数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 MI^2(情報統合型物質・材料開発)と数学連携による新展開ワークショップ
採択番号 2015W12
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、疎構造データからの大域構造の推論 、計測・予測・可視化の数理 、最適化と制御の数理
キーワード マテリアルズ・インフォマティクス 、蓄電池材料 、磁石材料 、スピントロニクス材料 、伝熱制御材料 、熱電変換材料 、統計的学習 、スパースモデリング 、トポロジー 、オントロジー 、逆問題数理 、データ同化 、数理論理学
主催機関
  • 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
  • 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
運営責任者
  • 寺倉 清之
  • 河西 純一
開催日時 2016/02/26 09:50 ~ 2016/02/26 18:00
開催場所 JST(科学技術振興機構)東京本部 本館 B1ホール
〒102-8666東京都千代田区四番町5-3サイエンスプラザB1ホール(130名収容)
http://www.jst.go.jp/koutsu_map.html
最終プログラム

20160226_数学協働プログラムワークショッププログラム(全文)

【プログラム】

9:50~ 主旨説明 寺倉清之(物質・材料研究機構 情報統合型物質・材料研究拠点)

10:00~ ビッグデータ応用の展開と課題:ガンの個別化医療と都市除排雪への応用を事例として

      田中 譲(北海道大学 知識メディア研究室)

10:40~ 簡便エミュレーションによる実験計画のスマート化

     樋口知之(統計数理研究所) 

11:20~ Natural processes and scientific reasoning

       R. Vestergaard   

12:00~ 製造プロセスにおける数理的研究の現状と、数理科学と物質・材料の連携の展開について

       中川淳一(新日鐵住金先端技術研究所 数理科学研究部)

         昼食休憩 12:40~13:40  

13:40~ 大規模数値シミュレーションによるものづくりの革新 ~京の成果と今後の展開~

       加藤千幸(東京大学生産技術研究所)   

14:20~ 数学・材料科学連携による構造・機能・プロセスの理解への挑戦

       小谷元子(東北大学 AIMR)   

15:00~ 数値解析学から見た計算手法の高精度化・高効率化の取組み、および物質・材料との連携へ向けた展開

       田上大助(九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所)

         休憩 15:40~15:55

15:55~ マテリアルズ・インフォマティクス:分野の特色と課題

       Dam Hieu Chi(北陸先端科学技術大学院大学)  

16:35~ 人工知能技術の発展と最近の動向

       麻生英樹(産業技術総合研究所 人工知能研究センター)  

17:15~ 材料科学分野の数理との連携に関わる動向および潜在的可能性

       松江 要(統計数理研究所 統計思考院 / 数学協働プログラム)  

17:40~ まとめ 伊藤 聡(JST CRDS)

参加者数 数学・数理科学:10、 諸科学:25、 産業界:56、 その他:22
当日の論点

ビッグデータ応用の展開と課題:ガンの個別化医療と都市除排雪への応用を事例として

田中 譲:講演資料:01_田中_数学協働プログラムワークショップ講演資料

ビッグデータの持つ本質的な意味を議論し、どのような対応が求められるかについて、一般的考察を加え、講演者が関わってきた関連プロジェクトにおいて、それらがどのように実行されてきたかを説明した。また、それら全体の中で、物質・材料研究における本質的な問題点を議論した。

簡便エミュレーションによる実験計画のスマート化

樋口知之:講演資料:02 MI2I数協160226_樋口

まず、シミュレーションに含まれる本質的な不定性と誤差の集積を補正するために用いられるデータ同化の概念を説明し、欧米で進められている Uncertainty Quantification を紹介した。また、原理による予測が困難な現象を模倣するエミュレーションの概念と、その方法論を説明した。

Natural processes and scientific reasoning

Rene Vestergaard:講演資料:03 vestergaard

形式理論(数理論理学)を自然科学の問題に適用した一例として、λファージの遺伝子スイッチの問題を扱った研究の紹介をした。具体的には、Mark Ptashne 著 ”A Genetic Switch” の内容を、形式理論に翻訳した。それによって、多くの記述の間の論理的な整合性が検証されるだけでなく、種々の条件の組み合わせの結果の予測が可能になる。

