2015年度統計数理研究所夏期大学院を開催しました

2015年8月1日から10日間連続で感染症数理モデル短期コース(正式「入門:感染症数理モデルによる流行データ分析と問題解決」)と題して夏期大学院を開催しました。第2回目となる今年度の参加者は、受講者が86名、講師とチュータが28名(うち外国人特別講師が4名)を数え、いずれも第1回よりも増加しました。日本では、数理モデルを利用して、感染症流行データやウイルス実験データの分析など実践的な活用を十分に実施できる専門家が限られています。日ごろから興味があるにも関わらず、なかなか集中的に数理モデル構築から統計学的推定や予測の実装までを体系的に学ぶ機会がない方が多かった背景を鑑みて、夏期大学院では同状況の抜本的解決を目指して、入門者を実践の入り口まで案内すべく短期コースの内容を構築しました。今年度は、実習において微分方程式系モデルをBerkeley Madonnaで数値的に解いたほか、Excelソルバーを用いて最尤推定を実施したことに加え、Rを利用して同様の最尤推定や95%信頼区間の計算を再現し、Rコードへの導入も実施しました。また、確率過程の講義後には担当講師によって、流行モデルをRで実装したコードを受講者自身のコンピュータ上で実行してもらいました。約10人構成のグループワークは、数学者、計算機科学者、医師・医学部生、獣医、物理学者、保健師、生物学者など異なる学問的背景を持つメンバーで構成し、提示した原著論文を参考にしてデング熱・エボラ出血熱・H7N9型鳥インフルエンザ・H1N1-2009インフルエンザといった実践的課題に関する研究に取り組みました。

数理的知識や技術に関する背景が極めて多様な中で実践性を重視したコースを展開しましたが、西浦博代表(東京大学・准教授)は「最初は数式を見て解釈できなくても、続けていたら必ず数式自体の意味が読めるようになります。必須の数理的技術が理解できるようになるまでは、わかるまでいつまでも付き合いますので聞いて下さい。」と繰り返して運営にあたりました。それを受けて、昨年同様、日本学術振興会PDの中田行彦氏らによる高校数学から大学教養課程の数理科学の補講では夜遅くまで微分方程式の解放や行列の固有値の計算について親身になって説明が続けられました。「思考過程が一致するまで徹底的により添う」という教育手法により、途中辞退者をほぼ出すことなく無事に第2回目の短期コースを終えることができました。

来年度以降も第3回に位置づけられる短期コースの開催を検討し、専門家育成に貢献して参りたいと思います。

運営責任者 西浦博(東京大学大学院医学系研究科)
講師・運営委員 斉藤正也(東京大学大学院医学系研究科)

 

【オーガナイザー】
西浦博 (東京大学大学院医学系研究科)

 

【講義及び講義内容】
1日6コマで構成。うち4コマを講義、1コマを実習、1コマを特別講義とした。講義は感染症の数理モデルに必要な基礎技術の習得を目指し、特別講義は研究の最先端を紹介するものとした。実習は、1コマで完結する簡単なデータ解析あるいは数値解析とし、ExcelやBerkeley Madonna(対話型微分方程式ソルバー)を用いて実施した。グループワークでは10人前後のグループに分かれ、指定された論文を参考に、政府から専門家として研究課題を受け取るシナリオ想定の下で、グループ内でモデルを利用した問題解決に取り組んだ。最終日にグループワークの成果を報告する形式を取った。

※当日のプログラムはこちら からご覧いただけます。

 

当日の様子    

2015-01

グループワーク

 

2015-02

講義の様子