coop-math_network_theory_for_biology_supplementary_material
このスタディグループでは、まず有田から次のような問題が提起された(資料1)。近年のネットワーク科学の流行により、ネットワークという考え方は生物学にも広く用いられている。しかしながら、ネットワーク科学における理論(ネットワーク理論)の実態やその限界などがよく理解されないまま使われている。ネットワーク理論は主にグラフ理論に基づいているが、グラフで生体システム(ネットワーク)を表現することには限界があり、生物学的に意味のない結果が導かれることが、代謝パスウェイ解析を例にして示された。
このような背景から、生物学に真に貢献するネットワーク理論について、ネットワーク科学の専門家の視点からこれまでの研究を見直し、効果的な利用法を類型化し、生物学者にガイドラインを提示することを目標とした。
参加研究者それぞれから、ネットワーク理論の効果な事例について(可能性がありそうなものも含めて)説明があり、それらについて討論した。
竹本は、コミュニティ検出(グラフクラスタリング)の有効性を、がんシグナルネットワーク、タンパク質相互作用ネットワーク、代謝ネットワーク、生態系ネットワークを例にして、説明した(資料2)。特に、適切なグラフ表現によってこれまで曖昧に議論さてきたシステムの構造が定量的に評価できること、有用ノード(薬剤ターゲットや生態系保全のために重要な種)の候補の探索が可能になることが挙げられた。
春名は、圏論(Category theory)について、生態系ネットワーク、神経回路網、遺伝子制御ネットワークを応用として挙げて、説明した(資料3)。特に、圏論は有向グラフについて、ある種のダイナミクス(伝達やコヒーレンス)を考慮して議論できることを示した。また、未知の構造・モデルを発見するための手掛かりとしても役立つことを指摘した。
内山と千葉は、遺伝子配列の類似性に基づいて定義されるグラフ(ホモロジーグラフ)に基づく比較ゲノム解析とそのデータベースについて説明した(資料4)。特に、ホモロージーグラフの(マルコフ)クラスタリングがオーソログや遺伝子ファミリーの同定に有効であることを示した。また、データベースとの関連から、Resource Description Frameworkについても言及があり、圏論の有効性についても指摘があった。
高口は、時間変化するネットワークの理論(Temporal network analysis)とその周辺について、社会システムを例にして、説明した(資料5)。ネットワーク上での感染症の拡大や、ネットワークを効率的に分断するノードを見つけるための戦略についての数理的考察についても説明し、ネットワークにおける時間ダイナミクスの重要性を示した。
阿部は、生態系ネットワークについて、主に動力学の視点から、説明した(資料6)。行動関係のグラフ表現が、動物の順位行動の特徴づけや定量化に有効であることを示した。更に、相互作用の種類がコミュニティ行列の固有値分布(生態系(ロトカ=ボルテラ)モデルの安定性基準)に与える影響や、Convergent cross mappingを用いた少数の時系列データからの生物種間の因果関係についての適用事例が紹介された。
福島は、遺伝子発現ダイナミクスからの遺伝子制御関係(ネットワーク)の推定について、説明した。グラフィカルモデリングやベイジアンネットワークによる時系列データからの因果関係推定は一般に計算コストが高く、適用が難しかったが、近年いくつかのヒューリスティック手法が提案されていることが紹介された。
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