数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 情報セキュリティにおける数学的方法とその実践
採択番号 2016W13
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、計測・予測・可視化の数理 、最適化と制御の数理
キーワード 暗号理論 、サイバーセキュリティ 、ビッグデータ 、代数幾何 、組合せ論 、力学系 、量子コンピューティング
主催機関
  • 北海道大学大学院理学研究院数学部門
  • 北海道大学電子科学研究所社会創造数学センター
  • 北海道大学 Global Station for Big Data and Cybersecurity, GI-CoRE
  • 産業技術総合研究所情報技術研究部門
運営責任者
  • 大本 亨
  • 縫田 光司
開催日時 2016/12/19 09:50 ~ 2016/12/21 15:00
開催場所 北海道大学理学部4号館5階501教室
最終プログラム

~情報セキュリティにおける数学的方法とその実践~

Mathematical methods and practice in cryptography, security and bigdata

 

1219日(月)

09:50 - 10:00 ご挨拶 大本 亨(北大・理)・縫田光司(産総研/JSTさきがけ)

10:00 - 10:50 縫田光司(産総研/JSTさきがけ)

       Cryptography, Information Security, and Mathematics: Recent Advances (スライド20161219_Nuida

11:00 - 11:50 清水佳奈(早稲田大・基幹理工)

       準同型暗号による生命情報の秘匿検索(スライド20161219_revised

14:00 - 14:50 須賀祐治((株)インターネットイニシアティブ)

       クラウドストレージの外部操作に適した秘密分散方式

15:10 - 16:00 秋山浩一郎(東芝・研究開発センター)

       不定方程式の最小解問題に基づく準同型暗号

16:10 - 17:00 山岡雅直(北大・電子研MSC/日立基礎研)

       組合せ最適化問題に適した新概念イジングコンピューティング

18:00 - 20:00 懇親会

 

1220日(火)

10:00 - 10:50 荒井 迅(北大・理)

       On topological tools for network analysis (スライドzin_Dec_2016

11:00 - 11:50 有村博紀(北大・情報/GSB, GI-CoRE

       準同型性暗号と非決定性オートマトンを用いたメモリと時間効率の良い秘匿正規表現照合

       (笹川裕人,原田弘毅,Dave duVerle,佐久間淳,津田宏治との共同研究) 

12:05 - 12:30 辻栄周平,黒田匡迪(北大・理)

       A generalization of almost perfect nonlinear functions (スライド tsujie_kuroda_talk

 14:00 - 14:50 高島克幸(三菱電機・情報技術総合研究所) 

       格子と同種写像に関するアルゴリズムの耐量子暗号への応用(スライド 1f220534ba6f84164f284c5134f6f4a2

15:10 - 16:00 徳永浩雄(首都大・理工)

       A remark on Vanishing Component Analysis via (Hyper)graphs

16:10 - 17:00 Relinde Jurrius (Univ. Neuchatel, Switzerland)

       An introduction to error-correcting codes and some current-day applications (スライド Jurrius1

 

1221日(水)

09:30 - 10:20 鍛冶静雄(山口大・理/JSTさきがけ)

       行列の極分解について (スライド Hokudai2016

10:30 - 11:20 前野俊昭(名城大学・理工)

       Polynomial expressions of auction functions

12:40 - 13:30 Relinde Jurrius (Univ. Neuchatel, Switzerland)

       Application of hyperplane arrangements to error-correcting codes (スライド Jurrius2

13:40 - 14:30 沼田泰英(信州大・理)

       計算代数学の数理統計への応用について

 

 

参加者数 数学・数理科学:28、 諸科学:、 産業界:4、 その他:
当日の論点

情報セキュリティ,データサイエンス,IoT分野等において展開されている数学的手法およびその今日的・将来的な課題について紹介し,討議を行った.準同型暗号に関する話題を中心に,第一線の研究者による講演とそれに伴う活発で長めの質疑応答により,求められる数学的課題の本質について理解を深めた.また,暗号理論に限らず,応用が期待される純粋数学の種々の理論や技法に関して,数学者,工学者,学生の間におけるブレインストーミングを通して,現実問題への新しい適用可能性について模索した.

