数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 流れ場の形状最適化問題と臨床工学への応用
採択番号 2016E01
該当する重点テーマ 最適化と制御の数理
キーワード 流体力学 、形状最適化 、人工血管
主催機関
  • 個人
運営責任者
  • 中澤 嵩
開催日時 2016/09/01 00:00 ~ 2016/09/02 00:00
開催場所 東北大学大学院情報科学研究科
9月1日 終日:6F小会議室
9月2日 午前:609講義室,午後:710講義室
最終プログラム

9月1日:
10:00-10:50 百武徹氏(横浜国立大学・准教授)
「血液と赤血球との流体構造連成解析」

12:00-17:00 フリーディスカッション

9月2:
10:00-10:50 片峰英二氏(岐阜高専・教授)
「多目的形状最適化問題」

11:00-11:50 中澤嵩氏(東北大学・助教)
「人工血管の最適設計」

12:00-17:00 フリーディスカッション

参加者数 数学・数理科学:5、 諸科学:2、 産業界:、 その他:
当日の論点

本研究が対象としている人工血管は工透析に用いられるものであり,一般にGraftと呼ばれ,動脈と静脈との間に吻合される.しかし,施術後,Graft内を高速に血液が流れることによって静脈,心臓へと大量の血液が流入する.このことが,心不全の遠因となっていると言われている.そこで,岡山大学医歯薬学研究科の鵜川登世武氏は狭窄付きGraftであるFlow Control Graft(FCG)を開発した.犬を用いた動物実験では,このFCGの狭窄部によって圧力損失が大きくなり,流速・流量が低下することがわかっている.しかし,狭窄部付近に血栓が発生することが確認されていた.そこで,本研究では,血栓の発生を抑制するためのFCGの最適設計を目的として,数値解析・臨床工学を専門とする研究者と流体力学における形状最適化問題を主軸にして議論を展開した.

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

既にできていること:

(数値解析の観点)流体力学における形状最適化問題に関しては,研究者代表中澤と岐阜高専の片峯氏の研究が多く存在する.具体的には,2次元・3次元空間内において定常・非定常Navier-Stokes問題を主問題として,散逸エネルギーや渦度を目的関数とした形状最適化問題の研究実績等が挙げられる.これらの手法を用いて,FCGの最適設計を行っていく予定である.

 

(流体力学の観点)(Shervin and Blackburn, JFM)の論文では,狭窄付き円管内において定常流・非定常流を流入条件に与えた場合の詳細な数値流体解析を行っている.今回,対象とするFCGの空間スケールを無次元化すると,(Shervin and Blackburn, JFM)で用いられた狭窄付き円管のスケールとほぼ同様であったため,この論文の結果をベンチマークとして活用する.

 

 

出来ていないこと:

(臨床工学の観点)血栓の発生メカニズムについては十分に把握していないため,形状最適化問題を構築するためにどのような目的関数・主問題を定義すればよいのかが明確でなかった.そのため,本ワークショップでは,横浜国立大学の百武徹氏から血栓発生メカニズムに関する知見を伺い,それをもとに岐阜高専の片峯氏と形状最適化問題の構築を行うことが主たる目的であった.

 

「研究の現状と課題」について要約したスライド:

参考スライド1

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

明らかになった課題:

(臨床工学の観点)血栓の発生メカニズムは,二通りのメカニズムが存在することが横浜国立大学の百武徹氏による説明によって知ることが出来た.高剪断領域においては血小板が活性化することで血小板が互いに絡み合い,一方で低剪断領域においては血管壁内の因子が活性化し多段階の化学反応によりフィブリンが生成され,活性化した血小板や赤血球を粘着させ,この粘着したものを血栓と呼ぶようである.特に,動脈では高剪断領域となるため血小板の活性化による影響が大きく,また静脈では低剪断領域であるため,フィブリンによる影響が大きい.

 

 

今後解決すべきこと:

本研究で対象としているFCG内の流速は非常に速いため,高剪断領域の血小板の活性化を抑制することが重要になってくることがわかった.そのため,形状最適化問題を構築する際には,(Shervin and Blackburn, JFM)で用いられた狭窄付き円管内流れを初期形状とし,剪断応力を一般的なかたちで記述している渦度の2乗を目的関数と定義し,非定常Navier-Sotkes問題を主問題として用いる.その際,流入条件として,定常・非定常な速度場を与えることで異なった最適形状が得られると予想される.更には,流入・流出境界において圧力を固定することで,より血管内の血流場を本質的に模倣することができると考えている.

 

新たに明らかになった課題」について要約したスライド:

参考スライド2

今後の展開・フォローアップ

最適形状は,初期形状によって大きく異なることがしばしば指摘されている.そのため,幾何学的な変数(狭窄部の位置,狭窄率等)様々な初期形状を用いて形状最適化問題を行う必要がある.今回のワークショップで議論した内容を,日本応用数理学会,日本流体力学学会,ICFD2016 Sendai等の国内・国際学会で発表していく予定である.更に,2016年12月初旬に鵜川氏を初めとする関係者と静岡大学で研究打合せを行う予定である.