オーストラリア メルボルン大学 助教
2002-2005年 イギリス ケンブリッジ大学 助教
2009-2009年 日本 統計数理研究所 特任教授
2005-2011年 カナダ ブリティッシュ・コロンビア大学 准教授
2011-現在       イギリス オックスフォード大学 教授
2019-現在       Google DeepMind Senior Staff Research Scientist (*)
 (*) 2023年4月より専任

     

第5回赤池メモリアルレクチャーの実施について

 第5回赤池メモリアルレクチャーは,統計数理研究所と統計関連学会連合が共同で,2024年度統計関連学会連合大会プレナリーセッションとして開催する予定です。
      

【セッション名】   統計関連学会連合大会プレナリーセッション
赤池メモリアルレクチャー
【講演者】 アルノー・ドゥーセ
(イギリス オックスフォード大学 教授・Google DeepMind社Senior Research Scientist) 
【題 目】 “Schrödinger Bridges - Computation and Applications”
【オーガナイザー】 鎌谷 研吾(統計数理研究所 教授)
荒木 由布子(東北大学 教授)
【司 会】 宿久 洋(統計関連学会連合 理事長)
【座 長】 椿 広計(統計数理研究所長)
【討論者】 クリストフ・アンドリュー(イギリス ブリストル大学 教授)
シュミットパル・シン(オーストラリア ウーロンゴン大学 教授)
【日 時】 2024年9月2日(月)10:00~12:00
【会 場】 東京理科大学 神楽坂キャンパス
〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3
https://www.tus.ac.jp/access/kagurazaka_campus/
現地とオンラインのハイブリッド形式で行われ,ドゥーセ教授は現地で登壇,講演します

     

詳細情報は
 統計数理研究所
 2024年度統計関連学会連合大会
の各ウェブサイトにおいて発信していきます。

    

赤池メモリアルレクチャー賞の趣旨

 赤池メモリアルレクチャー賞は,統計数理研究所と日本統計学会の共同事業の提案として2014年から企画が温められてきたものです。統計科学の分野において,多大な功績を残し, その発展に大きな影響を及ぼした故赤池弘次博士(※1)にちなんだ賞を創設し,その受賞者による記念講演(以下,「赤池メモリアルレクチャー」)を実施することで,国内外の統計科学研究者の交流の機会を設け,若手の人材育成を促進すると同時に,統計科学分野のさらなる発展に寄与していきます。2023年10月以降,本賞は統計数理研究所と統計関連学会連合の共同事業として運営されています。

 受賞者は,統計科学(制御,最適化など数理科学・数理工学分野も含む)及びその応用分野において,故赤池博士のように時代を先取り,広範囲の研究分野に影響を与え国際的に活躍された研究者の中から,2年に一度,一名が選出されます。なお,受賞者には賞金 10万円と記念の盾及び旅費が授与されます。

 赤池メモリアルレクチャーでは,人材育成の観点から,学生・若手研究者の数名を討論者として指名し,講演後に,講演者との質疑応答の機会を設けることにしています。そして,講演内容は,討論付きの招待論文として,「Annals of the Institute of Statistical Mathematics (AISM) 」に掲載されることになっています。

    

(※1)故赤池弘次博士について

 1927年11月5日静岡県で誕生し,海軍兵学校,第一高等学校,東京大学理学部数学科を卒業後,1952年に統計数理研究所に入所。

 1960年代にスペクトル解析法,多変量時系列モデル,統計的制御法,時系列解析ソフトウェア TIMSAC などの研究・開発を行って時系列解析の分野で世界を先導しました。1970年代には情報量規準 AIC を提唱,予測の視点に基づいて従来の統計理論とは異なる新しい統計モデリングのパラダイムを確立し,広範な研究分野に多大の影響を及ぼし,1980年代には,ベイズモデリングの実用化を推進し,大規模情報時代に即した新しい情報処理の方法の発展に先駆的な役割を果しました。故博士の研究論文は統計科学界において永くに渡って引用され, その研究成果は非常に高い評価を受けた証として,故博士は紫綬褒章,勲二等瑞宝章,京都賞等数多くの栄誉を受勲,受賞しました。

 1986年からは統計数理研究所長を務め,研究所の運営及び総合研究大学院大学統計科学専攻の発足に伴う大学院教育にも従事した後,1994年に任期満了退官,同年に統計数理研究所名誉教授,総合研究大学院大学名誉教授となった後も,ベイズモデル,ゴルフスイングの解析に取り組む等,過去の業績に満足することなく,飽くなき情熱を持って最期まで研究を継続しました。また,1989年1月~1990年12月の間,第19代日本統計学会会長を務めました。

 2009年8月4日茨城県で永眠(享年81)。

 なお,2017年11月5日には,世界16の国と地域で Google 検索画面に「赤池弘次生誕90周年」として,記念ロゴが掲載されました。
 (参考:https://www.google.com/doodles/hirotugu-akaikes-90th-birthday

 *故赤池弘次先生記念ウェブサイト 赤池記念館*https://www.ism.ac.jp/akaikememorial/index.html

 

   

 お問い合わせ先
   
 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所
 運営企画本部企画室 URAステーション
 〒190-8562 東京都立川市緑町10-3
 TEL: 050-5533-8580 FAX: 041-526-4348
 E-mail: ask-ura@ism.ac.jp
   

   

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