数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 生命動態の分子メカニズムと数理〜生命動態システム科学4拠点・CREST・PRESTO・理研QBiC合同シンポジウム〜
採択番号 2015W13
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 数理生命科学提言課題(1) 、システム動態 、超離散系 、生体高分子構造 、トポロジー 、組紐理論 、フラクタル 、力学系
主催機関
  • 広島大学クロマチン動態数理研究拠点
運営責任者
  • 栃尾 尚哉
  • 冨樫 祐一
開催日時 2016/03/25 12:50 ~ 2016/03/26 16:30
開催場所 シェラトンホテル広島
〒732-0053 広島県広島市東区若草町12-1
最終プログラム

【趣旨・目的】

複雑な現象やシステム構造をもつ生命科学は、ヒトゲノム計画以降、遺伝子情報に関するビッグデータを扱うことで大きく発展を遂げつつあります。

生命科学では、生命動態、すなわち時間軸の中の現象として生命をとらえるアプローチが今後の日本の生命科学における重要な柱として認識され、その発展が重要な課題です。
これまでの活動で、生命動態をキーワードとした多様な共通テーマについて、実験研究者が捉えた実データを数理研究者が新たな数理モデルを用いて表現することで、複雑な生命システムの統一見解に向けた糸口を見出すことが可能となりつつあります。
今回はより実践的な異分野融合を進めるべく、これまで得られてきた数理モデルから実験系に対する提言という形の講演を主とすることで、実験研究者と数理研究者の更なる連携強化を目指しています。

 

【運営・プログラム委員】

楯 真一 (委員代表) 広島大学大学院理学研究科
井原茂男 東京大学先端科学技術研究センター・大学院数理科学研究科 
金子邦彦 東京大学大学院総合文化研究科
松田道行 京都大学大学院生命科学研究科・医学研究科

【協力】

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構「生命動態システム科学推進拠点事業」:
「多次元定量イメージングに基づく数理モデルを用いた動的生命システムの革新的研究体系の開発・教育拠点」 京都大学
「転写の機構解明のための動態システム生物医学数理解析拠点」 東京大学
「複雑生命システム動態研究教育拠点」 東京大学
「核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点形成」 広島大学
国立研究開発法人 科学技術振興機構
さきがけ「細胞機能の構成的な理解と制御」研究領域
CREST「生命動態の理解と制御のための基盤技術の創出」研究領域
国立研究開発法人 理化学研究所 生命システム研究センター
文部科学省 科学技術試験研究委託事業「数学・数理科学と諸科学・産業との協働によるイノベーション創出のための研究促進プログラム」

【3月25日】

12:50 - 12:55       開会の辞

12:55 - 13:00       来賓挨拶 日本医療研究開発機構

[セッション1]     [生命動態拠点:東京大学]

13:00 - 13:40       若本 祐一(東京大学大学院 総合文化研究科)

「バクテリア適応ダイナミクスの1細胞解析」

13:40 - 14:20       畠山 哲央(東京大学大学院 総合文化研究科)

「生物時計における周期の頑健性と位相の可塑性の互恵的関係」

[セッション2]     [JST CREST]

14:30 - 15:10       井ノ口 馨(富山大学大学院 医学薬学研究部)

「神経細胞集団の活動動態の理解に基づいた虚記憶の作出」

15:10 - 15:50       飯野 雄一(東京大学大学院 理学系研究科)

「線虫の全中枢神経系のイメージングによる神経活動の定量解析」

[セッション3]     [JST さきがけ]

16:00 - 16:40       末次 正幸(立教大学 理学部)

「バクテリア染色体複製サイクルのライブダイナミクスと再構成」

16:40 - 17:20       瀧ノ上 正浩(東京工業大学大学院 総合理工学研究科)

「人工細胞構築を目指した微小流体の制御」

17:20 - 19:00       ポスターセッション

19:00 - 21:00       意見交換会

【3月26日】

[セッション4]     [生命動態拠点:京都大学]

9:30 - 10:10         石井 信(京都大学大学院 情報学研究科)

「細胞形態制御システムに対する同定と予測」

10:10 - 10:50       青木 一洋(京都大学大学院 医学研究科)

「ERK活性の細胞間伝搬による細胞集団運動の制御」

[セッション5]     [理化学研究所 QBiC]

11:00 - 11:40       泰地 真弘人(理化学研究所 生命システム研究センター)

