数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 数理科学の視点からみた生体・細胞システムの理解と制御方法の検討-地域包括ケア支援システムの構築に向けた医療ビッグデータを利活用するための数理モデルの開発を例に
採択番号 2016W15
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 形の数理 、確率過程論 、微分位相幾何学 、時空間ダイナミクス 、細胞運動ダイナミクス 、創発性 、知能システム 、ウェアラブル機器 、予防医学 、健康増進
主催機関
  • 福井大学大学院工学研究科プロジェクト研究センター次世代プロジェクト 「数理科学と生体医工学・産業との連携による数学イノベーションの推進エンタプライズ」
運営責任者
  • 高田 宗樹
  • 平田 隆幸
開催日時 2016/08/10 00:00 ~ 2016/12/28 00:00
開催場所 第1部 福井大学文京キャンパス・アカデミーホール
第2部 ①福井大学文京キャンパス/②名古屋市立大学北千種キャンパス/➂明治大学駿河台キャンパス/④福井大学文京キャンパス
最終プログラム

■第1部・総論; キックオフシンポジウムPoster
平成28年8月22日(月)福井大学文京キャンパス・アカデミーホール 於
8:30-10:30 一般向け講演(IEEE ICCSEとの共催)
1. Shaping Dialogues with a Humanoid Robot Based on an E-Learning System, 1_MatsuuraShu

Shu Matsuura1), Motomu Naito2)
1) Faculty of Education, Tokyo Gakugei University, Koganei, Tokyo, Japan. 
2) Knowledge Synergy Inc., Takahama, Aichi, Japan.


2. A method to construct Mathematical models of time series data in dual spaceH280822_1_Takada
Hiroki TAKADA 
University of Fukui, 3-9-1 Bunkyo, Fukui, Japan.

 

3. How to Develop Students’ Creativity?~A Case of Student Competition of Biomolecular Design, 3_Murata

Satoshi Murata, Ibuki Kawamata, Shin-ichiro M. Nomura Department of Robotics, Graduate School of Engineering, Tohoku University. 

 

4. The Longitude Problem as the Unification of Space and Time -With Special Application to the Island of St Helena, 4_Sugimoto
Takeshi Sugimoto,
Department of Information Systems Creation, Kanagawa University, Yokohama, Japan.

 

5. Information Reduction for Chaotic Patterns, 5_Hidaka

Yoshiki Hidaka1), Noriko Oikawa2), Kosuke Ijigawa1), Hirotaka Okabe1), and Kazuhiro Hara1)
1) Faculty of Engineering, Kyushu University, Fukuoka, Japan.
2) Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Metropolitan University, Tokyo, Japan.

 

6.Form of Flow Chart to Hand Down Expertise and Skills6_Kinoshita
Meiho Nakayama 1), Takuya Imaeda 2), 〇Fumiya Kinoshita 3), Nakano Natsuko 1), Hiroki Takada 2)
1) Good Sleep Center, Nagoya City University, Nagoya, Japan.
2) Graduate School of Engineering, University of Fukui, Japan.
3) Institute of Innovation for Future Society, Nagoya University, Japan.

  

11:30-13:00 問題意識と課題の共有
 運営委員会(目的意識と解題の共有など)
   
    
■第2部・各論;ワークショップ

①講演会

12月16日(金) 福井大学文京キャンパス・総合研究棟I大1講義室 於

13:00-14:30

「脳機能の細胞レベルの理解 -数理科学からのアプローチの可能性ー」Mikami(※)

     三上章允氏(京都大学・名誉教授)


②ミーティング
12月19日(月)名古屋市立大学大学院芸術工学研究科M102 於
17:00-21:00 運営委員会・目的意識と解題の共有、今後の方針を議論名古屋大学大規模実験まとめ

 

③ソーシャル・キャピタルに関するワークショップ

12月24日(土)明治大学駿河台キャンパス・グローバルフロント3階4031教室 於
10:40-12:00 司会:高田宗樹(福井大・工)

10:40 研究総括

                    高田宗樹(福井大学学術研究院工学系部門)

10:50  研究報告「地域包括ケアシステムの政策」予稿2

      小森雄太(明治大学政治制度研究センター)
      五條理保(明治大学政治制度研究センター)

11:10  研究報告「VR による地域医療および地域包括ケアシステム」予稿3
      松浦康之(プリンスオブソンクラー大学人文社会科学部)


11:25 研究報告「Apple Watch を利用した地域包括ケア支援システムの構築に向けた医療ビッグデータを利活用するための研究提案」予稿4
      木下史也(名古屋大学COI)