製造プロセスにおける数理的研究の現状と、数理科学と物質・材料の連携の展開について

中川淳一:講演資料:04_講演資料(2016.2.26新日鐵住金・中川)_公開用

要旨:04A_講演要旨[新日鐵住金・中川]

大規模数値シミュレーションによるものづくりの革新 ~京の成果と今後の展開~

加藤千幸:講演資料:05_大規模数値シミュレーションが実現する技術革新(加藤)_公開用

大規模数値シミュレーションの例として、流体力学計算の先端的研究の紹介をした。産業での活用の観点からは、さまざまな試作試験の完全な代替を目指す、という視点での取り組みが行われた。例えば、車両内部の音響解析や、曳航水槽試験の代替などでの成功例がある。

数学・材料科学連携による構造・機能・プロセスの理解への挑戦

小谷元子:講演資料非公開

数学と他分野との連携促進が進められており、東北大学の原子分子材料科学高等研究機構(http://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jp/index.html)では、物質・材料科学との共同研究が多面的に行われ多くの成果が得られている。数学と物質・材料科学の連携の意義、可能性を説明し、具体的な活動例を紹介した。要旨:06_要旨_小谷

数値解析学から見た計算手法の高精度化・高効率化の取組み、および物質・材料との連携へ向けた展開

田上大助:講演資料:07_講演資料_田上

自然現象をシミュレーションする手順は、まず自然現象をモデル化して、数理モデルを作り、それを離散化して近似方程式として数値シミュレーションを実行する。このモデル化と離散化の段階において誤差が生じる。誤差をできるだけ小さくし、計算不可を小さくするための基本的な数学的取り組みを、流体力学と磁場問題を例として説明した。

マテリアルズ・インフォマティクス:分野の特色と課題

Dam Hieu Chi:講演資料:Dam、公開用

田中譲教授による最初の講演で議論された、物質・材料科学におけるインフォマティクスの問題点を、より具体的に議論した。バイオ・インフォマティクスや自然言語処理に比較して、マテリアルズ・インフォマティクスの特徴は、記述子の選択が困難であることと、計算機シミュレーションによるデータ生成が容易である、という2点にある。後者は利点であるが、前者の記述子の選択と作成は、マテリアルズ・インフォマティクスの成功の鍵を握るものであり、記述子が満たすべき必要条件、および記述子の望ましい性質を具体的に説明した。要旨:08_要旨_Dam

人工知能技術の発展と最近の動向

麻生英樹:講演資料:09_160226人工知能技術の動向_数学協働WS送付版R2

最近のアルファ碁の活躍は、人工知能に対する社会的関心を一層盛り上げた。どのような技術的ブレークスルーによって、アルファ碁が予想をはるかに上回る速度で進化したかを説明した。人工知能の進展には2つの流れがあり、一つは知識駆動型で、他方はデータ駆動型である。IBM Watson は少なくとも質問応答システムとしては前者に属し、最近の画像処理などで用いられる Deep Learningは後者に属する。人工知能の材料科学への応用についても説明した。

材料科学分野の数理との連携に関わる動向および潜在的可能性

松江 要:講演資料:10 20160226_松江(材料科学分野の数理連携)

数学・数理科学と物質・材料科学の協働のこれまでの経過、現状、課題を紹介した。関連の活動は各地で行われているが、実りに結びつけるにはいろいろの困難がある。カルチャーの違い、言葉の違い、狙いの共有化の困難、などである。数学者である講演者の立場から、数学協働を促進し、実りを挙げるために必要なものについて提言した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

「すでにできていること」http://www.nims.go.jp/research/MII-I/

JSTイノベーションハブ拠点構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ (MI^2I) 」が平成27年7月1日にスタートし、物質・材料科学研究者と数理・情報科学研究者の交流の促進を進めてきた。本ワークショップ開催時で、約8か月が過ぎたばかりではあるが、期待した交流が進みつつあり具体的な実りも見えつつある。プロジェクトとして、定期的に行うセミナーや、研究打ち合わせを通して、この流れを一層強いものにしていく。

