地磁気逆転史に「未発見の逆転」が潜む証拠 ― 高分解能調査が必要な時代を統計解析で可視化 ―

 ISM2025-09
2026年2月24日

国立極地研究所の吉村由多加特任研究員(研究当時)、国立極地研究所/総合研究大学院大学の藤井昌和助教、統計数理研究所/総合研究大学院大学の日野英逸教授、赤穗昭太郎特任教授、栗木哲特任教授らを中心とする研究グループは、過去1億5500万年間の地磁気逆転史を統計解析することで、「未発見の逆転」が潜んでいる証拠を発見しました。本成果によって、「未発見の逆転」が潜む可能性のある時代の海底や陸上露頭での高分解能な古地磁気観測が必要であることが示唆されました。今後は、地球磁場の長期的な振る舞いの理解や、地球内部変動の歴史を復元する精度の向上が期待されます。
本研究成果は2月23日に学術誌『Geophysical Research Letters』に掲載されました。

 

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本研究で復元した詳細な地磁気逆転頻度モデルを黒線で示す。白黒の帯が地磁気極性年代表(Ogg, 2020, Geologic Time Scale 2020, Elsevierのデータを用いて作図)。地球の海底構造図には、「未発見の地磁気逆転」が潜むと思われる海底の年代を色付きのエリアで示す(Müller et al., 2019, Tectonicsのデータを用いて作図)。

   

研究の背景
 身の回りでは、物が「ぎっしり」(密度が高い)か「スカスカ」(密度が低い)かは見た目で判断できます。しかし、出来事が時間軸上に点々と並ぶ時系列データでは、いつ密度が高く、いつ低いのかを客観的に示すのは簡単ではありません。そこで有用なのが、カーネル密度推定という統計手法です。各データ点の周りに“起こりやすさ(確率)”を割り当てて重ね合わせることで、時系列データの密度変化を滑らかに推定します。地磁気逆転の発生時期データの解析にも、この手法が有効です。
 地球がどのような仕組みで動いているのかを調べる「地球物理学」では、地磁気の極性が入れ替わる「地磁気逆転」が、いつ起きたのかという記録を集め、時間に沿った発生の密度(頻度の偏り)を調べる研究が進められてきました。地磁気逆転には、短い期間に集中して起きる時代(「ぎっしり」の時代)と、長い間ほとんど起きない時代(「スカスカ」の時代)があることが知られています。こうした違いは、地球マントル最深部における熱の量や分布の変化と関係していると考えられています。さらに、逆転が「ぎっしり」ある時代には、地層や海底の磁気記録を手がかりに、プレートの過去の位置や化石の年代、環境変動のタイミングなどを比較的細かく推定しやすくなります。一方で「スカスカ」の時代は、年代の手がかりが少なく過去の地球に関する復元が難しくなりますが、そのこと自体が地球内部の状態変化を示す重要な情報になり得ます。

   

研究の内容
 これまで地磁気逆転は、火山岩や堆積物、海域磁気異常(注1 ) などの地質記録をもとに、地磁気極性年代表(Geomagnetic Polarity Time Scale, GPTS)(図1 )としてまとめられています。一方で、短期間に生じた逆転や極性変化の一部は、観測や記録の限界により、これまでの GPTS に含まれていない可能性が指摘されてきました。先行研究では、適応バンド幅カーネル密度推定(Adaptive-bandwidth Kernel Density Estimation; AKDE)(注2 )と呼ばれる統計手法によって、過去約1億5500万年にわたって地磁気逆転の頻度は白亜紀に向けて単調に下がり、そこから現在にかけて単調に上がると推定されていました(Constable, 2000, https://doi.org/10.1016/S0031-9201(99)00139-9)(図2 の点線)。
 地磁気逆転頻度はコア–マントル境界(CMB)(注3 )を通じた熱流束の大きさや空間分布に影響されて変化することが数値ダイナモシミュレーション(注4 )から示されています。その熱流束を変化させるマントル対流(注5 )や真の極移動(注6 )は、数千万〜数億年かけてゆっくり動きます。そのため、先行研究で見積もられた単調な地磁気逆転頻度の変化が真の変動を示していると考えられます。しかし、従来のAKDE推定では、GPTSに含まれていない未発見の地磁気逆転が過去約1億5500万年のどの時代に隠れているのかを探すことはできませんでした。
 本研究では、過去約1億5500万年にわたる最新の地磁気逆転年代表(GPTS2020)を対象に、パラメーターを変化させたAKDEによって地磁気逆転頻度の時間変化を詳細に推定しました。先行研究ではバンド幅(解像度の指標)の初期値というパラメーターが経験則で決定されていましたが、本研究では先行研究よりも安定的にバンド幅の初期値を決定する別の方法(クロスバリデーション法、注7 )を採用し、AKDE推定を実施しました。その結果、白亜紀正極性スーパークロン(注8 )以降に、4つの明瞭な「逆転頻度の減少」を見出すことができました(冒頭の図の矢印、図2の矢印)。これらの減少は80万年以上の比較的長い地磁気逆転間隔と対応しており、逆転の密度が低いことを意味しています。さらに近年、エチオピア洪水玄武岩(注9 )の高精度古地磁気・年代測定から新たに報告された Lima–Limo 逆転(約3100万年前)(注10 )を GPTS に加えてAKDE推定を行ったところ、対応する逆転頻度の減少(約3200万年前)が滑らかになることを示しました(図2 :赤線)。この結果は、今回見出された地磁気逆転頻度の減少する4つの時代が、地磁気逆転頻度の真の変動ではなく逆転の密度の低い時代であり、その時代に未発見の地磁気逆転が隠れている可能性を示しています。