「分子動力学計算専用計算機 MDGRAPE-4 の開発」

11:40 - 12:20       谷口 雄一(理化学研究所 生命システム研究センター)

「1細胞内オミックス動態のモデル化」

[セッション6]     [生命動態拠点:東京大学]

13:30 - 14:10       和田 洋一郎(東京大学アイソトープ総合センター)

「Dynamic chromatin movement in stimulated endothelial cells suggested by interactome analysis」

14:10 - 14:50       栗原 裕基(東京大学大学院 医学系研究科)

「血管新生における細胞動態の実験及び数理解析」

[セッション7]     [生命動態拠点:広島大学]

15:00 - 15:40       新海 創也(広島大学クロマチン動態数理研究拠点)

「クロマチン動態データから抽出されるクロマチンドメイン構造情報」

15:40 - 16:20       西森 拓(広島大学大学院 理学研究科)

「アリ集団採餌-自発的制御による分業ダイナミクス」

16:20 - 16:30       閉会の辞

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参加者数 数学・数理科学:49、 諸科学:61、 産業界:1、 その他:7
当日の論点

本ワークショップは、数理研究者が生命科学研究者が抱える問題を共有し、研究者同士のネットワークの構築、連携テーマの具体化を進める場を提供することを目指して開催された。どちらかといえば数学の立場に軸足をおいて生命科学に取り込むという立場で行われた過去のワークショップと異なり、今回は生命科学に軸足を置く中で数学との協働を探ることを主要なテーマとした。

当日は、分子から個体群まで対象とする階層も様々な、招待講演14件、ポスター55件の発表があった。手法の開発についての発表も、分子動力学専用計算機、高解像度な染色体構造推定法から、種々のイメージングシステム、流体デバイス、さらには微小RFIDチップを用いた個体追跡まで多岐にわたった。計測手法の中にも、背後で数学・情報学と密接に結びついたものも多い。

数理科学と生命科学の連携の形は様々であるが、本ワークショップでは特に「動態」に注目したことから、数理的手法としては、(狭義の)バイオインフォマティクス分野の場合と異なり、力学系としての(主として微分方程式を用いた)モデル化に基づく解析・シミュレーションが多く用いられた。確率論に根ざした(ベイズ推定、隠れマルコフモデルなど)実験データ解析、オートマトン・グラフ理論・トポロジーなどをキーワードとしたより抽象度の高いモデル化の試みも見られた。

 

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

過去の開催と比較して、個々の講演の中でも数理科学と生命科学が密接に結びついた研究成果が増えており、数理科学との協働という観点では、少なくとも協働研究の立ち上げに成功し研究が進みつつある段階と考えることができる。一方で、数理科学がなくては解決できなかったというインパクトを生命科学研究者に対して与えるまでには至っていない印象がある。

個別の課題では、例えば、旧来の反応拡散系・振動方程式系の枠組みでモデル化・解析された系と、それでは説明ができず数理的にも新たな拡張を求められた系とが併存している。今後は、特に後者の事例に注目することにより、数理科学へのフィードバックが期待できる。

 

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

産業界へのアプローチも重要ではあるが、本ワークショップで議論された生命動態に関する諸問題、中でも特に数理科学的アプローチが強みを持つ研究には、数年のスパンでは創薬・医療などの応用につながらない基礎研究が多い。加えて、異分野融合・共同研究の形成には、確立された分野内での研究と比較して時間を要する。本ワークショップを共催した各拠点・領域は、AMED・JSTなどからの支援を受けているが、残された年限は長くない。数理科学色の強い融合研究が大きな実を結ぶためには、事業の年限を越えた継続的な取り組みとしていくことが不可欠であり、そのための(科学的・財政的両面での)枠組みの形成が喫緊の課題である。

今後の展開・フォローアップ

前項に述べたように、長期的な発展のための枠組みの形成が必要であり、数学協働プログラムが1つの核となることがあれば望ましい。数理生物学・生物物理学は日本が強みを持つ分野であるが、国際的な連携とプレゼンス向上のため、より発展させた形の国際学会の開催を生命動態4拠点・さきがけ・CREST・理研QBiCの連携によって進めたい。

また産業界のニーズとの積極的なマッチングを行う場の提供として、製薬企業や医師または農業・食品分野の方々を招待したパネルディスカッションの主催なども本連携で進めたい。