「できていないこと」

情報科学、数理科学もそれぞれに間口も広く、奥行きも深い。物質・材料科学者がとりあえず役に立ちそうな手法を利用することは短期的にも可能であるが、それらを深く理解して、自ら適切な手法を選択し、必要に応じて新しい方法を開発する、というレベルに至るにはかなりの年月を必要とする。そもそも、現実の多様な問題に対応するためには、そのような対応よりも、「異分野の連携」が今後の重要な方向である。我々のプロジェクトがスタートして、その方向に動き出したとはいえ、まだまだ不十分であることは明らかである。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

全ての講演から、我々のプロジェクト活動の今後の課題が浮き彫りになった。MI^2の今後の課題として「材料プロセス」の解析・最適化があるが、これはまさに big data であり、複雑系である。そこには、田中譲氏による講演で指摘された複雑系の対応が必要であり、がん治療や札幌の除雪対策で行われたことが参考になるという印象を持った。物質・材料に対するインフォマティクスでは、記述子の選択と整備に加え、その活用の手法の検討が重要な課題であることは田中譲氏とDam Hieu Chi氏によって指摘された。この点は、まさに我々のプロジェクトの課題として再認識した。

樋口知之氏のデータ同化やエミュレーションが具体的なアプローチとして有力と思われる。是非とも取り入れていきたい。また、原理による予測が困難な現象の扱いとして、Vestergaard氏の講演の形式理論(数理論理学)の役割についても、より具体的な検討をする価値がある。

数学を物質・材料の問題に適用することについては、中川淳一氏と小谷元子氏によって広い話題についての講演があった。数学による、抽象化と普遍化が想像以上の成果に繋がる例をいくつも示され、それらから新しい概念や新しい物質の提案に繋がることも認識した。この可能性はまだ広大である。

麻生英樹氏による人工知能の基本的概念や可能性は、big data 時代を迎えつつある物質・材料科学に重要な課題を提示している。人工知能と結びつけて、物質・材料科学としてどのような課題設定をするか、何を目指せばブレークスルーに繋がるか、よく吟味する必要がある。

物質・材料研究者にとっては、数値シミュレーションはなじみのよい課題である。一方、流体力学を主要対象としてはいるが、加藤千幸氏の狙う「試作試験の完全な代替」は当然のことながら、MI^2I も目指すことであり、そのための筋書きと手順を検討すべき時である。また、物質・材料研究でのインフォマティクスでは計算機シミュレーションはデータの作成と、予測の検証に強力であるが、田上大助氏が説明したように、その信頼度の検証は課題である。近似による誤差は物理的考察によるが、数値解析の誤差と効率は数理科学的考察が必要である。

最後に、松江要氏が指摘したように、数学協働(より広く言えば異分野連携)は「言うは易く、行うは難し」であり、かなり進めたとしても、「行うは易く、実りを挙げるは難し」という課題がある。短期的な視野に立たず、長期的なビジョンを異分野連携で作っていかなければならないし、一方では、「小さく生んで、大きく育てる」ことも実際には有効である。

今後の展開・フォローアップ

今回のワークショップでは、広い分野についての講演があった。とはいえ、まだまだ多くの重要な話題がある。また、こうした広い視野での研究の方向については、若い人材へのアッピールと教育が必要である。従って、以下の3つの方向で展開とフォローアップを進める。

1.今回のワークショップの継続

こうした刺激的な数学協働の話題を聴くのは、それほど頻度高く行うことは情報過多になる恐れもあり、年に1度程度の頻度が適切である。次回に向けて、重要な話題の検討を進める。

2.今回の話題の深堀

今回のワークショップでの講演の中から、具体的な対応が望ましいと判断する話題については、より深く理解できるようにフォローアップのセミナーをMI^2Iプロジェクトの講演会シリーズに組み入れる。

3.人材育成のための教材作成

物質・材料科学、情報科学、数理科学のすべての分野で、人材育成が重要な課題となっている。既存の教育システムの中には、今回のような広い分野にまたがる話題、課題が授業に取り入れられる可能性が低い。従って、今後の1.と2.の会合については可能な限りビデオを作製し、大学院授業の一環として配信する。MI^2Iでは、東北大を拠点とした「計算科学人材育成コンソーシアム (PCoMS)」と連携することにしており、その活動の一環としてビデオの配信を行う。また、企業における人材育成も重要であり、MI^2I が主催するコンソーシアムにおいても活用する。