11:45 研究報告「地域包括ケアシステムの実践」予稿5
      〇高田真澄(中部学院大学看護リハビリテーション学部)

        小池万智子 (東白川村在宅介護支援センター)

        安江悦子 (元東白川村地域包括支援センター)

        瓜巣敦子(中部学院大学看護リハビリテーション学部)

        宮田延子 (中部学院大学看護リハビリテーション学部)

 

企業からの資料提供:株式会社EggBrain・視空間工房株式会社ソーシャルキャピタル講演会_6


④ミーティング
12月25日(日)福井大学文京キャンパス・総合研究棟I 6F0612 於
 10:00-12:00 運営委員会・とりまとめに関する議論3_Matsuura

 

(※)研究倫理に関する話題提供を含む

参加者数 数学・数理科学:27、 諸科学:66、 産業界:2、 その他:0
当日の論点

 日本の高齢化率は今後も上昇することが見込まれており、2025年には約30%、2060年には約40%に達すると見られている。また、75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されている。さらに、日本は急峻な地形を有し、かつ地震や台風、津波などの自然災害の多い国である。そこで、今後、これまで以上に各地域で包括的な生活支援やサービスの提供(地域包括ケアシステム)が望まれている。しかし、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築にあたっては、生活する高齢者個々人の生体データの取得と解析・評価(医療ビッグデータの利活用)が求められているが、医療ビッグデータの利活用は緒についたばかりで、有効な評価手法の開発が試行錯誤されている。

 本ワークショップでは総論・各論の2部構成をとり、第1部ではソーシャルネットワークの分析、ナノマシン制御、液晶対流にみられるカオス現象などの先端分野で広く利用されている「形の数理」について紹介を行った。加えて、従来、不確実な直感や想像に基づき経験的にしか扱えなかった複雑・多次元・非線形な現象や、現実の制約により実験や観測が不可能な現象を、数理モデル化を通じて解明しつつある例を集約することについて議論を行った。第2部では、地域包括ケアシステムへの応用を目的とした話題に焦点をあてて、簡易医療測定機器やウェアラブル機器によって得られた医療ビッグデータを利活用するための数理モデルの開発についての検討と多面的な議論を進めた。

 尚、本ワークショップでは生体を扱うため、医師による研究倫理に関する講習を含めた。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

1. 当日の論点でも述べた先端分野で現れる「形」に共通の点は、多数の要素から成り立ち、それらが複雑な配置をとることである。集合体の典型である生物や体内の器官においても、機能と形が密接に関係している。それらの働きを研究するときは、形を定量的に記述する方法を探る必要がある。加えて、画像処理やパターン認識の情報に関する科学・技術が必要になる。都市や地域、組織などの社会構造にも、自然の分岐現象にみられるスケーリング則がしばしば観測されている。これは3項で触れる過疎化が進んだソーシャルネットワークを、今後、分析する際にも有用であることが議論された。研究対象で分類される従来の科学の枠組みを越えて、「形」という概念を中心とした学際的な科学や「形の数理」の確立に関する重要性を再認識した。

2. ウェアラブル機器を用いた実機実験では、データの精度にばらつきがあった。また、実験室環境と実利用の環境では条件などが異なる。例えば、木下史也氏(名古屋大学)からの報告では、Apple Watch と脈波計から記録した心拍数とR-R 間隔の経時変化を統計的に比較・検討した結果、心拍数においてはウェアラブル端末と脈波計の形状はほぼ一致した。一方、ウェアラブル端末より得られたR-R 間隔では細かいゆらぎ成分が消失した。

 ウェアラブル端末の多くは、心拍数を計数する際、体動などの外乱の影響を最小限に抑えるために数秒間の平均値を心拍数として表示している。また、外乱の検知には3軸方向の加速度センサが用いられ、外乱検知時の心拍数はその計数から除外される。心拍数の表示には整数表示で用いられるが、心拍数の整数表示は微少な変動をみる自律神経機能検査には難しいと想定された。4_Kinoshita

3.「ソーシャル・キャピタル」なる概念は物的・人的資本に並ぶ新しい概念として案出されており、欧米ではこれに関する数値化や、幸福度・生命表との相関が統計学的に議論されはじめている。5_MTakada本邦の数理科学もこうしたパラダイムシフトに追従・リードする必要がある。本ワークショップでは、地域包括ケアシステムに焦点をしぼって話題提供・討論を行った。実際に、社会実装を目指して取り組んでいる企業参加もあり、認知症予防のためのVR技術に関する資料の提供があった。そこで利用されている時系列解析法や直面する課題が提起された。企業資料また、小森雄太氏(明治大学)からは地域包括ケアシステムに重要な政策的課題から討論を行い、「ソーシャル・キャピタル」と人との関わりを定量化する指標としてのリワードというアイデアが案出された。ウェアラブル機器を用いた健康管理の現状と課題