  

【今後の展望】
 本研究は、地磁気逆転頻度の見かけ上の減少を、過去の逆転現象の低下としてではなく、今後重点的に調査する必要のある時代を示す“ターゲット”として捉える新しい視点を提示しています。本研究で得られた予想は、将来の深海磁気探査や陸上の洪水玄武岩の高密度サンプリング、そして日本と欧州各国が中心となって進めている「国際海洋科学掘削計画(International Ocean Drilling Programme: IODP3)」等で海底から掘削される海底掘削コア試料に基づく高分解能な古地磁気観測によって、今回の研究で示唆された未発見の地磁気逆転イベントが検出され得ることを客観的に示すものです。

    

【発表論文】
掲載誌:Geophysical Research Letters
タイトル:Evidence for missing geomagnetic reversals from geomagnetic reversal frequency model using adaptive kernel density estimation
著者
吉村 由多加(国立極地研究所 先端研究推進系 地圏研究グループ 特任研究員(研究当時)、東京大学大気海洋研究所 博士後期課程(研究当時)。現在、九州大学大学院比較社会文化研究院 特別研究員(学振))
藤井 昌和(国立極地研究所 先端研究推進系 地圏研究グループ 助教/総合研究大学院大学 助教)
日野 英逸(統計数理研究所 教授/総合研究大学院大学 教授)
赤穗 昭太郎(統計数理研究所 特任教授/総合研究大学院大学 客員教授)
栗木 哲(統計数理研究所 特任教授/総合研究大学院大学 客員教授)
石塚 治(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 首席研究員/海洋究開発機構 客員研究員)
山崎 俊嗣(東京大学大気海洋研究所 教授(研究当時)、東京大学名誉教授/高知大学 客員教授)
Hyeon-Seon Ahn(Korea Institute of Geoscience and Mineral Resources, Senior Researcher/KIGAM school, University of Science and Technology, Associate Professor (adjunct))
Tesfaye Kidane(Wayne State University, Professor)
山本 裕二(高知大学 海洋コア国際研究所 教授)
乙藤 洋一郎(神戸大学 名誉教授/地球史研究所 所長)
URLhttps://doi.org/10.1029/2025GL120557
DOI:10.1029/2025GL120557
論文公開日  :2026年2月23日23:00(日本時間)

       

【研究サポート】
 本研究は、総合研究大学院大学データサイエンティスト型研究者人材養成システム事業、JSPS科研費(JP22K14124、JP25KJ0258、JP25K01103、JP23K22608、JP23K24909、JP25K15034)、KIGAMの基礎研究プロジェクト(25-3111-3)、情報・システム研究機構戦略的研究プロジェクト(2024-SRP-02)、東京大学地震研究所共同利用(2024-B-01)の助成を受けて実施されました。

    

【用語解説】

注1:海域磁気異常
海底を構成する岩石に記録された過去の地磁気によって生じる、海洋域で観測される磁場のわずかな変化のこと。海底が形成される際、溶岩が冷えて固まると、その時点の地磁気の向きが岩石に記録される。地磁気が逆転すると、その記録の向きも反転するため、海底には磁場の強弱が帯状に並んだ縞模様が形成される。これらの磁気異常は、船舶による磁気観測で捉えることができ、南極観測船「しらせ」でも、地磁気の3成分の変動として観測されている。こうした観測は、地磁気逆転の時期や海洋プレートの拡大史を復元する重要な手がかりとなっている。

注2:適応バンド幅カーネル密度推定(AKDE)
ある現象の発生時間のデータの密度を考慮して、その全体的な傾向を滑らかな曲線で描き出す統計手法のこと。データが密集している場所では「細かく」、データがまばらな場所では「滑らかに」というように、データの密度に合わせて分析の解像度(バンド幅)を自動で調整するのが特徴。これにより、解像度が固定されているシンプルなカーネル密度推定よりも詳細な特徴を表現することができる。

