数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 量子系の数理と物質制御への展開II:量子ウォークを架け橋に
採択番号 2016W07
該当する重点テーマ 最適化と制御の数理
キーワード 量子ウォーク 、放射性同位体分離 、トポロジカル絶縁体 、直交多項式 、スペクトル散乱
主催機関
  • 東北大学 情報科学研究科
運営責任者
  • 瀬川 悦生
  • 今野 紀雄
  • 松岡 雷士
  • 井手 勇介
  • 竹居 正登
  • 尾畑 伸明
開催日時 2016/10/20 09:30 ~ 2016/10/22 18:00
開催場所 みなとみらいキャンパス(横浜国立大学)(10/20), 常盤台キャンパス(横浜国立大学)(10/21,22)
*日によって開催場所が異なります
最終プログラム

アクセス

*開催場所が日によって異なります
10/20(木) みなとみらいキャンパス(横浜国立大学) ランドマークタワー18F 1809室
10/21(金), 10/22(土) 常盤台キャンパス(横浜国立大学) 教育文化ホール中集会室 

 

Day 1 

4th-Yokohama Workshop on Quantum Walks
Place: Yokohama Land Mark Tower: 18F room 1809
(satellite campus of Yokohama National University)
http://www.b.ynu.ac.jp/ybs/access/ybs_access.pdf


9:30-10:20
Martin Stefanak (Czech Technical University, Czech)
「Perfect state transfer by means of discrete-time quantum walk search algorithms on highly symmetric graphs」
10:30-11:25
Philippe Blanchard (University of Bielefeld, Germany)
A “Garden of Forking Paths” – The Quantum Mechanics of Histories of Events

Lunch

12:55-13:25
Hyun Jae Yoo (Hankyong National University, Korea)
Random time quantum walks
13:30-14:00
Hayato Saigo (Nagahama Institute of Bio-Sicence and Technology, Japan)
The arcsine law and an asymptotic behavior of orthogonal polynomials
14:05-14:35 
Akito Suzuki(Shinshu University, Japan)
「Localized state in a one-dimensional split-step quantum walk」
15:00-15:30
Yutaka Shikano (Institute for Molecular Science, Japan)
「Discrete-time quantum walk with feed-forward quantum coin」
15:35-16:05
Kaname Matsue(9/30, The Institute of Statistical Mathematics, 10/1, Institute of Mathematics for Industry / WPI-International Institute for Carbon-Neutral Energy Research, Kyushu University, Japan)
Quantum walks on simplicial complexes : an alternative
16:10-16:40 
Iwao Sato (Oyama National Collage, Japan)
The characteristic polynomial of the unitary matrix of a 2-tessellable
staggered quantum walk on a graph
」 
 

 
Day 2

量子ウォークに関係する諸分野のチュートリアルレクチャー
@横浜国立大学 常盤台キャンパス 教育文化ホール中集会室
 
1限 9:00--10:30
講師 横山 啓一 先生(日本原子力研究開発機構)
テーマ「レーザー分子工学」
講演タイトル「分子回転の光励起と量子ウォーク」

2限 10:45--12:15
講師 尾畑 伸明 先生(東北大学)
テーマ「直交多項式」
講演タイトル「直交多項式とスペクトル

3限 13:00--14:30
講師 佐藤 昌利 先生(京都大学)
テーマ「トポロジカル絶縁体」
講演タイトル「対称性とトポロジカル相

 
4限 14:45--16:15
講師 小栗栖 修 先生(金沢大学)
テーマ「スペクトル・散乱」
講演タイトル「スペクトル散乱理論から見た量子ウォークの一考察

5限 16:25-17:55
講師 今野 紀雄 先生(横浜国立大学)
テーマ「量子探索」

講演タイトル「量子ウォークによる量子探索」

 

Day 3 

量子ウォークを架け橋にした学際交流
@横浜国立大学 常盤台キャンパス 教育文化ホール中集会室
 テーマ(1)
「放射性同位体レーザー分離工学」

- 9:00-12:00

話題提供者
西郷 甲矢人(長浜バイオ大学)「直交多項式の観点から」
松岡 雷士(広島大学) 「工学の観点から」
光パルス列による分子回転励起の数理モデル解析-数工連携の苦難と成果-

