数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 数理的手法と理論に基づく計量的政治分析に関するワークショップ
採択番号 2016W06
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、過去の経験的事実、人間の行動等の定式化 、計測・予測・可視化の数理
キーワード 数理政治学 、計量的政治分析
主催機関
  • 政策研究大学院大学
運営責任者
  • 大山 達雄
  • 岸本 一男
  • 和田 淳一郎
  • 一森 哲男
開催日時 2016/12/09 00:00 ~ 2016/12/10 00:00
開催場所 政策研究大学院大学 5階講義室K
東京都港区六本木7-22-1
最終プログラム

Proceedings

2016年12月9日(金)

10:00- 開会の辞 大山達雄

10:10- 「空間競争モデルにおける非対称情報」

       中川 訓範 (静岡大学)

10:45- 「所得平等化政策に関する選好の計測と分析」

       山本 耕資 (Hylab LLP)

11:20- ”Identifying Voters' Multidimensional Preferences via Conjoint Experiments”

       堀内 勇作 (ダートマス大学)

12:20- Lunch

13:15- ”Apportionment behind the Veil of Ignorance”

       和田 淳一郎 (横浜市立大学)

13:50- ”Investigating the Japanese Election System through Recent National Elections”

       小林 和博 (東京理科大学)、 大山 達雄、諸星 穂積 (政策研究大学院大学)

14:25- 「いくつかの国でのアダムズ方式の配分結果」

       一森 哲男 (大阪工業大学)

14:55- Break

15:10- 「原理党を含む展開系ゲームの部分ゲーム完全均衡解の解析的記述:4政党の場合」

       岸本 一男 (筑波大学)

15:45- 「同盟における防衛義務の片務性と抑止の実効性に関する分析」

       栗崎 周平 (早稲田大学)

16:20- 「投票区再画定と投票所再配置のデザインに向けた取り組み」

       根本 俊男 (文教大学)

16:50- 全体討議

17:20- 閉会の辞

 

2016年12月10日(土)

09:30- 講演者によるレビューとブレーンストーミング

参加者数 数学・数理科学:16、 諸科学:3、 産業界:0、 その他:3
当日の論点

本ワークショップでは大きく、Ⅰ:計量政治全般、Ⅱ:選挙計量分析、Ⅲ:議席配分方法の理論と応用という3部構成のもとに、各種の研究成果発表が行われた。

 

Ⅰでは、(1)空間競走モデル、ダウンズモデル等における有権者の選好と政党の政策立地点の対応が1次元であることの限界の解決と改善方法、(2)格差是正を目的とする所得平等化政策に関する効用関数の設定方法、(3)政党のマニフェストと投票者の選好に関するコンジョイント分析の適用可能性についての課題と問題点、(4)外交防衛問題に対する片務性と抑止の実効性の計測方法等が重要な論点となった。

 

Ⅱでは、(5)ダウンズ型空間投票モデルに原理等を導入した場合の分析に関して、多政党化等の一般化可能性、(6)投票区割問題と投票所配置に関して現実に見られる諸問題の複雑さと解決困難さ、(7)小選挙区制における得票率と議席占有率との関係の関数近似方法とその検証等が重要な論点となった。

 

Ⅲでは、長期にわたって未解決の問題となっている議席配分問題に対する除数法をめぐる問題として、(8)これまで伝統的に世界各国で採用されてきた5つの方法に関する特性分析と評価の議論に加えて、(9)議席配分問題を情報量エントロピー、divergenceの観点から眺めた上で評価を試みる研究も紹介され、主要な論点となった。

 

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

上記各部に関して、Ⅰでは、有権者の選好と政党の政策立地点の対応を1次元で表すことは示されたが、次元を多元化することについては未解決、(2)効用関数設定に関して、前提条件制約が限定的であるので、その緩和が未解決、(3)コンジョイント分析における計測方法としての世論調査(survey)のあり方についての方法論が未確立かつ未解決、(4)片務性と抑止の実効性の計測方法について、計測可能な指標の設定方法が未解決である。

 

Ⅱでは、(5)ダウンズ型空間投票モデルにおける多次元化、原理党の定義明確化と現実等との識別基準が未解決、(6)投票区割問題の客観的合理的解決方法と数理モデル化の可能性の検討、(7)関数近似可能性についての必要十分条件に関する問題とモデルの妥当性検証のための十分なデータ確保の問題等が未解決である。

 

Ⅲでは、(8)アダムス方式についての問題点指摘は可能であるが、除数法全般の位置付けと評価が未解決、(9)情報量エントロピー、divergenceを用いた議席配分方法の整理は可能であるものの、それらの議席配分方法としての合理性、妥当性、最適性についての検証が未解決、といった問題点が議論された。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

昨今の日本と米国の大学における統計教育のあり方、そしてその数理政治学、計量政治学への適用についての議論が活発に行われた。特に政党支持、選挙投票行動等に関する世論調査の方法についてはIT技術、インターネットの適用、そしてR-studio serverAPI技術、クラウドワーク、R言語、Pythonといった各種の新技術を応用することによって、計量政治学が米国においても急激に変化しつつあることが報告された。情報収集が容易かつ安価になり、また地図情報データについてもIT技術、インターネットの適用によってデータの可視化、分析加工が著しく容易になってきているという現実がある。このような新たな技術をどのようにしてデータ収集処理加工に適用し、計量政治学の発展につなげるかが課題である。このような状況の中でいかにして国際協力を実現するかは重要な検討課題である。

今後の展開・フォローアップ

今回のワークショップでは、日米の数理政治学、計量政治学の研究者が一堂に会し、お互いの成果発表について議論し、またワークショップの前後にも活発な情報交換、討議を行った。上記課題も踏まえたうえで、IT新技術、コンピュータ技術を積極的に適用しつつ、お互いに交流を深めていくことが必要かつ効果的であると結論付けられた。今回のワークショップ開催を契機として、お互いの有する研究成果を発展させ、さらに充実したものとするためにも共同研究あるいは共同プロジェクトといった方法も十分に考えられるのではないかということに関して、将来の実現可能性についてより詳細な検討が必要であろうと結論付けられた。なおこのような協力体制の構築にあたっては、現代のIT新技術、コンピュータ技術を積極的に活用することによって実現可能性が高まっていることも議論された。