数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 異分野の課題解決のためのスタデイグループ
採択番号 2015S04
該当する重点テーマ 計測・予測・可視化の数理 、リスク管理の数理
キーワード 汚染物質の土壌中の拡散 、河川における拡散 、地熱発電に対する拡散シミュレーション 、大気中の拡散
主催機関
  • 東京大学大学院数理科学研究科
運営責任者
  • 山本 昌宏
  • 坪井 俊
開催日時 2016/02/29 00:00 ~ 2016/03/04 00:00
開催場所 東京大学大学院数理科学研究科
最終プログラム

東京大学大学院数理科学研究科において平成28年2月29日-3月4日に汚染物質などの拡散現象のよりよいシミュレーションなどに関する環境数理スタデイグループワークショップを開催した。以下の日程で実施した:

2月29日(月) 10:30-11:30                         東京大学大学院数理科学研究科 002号室            10:30-11:30 羽田野祐子氏(筑波大学システム情報系教授)11:30-12:00 川西琢也氏(金沢大学理工研究域自然システム学系准教授)

懇親会:18:30-20:30 (会場で受け付け)


2月29日午後-3月4日(金)午前:各課題ごとに分かれて解決に向けたワーク、主体は院生、若手のポスドクで、各グループごとに経験のあるポスドクまたはファカルテイメンバーがコーデネーターとして議論のとりまとめなどを行う。活動の主体がワークにあるので各コーデネーターの議論の組織化と取りまとめが重要である
3月4日 14:00-16:00(予定)、002講義室                

課題を提示した工学系の研究者からの成果の評価。

課題概要:

羽田野祐子氏(筑波大学システム情報系教授)

「福島事故のセシウムの環境中の移動と確率モデル」

福島事故で放出されたCs-137のモニタリングはほぼ5年が経過し、環境中での物質の興味深い振る舞いがわかってきた。しかしながら、そのような振る舞いをモデル化する作業はこれからの課題である。現在私たちは、確率モデルによる計測結果の説明を目指している。これまで行った予備的な解析では、セシウムの移動を記述する際「ガンマ分布」(またはそれによく似た形)が現れてくる場合が多いことがわかった。大気中のセシウム濃度も、土壌中のセシウム濃度もこれらの両者にガンマ分布が関わってくることは個人的に驚きであった。本スタディグループの期間を通じて、これらのガンマ分布がなぜ出てくるのか、あるいはどのような確率過程が考えられるのかに関して一緒に考察してもらえればありがたい。

川西琢也氏(金沢大学理工研究域自然システム学系准教授)

  1. 福島原発の土壌汚染状況からホットスポット存在確率算出
  2. 統計学におけるExtreme value theoryを、極限理論としてではなく、分布の分類手法のひとつ として使うことの可能性
  3. 幾何学による 疎林の樹木位置情報の解析
  4. 土壌中の輸送現象

http://faculty.ms.u-tokyo.ac.jp/~a3inverse/SGW/index.html

2016年3月SGW報告(s) 

 

 

参加者数 数学・数理科学:32、 諸科学:5、 産業界:0、 その他:0
当日の論点

主に次の2つが論点であった。

課題1:環境中の汚染物質の拡散において、物質の濃度は最初は時間とともに急速に増加し、長期的にはゆっくり減衰する。そのような特異的な拡散のより合理的な数学モデルについて討議した。

課題2:砂漠化した土地では、それ以上の砂漠化をさけるため植林を行う。植林のための最適な場所を衛星写真で得られた地表面のデータから判定するための数学手法を議論した。例えば、過去に植林した場所はわかっているので、その後、植生が増えているのか枯れているのか、などを把握でき、植林した木が枯れている箇所では地下水があまりないなどの情報や地下水の流れなども、衛星写真からおおざっぱに判定できる。そのような情報を衛星写真から抽出するための数学手法を探索した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

課題1:現場では、観測データをうまく解釈するように入力パラメータを設定して、入力から観測データを線形的に結合するボックスモデルがよく使われている。これはもっとも簡単な入力・出力モデルであるが、物理的な原理に基づかず、短い時間スパンならともかく汚染物質の濃度の長期的な挙動を再現することが困難であることが現状である。                                      課題2:衛星写真をイメージング手法などを本格的に活用することがなく、植林箇所の選定が経験に依存している。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

課題1:(a)従来のボックスモデルでは、入力・出力モデルのパラメータをすべて定数としていた。その結果、時間大域的な観測データの解釈が困難になっていたので、パラメータに時間依存性を含めて、過去のデータから現在時刻までのパラメータを決定して、それをもとに構成したボックスモデルが将来において観測データをどれくらい再現できるかを検証し、従来型のボックスモデルと比べて大幅な改善がみられた。 (b) 汚染物質の特異拡散を再現するための可能なモデル式を議論した。第一に、古典的な拡散方程式の係数に時間変数の特異性を導入しそれをデータから決定した。第二に時間方向の微分に非整数階微分を導入した。このような2つの場合の修正されたモデル式の数学解析と数値解の研究が今後の課題となった。

今後の展開・フォローアップ

本スタデイグループ後に山本昌宏を中心に院生や若手のポスドクと議論を継続している。それによる進捗状況をみて、課題提供者である羽田野祐子・筑波大学教授および川西琢也・金沢大学准教授を交えて再度、議論の場をもち、今後の展開を期す。