第4回思考院セミナー(ハイブリッド開催)
- 【日時】
- 2025年11月20日(木)16:00〜17:00
参加無料 - 【場所】
- 統計数理研究所 セミナー室4
(zoomでの参加登録はこちらから) - 【講演者】
- 大久保 裕作 (岡山大学)
- 【演題】
- 生態学における個体群サイズ推定のための二段階推定法とロバストな誤差評価
- 【概要】
生態学において、ある個体群(population)に生息する生物の総数(個体数)を推定することは、最も基本的かつ困難な課題の一つである。自然環境下で全個体を完全に把握することは非現実的であるため、限られた時間・人員・倫理的制約のもとで個体数を推定するための多様なサンプリングプロトコルと統計的推定法が提案されてきた。これらの方法では一般に、推定精度と調査コストの間にトレードオフが存在する。そこで研究者は、低コスト・低精度な方法で得られた大量のデータを、少数の高コスト・高精度なデータと比較・統合することで“キャリブレーション”を行い、より合理的な個体数推定を試みてきた。
しかしながら、2種類のサンプリング過程を同時に実施する場合、観測対象への影響や観測者効果などにより両手法の間に“交互作用”が生じ、結果としてキャリブレーションにバイアスが入り得ることが指摘されている。本講演では、このような状況に対応する新たな統計的推定法を提案する。まず、個体数推定に広く用いられてきた N-mixture モデルの構造を概説し、その統計的性質を整理する。次に、検出率の異なる二種類のサンプリングスキーム(例:高精度・高コスト法と低精度・低コスト法)を統合的に扱う拡張モデルを構築する。数値実験の結果から、このモデルでは検出率推定にバイアスが生じ、信頼区間(確信区間)の被覆率も名目水準を下回ることを示す。最後に、この問題を緩和するための二段階推定法と、その標準誤差をロバストに評価する手法を提案し、シミュレーションおよび実データ解析を通じてその有効性を検証する。


