数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 ウェアラブル機器によって得られた医療ビッグデータを利活用するための数理モデルの開発
採択番号 2015S02
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 確率過程論 、予防医学 、健康増進 、生活習慣病 、医療費削減 、ウェアラブル機器
主催機関
  • 福井大学大学院工学研究科プロジェクト研究センター次世代プロジェクト「数理科学と生体医工学・産業との連携による数学イノベーションの推進エンタプライズ」
運営責任者
  • 高田 宗樹
開催日時 2015/09/17 00:00 ~ 2015/12/24 00:00
開催場所 福井大学文京キャンパス・アカデミーホール
 総合研究棟Ⅰ大一講義室 他
(〒910-8507 福井市文京3-9-1)
最終プログラム

[趣旨・目的]近年、ウェアラブル機器の技術開発によって、簡便に生体情報を計測できるようになった。しかし、ウェアラブル機器によって得られた心拍数などの種々のビックデータは、医療機器を用いて測定した生体情報とは様相が異なるため、これらのビックデータを統括的に処理する方法は確立されておらず、数学的手法による解決が望まれている。これらのビッグデータは、生体の健康状態を知るうえで、重要なデータであり、これを利活用することが、医療関係者のみならず、ウェアラブル機器開発メーカーなど、様々な方面から求められている。そこで、本スタディグループは、数学・医学系を始めとする多分野協働による具体的な事案にもとづく問題提起とその解決手法の策定、情報の抽出方法の検討などを行い、国民の健康維持や医療費削減に向けた取り組みの方向性について検討する。

キックオフセミナー 平成27年9月 17日(木)15:00-17:00 (公開)
                    場所:福井大学文京キャンパス・総合研究棟Ⅰ大一講義室
 開式の辞 「睡眠日記にみられるカオス」高田宗樹(福井大・工)
 講演1:「ウェアラブル機器に応用できる立体映像技術とその数理評価」石尾広武(福山市大・都市経営)
 講演2:「ボラティリティ・モデリング」森本孝之(関西学院大・理工)
 討論
終了後、運営委員会(-19:45)目的意識と解題の共有など

 

 

討論会 平成27年10月 2日(金)16:00-18:00 (非公開)

           場所:名古屋市立大学病院睡眠医療センター

【課題】睡眠時行動障害の診断支援アルゴリズムの応用(1)

         -問題提起-

課題提供者: 中山 明峰(名古屋市大・医師)、中野 那津子(名古屋市大・臨床検査技師)
モデレータ: 高田 宗樹(福井大学)

 

 

討論会 平成27年11月 20日(金)16:00-18:00 (非公開)

           場所:名古屋市立大学病院睡眠医療センター

【課題】睡眠時行動障害の診断支援アルゴリズムの応用(2)

         -アルゴリズムとその応用-

課題提供者: 中山 明峰(名古屋市大・医師)、中野 那津子(名古屋市大・臨床検査技師)
モデレータ: 高田 宗樹(福井大学)

 

 

ワークショップ 12月21日(月)16:50-17:50 (公開)

                   場所:あわら温泉 まつや千千・会議室

第一部・ウェアラブル機器

16:50-17:10 「アップルWatchを用いた医療ビッグデータを利活用するための研究提案」

          木下 史也(名古屋大・情報科学)

17:10-17:30「重心の動きから見る臨場感と映像酔いの関連性~より安全で魅力的な映像を提供するために~」

          杉浦 明弘(岐阜医療大・放射線)

17:30-17:50「ウェアラブル機器を用いた健康管理の現状と課題」

          松浦 康之(Prince of Songkla 大学・人文社会)

18:30-20:30 懇親会

 

 

ワークショップ 12月22日(火)13:30-17:15 一般向け講演(公開)
          場所:福井大学文京キャンパス・アカデミーホール
第二部・医療ビックデータ

12:05-12:25 学生によるポスターセッション(終日展示)

14:05-14:25 「座面圧センサーで収集した呼吸情報からの身体状態推定」

           横山 清子(名市大・芸工)

14:40-15:50「地方自治体による感染症への行政対応の実証研究ー2009年新型インフルエンザを事例としてー」

          小森 雄太(明治大・政治制度研究センター)

15:20-15:40  「ウェアラブルデバイスを用いた高度産業人材の育成に関する基礎的研究」 
          五條 理保(明治大・政治制度研究センター)

15:40-16:00「医療ビッグデータを利活用するベンチャー企業にできること」

          小田 一之 (インタークロス(株)) 

16:00-16:20「睡眠医療ビッグデータを利活用する数理科学に期待すること」

          中野 那津子(名市大・医)

 

第三部 教育・社会貢献

16:35-16:55 「SSHの運営委員および高校への模擬授業の経験から考える数理教育の高大連携」

         吉野 隆(東洋大・理工)

16:55-17:15「雪国からの数理教材」

         高田 宗樹(福井大学・工)

-18:30 討論

 

 

研究会 平成27年12月23日(祝)10:00-14:00 (非公開)