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

1.一般的な医療データとウェアラブル機器を用いて測定したデータでは、データの前処理方法ならびに統計モデルが異なってくる。

 人間医工学では時系列データを計測して状態を把握することが多い。そこで、申請者らが研究した「確率微分方程式における有効ポテンシャルと確率密度関数との対応」に関する知見は、生体システムの数理モデル化に有効であり、その推定及び理解には不可欠である。ウェアラブル機器によって得られた医療ビッグデータを利活用する際においても、この確率過程論的なスキームは有用であると考えている。そこでは、時系列を生成する確率過程がa)マルコフ性、b)遷移確率のモーメントに関する収束性、を仮定している。確率微分方程式の強制項にある場の関数を、時系列データに基づき多項式にて近似する。その回帰を行う際には、有効ポテンシャルの構造安定性を仮定し、決定係数の下限を定めた。ただし、ここで得られる数理モデルは雑音振幅係数を1とするランジュバン方程式であり、前処理段階において時系列データのある種の規格化を施すことが必要である。しかし、生体時系列データが2次元以上である場合や、生体負荷の比較検討を行う場合には、規格化を施すことが必ずしも適当でないことがある。そこで、本ワークショップでは、昨年度に引き続き、雑音振幅係数が

①任意の定数である場合、

②空間変数に依存する場合、

について検討した。①については、数値解析の併用で時間的な階層性を議論できる新しいスキームを構築できた。特に、数値解の評価法・評価指標に関する議論を行った。この工夫によって、数値解のグラフが測定データのグラフに近づくことができたのは、一歩前進であると考えている。

2.ウェアラブル機器によって測定されたデータに対する可視化処理手法の改善点が指摘された。そのため、可視化処理手法の開発および、それを踏まえた各現象の数理モデリングのあてはめが今後、必要になる。

ウェアラブル端末から出力される心拍数の情報は整数表示のため、微少な変動をみる自律神経機能検査には難しいと想定される。しかし、ウェアラブル端末においても一般医療機器認定のある脈波計と同様な傾向を示したため、今後、詳細な検討やこれに適合した数理モデルの構築によって、今後広範な利用の可能性が得られた。

 実機実験結果から近似式の推定はできたが、数値シミュレーションのパラメータが実用可能なレベルまで精度が上がっていない。測定方法やデータ取得方法を工夫する他に、次項で述べるような確率過程論における理論的再考察を行うことによって、統計モデルを得られる可能性を得た。実際に、図形パターンの計量では統計学的に判別不能な場合についても、その図形パターンを生成すると考えられる確率微分方程式による数理モデル化・数値解析を行うことにより、最適な雑音強度や時間ステップなどの因子を推定することができた研究成果がある。これにより、様々な負荷が生体へ及ぼす影響を高精度に計量することができる。

今後の展開・フォローアップ

1. 今回のワークショップによって、一定の成果が得られたものや議論の方向性が定まったものなどについては、今後も定期的に議論を重ね、国際会議や学会誌で論文掲載に向けて努力する予定である。運営責任者は形の科学出版幹事であり、国際誌Formaの編集委員を兼ねている。昨年度に引き続き、本研究会の講演者を中に特集号を組み、その記録を残す予定である。形の科学会では合宿型の研究集会を企画することもできるため、次度以降も、福井学院学研究科次世代プロジェクト「数理科学と生体医学・産業との連携による数学イノベーションの推進エンタプライズ」等の支援を受けて、これまで蓄積してきた知見を発展させていく。

2. ウェアラブル機器について、活用法の多様な提案があった。これらの実応用のためには、基礎データの蓄積とフィードバックを行い、信頼性の高い数理モデルを作成する必要がある。今回議論できなかったシステムを構成する各要素の数理モデル化やデータの信頼性評価手法と言った視点も加えながら、セミナーやワークショップなどの会合を開催し、継続的な課題解決の討議を行う。

 生体制御を対象とし、その分析手法としての数学・数理科学に関するワークショップにスピーカー以外の企業参加が見込まれるようになったことは、本数学協働プログラムの成果であると考えている。