注3:コア–マントル境界(CMB)
岩石層であるマントルと液体層であるコア(外核)の境界のこと。マントルは沈み込んでいく海洋プレートや高温の上昇流(プルーム)によって、コア–マントル境界は熱的・化学的に不均質な状態となっており、それが地磁気の性質に大きな影響を及ぼすと考えられている。

注4:数値ダイナモシミュレーション
現実には実験で再現することが難しい地球の外核で起きている液体金属(鉄・ニッケル)の動きを、スーパーコンピューターで再現する数値実験のこと。その外核の液体金属の動きから地磁気がどのようにして発生し変化するかを調べ、仮想的に地球のコアと地磁気の変動を観察することができる。

注5:マントル対流
マントルは固体であるが数億年規模で対流している。沈み込んだ海洋プレートのような冷たいマントルは地球中心へ、高温上昇流であるプルームのような熱いマントルは地表の方へ移動する。この働きにより、地球内部の熱は深部から浅部へと効率的に輸送され、その結果、地表を通じた熱放散によって地球は長期的には冷却傾向にある。

注6:真の極移動
地球の重さの偏りが原因で発生する、自転軸に対して地理的な北極・南極の位置が地表上でゆっくり移動する現象のこと。大陸が動くのではなく、地球全体が回転するコマが揺れ動くように向きを変える。それにより、コアに対するコア–マントル境界(CMB)の熱・化学的不均質の分布が変化し、地磁気逆転の発生頻度が影響を受ける。また、気候や生き物の分布にも影響する。

注7:クロスバリデーション法
クロスバリデーション法は、データを複数に分割し、交互に学習・評価してモデルの予測力を測る統計手法。過学習を防ぎ、少ないデータでも信頼性を向上させることができる。機械学習・AI分野において活用が進んでいる。

注8:白亜紀正極性スーパークロン
1960年〜1970年代に初めて確認された、約1億2100万年前から8300万年前の約3700万年間続いた地磁気逆転がほとんど発生しない特異な時代のこと。この期間に形成された海底には磁気異常の縞模様が確認できず、その期間の海洋プレートの拡大史の復元を妨げている。

注9:エチオピア洪水玄武岩
エチオピア北部に分布する3400万年前から1500万年前に、アラビア半島とアフリカ大陸の分裂に先駆けて噴出した、連続的に溶岩が積み重なった巨大な火山性台地のこと。マントル内の高温の上昇流(プルーム)が地表に到達した際に巨大な火山活動の結果形成された。この連続的な溶岩の積み重なりは、過去の地磁気の振る舞いも連続的に記録しているため、古地磁気学の研究として有用である。

注10:Lima-Limo逆転
エチオピア洪水玄武岩の中腹から2021年の古地磁気研究(Ahn et al., 2021, https://doi.org/10.1093/gji/ggaa557)と2023年のアルゴンーアルゴン年代研究(Yoshimura et al., 2023, https://doi.org/10.1029/2022GL102560)によって発見された、地磁気極性年代表(GPTS)に登録されていない4つの地磁気逆転のこと。

  

【図】

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図1:地磁気極性年代表を図示したもの(Ogg, 2020, Geologic Time Scale 2020, Elsevierのデータを用いて作図)。黒色が現在と同じ地磁気極性、白色が現在と逆の極性を示す。今回発見された「未発見の逆転」が潜むと予想される年代を黄色の点線で囲っている。

   

   

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図2:滑らかな地磁気逆転頻度(黒の点線)(Constable, 2000のデータに基づき作図)と、本研究で推定された詳細な逆転頻度(青線)(地磁気極性年代表:Ogg, 2020, https://doi.org/10.1016/B978-0-12-824360-2.00005-Xのデータを利用)。赤線は近年発見された新しい地磁気逆転(Lima-Limo逆転:Ahn et al., 2021, https://doi.org/10.1093/gji/ggaa557; Yoshimura et al., 2023, https://doi.org/10.1029/2022GL102560)を加えたOgg (2020)の地磁気極性年代表に基づく逆転頻度。下部の黒い縦線は地磁気逆転が発生したタイミング。 

   

 お問い合わせ先

   
【研究内容について】
 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所
 特任教授/総合研究大学院大学 客員教授
 栗木 哲(くりき さとし)
 E-mail: kuriki@ism.ac.jp

 【報道・広報について】
 統計数理研究所 運営企画本部 企画室URAステーション
 TEL:050-5533-8500(代表) E-mail:ask-ura@ml1.ism.ac.jp
 〒190-8562 東京都立川市緑町10-3
   

   

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