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

クラウド上で秘匿性を保持したままデータを解析するために,暗号化と種々の演算操作がある種の可換性をもつような準同型暗号が,現在たいへん注目されている.有力なものは格子暗号であるが,その安全性の根拠となる格子の最小ベクトル探索問題に対する解析手法の発展に伴い,公開鍵サイズの増大が懸念されている.これに対して,代数曲面暗号系(関数体上のデオファントス問題の一種を安全性の根拠とする準同型暗号)が提案され,いくつかの攻撃に対する対処法と鍵サイズの評価について現状の報告がなされた.また,準同型暗号による生命情報分野におけるゲノム配列の秘匿検索技術や,非決定性オートマトンを用いた時間効率のよい秘匿正規表現のマッチング手法など,準同型暗号の具体的実装に関する研究が進められている.このような個々の問題での実装面において,計算量爆発を避ける技法の開発は今後も重要な課題である.暗号理論以外への新しい切り口として,トポロジーや代数幾何の応用についても多数の話題を扱った.すなわち,ホモロジー理論のネットワーク解析への応用,誤り訂正符号のクラウド・ネットワーキング等の応用,グレブナー基底の代数統計への応用(正則勾配法),アフィン群のリー環の表現のコンピュータグラフィクスへの応用について,どのようなタイプの問題が枠組みに乗るか,どのように効率性が高められるか,などに焦点を当てて議論した.

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

広く利用されている公開鍵暗号であるRSA暗号等は,量子コンピュータが実用化されたならば容易に破られてしまう-すなわち,Shorの量子アルゴリズムによって,素因数分解や離散対数問題さらにアーベル群の隠れ部分群問題等が効率よく解かれてしまうためである.そこで次世代型の暗号技術においては,耐量子計算性を評価することが最も重要な課題となる.例えば,格子の最小ベクトル問題,不定方程式の最小解問題,楕円曲線間(さらに高種数曲線間)の同種写像の逆計算問題に依拠した暗号技術が有力である.代数曲面暗号や同種写像暗号については,代数曲線のモジュライ空間が持つ豊富な数学的構造を背景にして大いに発展する可能性がある.セキュリティ技術では,近年,クラウドストレージにおける秘密分散方法が広く関心を持たれている.クラウド上のデータ委託においても秘匿性や準同型性および処理速度や安全性が問題となる.排他的論理和のみを用いて構成される秘密分散方法はその意味で極めて有用であり,セキュリティ技術分野における数学の可能性を示唆している.ビッグデータ関連では,イジング・モデルへのマッピングを基に組合せ最適化問題の近似解を求めるローコストで実用的な古典的コンピューティングが提案された.この技術が効果的に扱える問題群の類型化とグラフ埋め込み問題等が数学的な課題として挙げられる.また,純粋数学サイドからは,ヒルベルト基底定理とマッチング手法の融合,超平面配置の組合せ的・代数幾何的不変量の誤り訂正符号理論における利用方法,有限体上の関数の明示的な多項式表示,非線形関数の個数評価について,新しい結果が報告された.これらは純粋数学の有用性を端的に示す萌芽的研究であって,これから発展する余地が十分にある.従来の数学的価値観とは異なり,社会的価値,効率性,安全性,実用性,汎用性など種々のファクターを通して数学概念・理論を見直すことで,新しい数学的関心が掘り起こされ,新しい応用研究が開拓される.この意味で,今回の集会で扱った題材とその方向性は十分に手応えがあったし,本企画に対するアンケートにおける評価もたいへん肯定的であった.

今後の展開・フォローアップ

北海道大学では,数学・数理科学関連として,理学研究院数学部門のほか,昨年度に発足した電子科学研究所附属社会創造数学研究センター,今年度設立した情報科学研究科Global Station for Big Data and Cybersecurityの3部局がある.今回の研究集会は,これらの部局に加えて産業総合研究所の情報技術研究部門の協力のもとに開催された.今後,上記3部局において,数学,数理科学,計算機科学,データサイエンスを研究する教員群が院生を巻き込んだブレインストーミングを通して,新しい応用研究領域を拡げるべく,交流活動を進めることが期待されている.暗号分野においては産総研の協力,さらに広い領域で九大や阪大等の数学・数理科学ネットワークからの協力を仰ぎ,この活動を育てて行きたい.特に,従来の(縦割りの)カリキュラムやキャリア・パスからはみ出して,数学系の若手研究者・院生に新しい応用領域への関心や挑戦する意志を引き起こし,応用系の若手研究者・院生に抽象的な数学概念や理論の有効性を説くことが重要と考える.