テーマ(2)
「トポロジカル絶縁体」

- 13:30-15:30

話題提供者
小布施 秀明(北海道大学)「物性物理の観点から」
量子ウォークにおけるトポロジカル相:物性物理的観点から

瀬川 悦生(東北大学)「単位円周上の直交多項式の観点から」
単位円周上の直交多項式・分散関係・統計的性質


- 15:30-18:00 Discussion time

参加者数 数学・数理科学:20、 諸科学:10、 産業界:2、 その他:
当日の論点

数学協働プログラムQW

量子ウォークという数理モデルとその拡張の概念を通して、数学、物理、工学の諸分野の専門家が集い、それぞれのアイディアやそのおもしろさを参加者全員が共有することを基礎理念としてこのワークショップを進行した。特にその中でも各分野の専門家のチュートリアルレクチャーを通じてレーザー量子制御工学における放射性同位体分離技術や、物性物理の分野で考えられているトポロジカル相の離散時間モデルなどが量子ウォークを介して展開されていることを共通認識として持った。これらの物理系の解析的なベースとなる量子ウォークの視点から、スペクトル散乱や直交多項式を研究する各専門家に講義をしてもらい、今後どのような進展を遂げられるかについて議論した。より具体的には放射性同位体分離工学においては、実数上の直交多項式系、また今回提案されたトポロジカル絶縁体に関係するモデルにおいては、複素空間上の単位円周上のローラン直交多項式系の問題に帰着できるということをまず共有し、それぞれそのスペクトルを求める際に重要な解析手法をチュートリアルレクチャーの直交多項式などから得られた知識を応用しつつ議論した。さらにそのスペクトルがそれぞれの物理系における拡散挙動に与える影響を考察するために、チュートリアルレクチャーのスペクトル・散乱理論で得られた情報を土台にしながら議論を行った。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

放射性同位体分離のアイディアとして、同位体が異なる回転周波数をもつことを利用し、片方の同位体分子の回転周波数と同期するテラヘルツレーザーパルス列を照射することにより、一方の同位体分子のみに量子共鳴を発生させて回転エネルギーを大規模に励起する原理を利用することが提案されている。解析的には物理系を連続時間量子ウォークに類似した数理モデルに帰着し、励起する側の回転エネルギーの漸近挙動に関する極限定理を求めることができた。しかしながら、励起させずに残留させる同位体の局在状態の極限分布に関してはまだ解析が不十分であり、今後の課題として残された。

また、トポロジカル相においては、エッジ状態が再現される二次元格子上の量子ウォークモデルにおいて、スペクトルが単位円周上のローラン直交多項式で記述されるため、明示的にバルクとエッジを与える分散関係を導出することができる。エッジ状態の寄与はまさにグラフの縁を線型的な拡がりで走ることが極限定理を通じて導出された。しかしこのモデルにおけるバルクの寄与が現在のところ未解決である。またその高次元化も今後の課題として残されている。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

分子回転励起を利用した同位体分離の実用的な視点に立つと、励起されない回転エネルギーのサポートの幅の理論的な見積もりは必須課題である。しかしながら、現状ではスペクトルがすべて点スペクトルになるということが直交多項式の一般論からわかったものの、例えば固有関数の減衰のオーダーを見積りなどが今後の重要な課題となる。また交代πパルスという新しい手法を用いると、理論的には分離の効率が飛躍的に向上する。このダイナミクスは離散時間量子ウォークと等価であることが証明できるため、解析の糸口は既に明確になっている。しかしながら、理想的な実装は技術的に難しいことも示され、より実験的実装が容易な設定で離散時間量子ウォークをどのように修正すれば良いのかが新たな課題として示されている。

トポロジカル相のモデルに関しては、トポロジカル数と今回のモデルで求めたエッジ状態に現れる縁上の線型的な拡散との関係性が未解決となっている。また、対称性を保存しながら高次元化した場合に、量子ウォークではどのような描像が現れるのかに関しては今後の課題として挙げられた。

今後の展開・フォローアップ

この研究会を通じて、それぞれ分野の学会では顔を合わせることのできないさまざまな研究者が交流し、議論を行うことができた。今後も継続して議論を行い、実を結んだものに関しては論文にしてまとめる。また、このテーマ以外にも量子ウォークを介していくつかシーズとなるものが挙げられており、今後も議論を重ねていく。これらの情報を全員と共有するために、定期的に量子ウォークの研究集会を開催する。