           場所:福井大学・総合研究棟7F知能基礎演習室

【課題】東南アジアにおける医療ビックデータの活用と高度人材の育成

課題提供者: 小森 雄太(明治大学・政治制度研究センター)、五條 理保(明治大学・政治制度研究センター)
モデレータ: 松浦 康之(Prince of Songkla 大学・人文社会)、高田 宗樹(福井大学)

 

 

討論会 平成28年1月 5日(金)10:00-14:00 (非公開)

           場所:名古屋市立大学北千種キャンパス

【課題】ASEANにおける医療の現状とウェアラブル機器の可能性

課題提供者: 松浦 康之(Prince of Songkla 大学・人文社会)
モデレータ: 横山 清子(名市大・芸工)、高田 宗樹(福井大学)

 

         [連絡先]高田宗樹・福井大学大学院工学研究科・mail:takada(at)u-fukui.ac.jp

参加者数 数学・数理科学:18、 諸科学:65、 産業界:3、 その他:0
当日の論点

 近年、ウェアラブル機器の技術開発によって、簡便に生体情報を計測できるようになった。一般的に、ウェアラブル機器によって得られた心拍数などの種々のビックデータは、医療機器を用いて測定した生体情報とは様相が異なるため、これらのビックデータを統括的に処理する方法は確立されておらず、数学的手法による解決が望まれている。そこで、ウェアラブル機器の現状と課題を以下の観点抽出し、それらを解決するための数理的なアプローチの検討を行った。

1. ウェアラブル機器と医療機器での計測部位に違いがある。

2. ウェアラブル機器で測定したビッグデータに、既存の医療データ評価手法を用いても、疾病の診断や治療の経過観察に使う評価指標として使用できないケースが多い。

3. ウェアラブル機器で測定したビッグデータの活用法・応用について。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

1.ウェアラブル機器を用いた実機実験では、データの精度にばらつきがあった。また、実験室環境と実利用の環境では条件などが異なる。例えば、木下史也氏(名古屋大学)から報告があった「アップルWatchを用いた医療ビックデータを利活用するための研究提案」では、Apple Watchで蓄積されるデータは標準機能では出力できないため、iOSで独自にアプリケーションを開発している。Apple Watchで計測される心拍数(bpm)5秒毎に自然数に変換されて出力されるため、自律神経機能検査の一つである心拍変動解析(スペクトル解析)には不向きであるものの、心拍数からA-A間隔時系列を推定して解析を行っている。Apple Watchと市販の脈波計の同時測定を行い、アシュネル試験時での心拍数について検討を行った。心拍数の平均値では、アップルウォッチと脈波計の誤差は小さいことが確認された。加えて、試験前後の両時系列においてHF成分・LF/HF成分を算出した。Apple Watchと脈波計で測定値は一致しなかったものの、両成分ともに試験前後での傾向は似通ったものとなった。アップルWatchを用いた医療ビッグデータを利活用するための研究提案2

2. 実機実験結果から近似式の推定はできたが、数値シミュレーションのパラメータが実用可能なレベルまで精度が上がっていない。

3. 測定方法やデータ取得方法を工夫する他に、次節で述べるような確率過程論における理論的再考察を行うことによって、統計モデルを得られる可能性を得た。

4. 東南アジアを中心に医療の現状とウェアラブル機器の可能性について討論が行われた。松浦康之氏(Prince of Songkla 大学)からは病院の待合室の状況が報告され、待合システムの構築が国際的にも期待される提言があった。これらを解決するための数理的なアプローチの検討を行った。ウェアラブル機器を用いた健康管理の現状と課題

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

1. 一般的な医療データとウェアラブル機器を用いて測定したデータでは、データの前処理方法ならびに統計モデルが異なってくる。

 人間医工学では時系列データを計測して状態を把握することが多い。そこで、申請者らが研究した「確率微分方程式における有効ポテンシャルと確率密度関数との対応」に関する知見は、生体システムの数理モデル化に有効であり、その推定及び理解には不可欠である。ウェアラブル機器によって得られた医療ビッグデータを利活用する際においても、この確率過程論的なスキームは有用であると考えている。そこでは、時系列を生成する確率過程がa)マルコフ性、b)遷移確率のモーメントに関する収束性、を仮定している。確率微分方程式の強制項にある場の関数を、時系列データに基づき多項式にて近似する。その回帰を行う際には、有効ポテンシャルの構造安定性を仮定し、決定係数の下限を定めた。ただし、ここで得られる数理モデルは雑音振幅係数を1とするランジュバン方程式であり、前処理段階において時系列データのある種の規格化を施すことが必要である。しかし、生体時系列データが2次元以上である場合や、生体負荷の比較検討を行う場合には、規格化を施すことが必ずしも適当でないことがある。そこで、本スタディーグループでは、雑音振幅係数が①任意の定数である場合、②空間変数に依存する場合、について検討した。①については、数値解析の併用で時間的な階層性を議論できる新しいスキームを構築できた

2. ウェアラブル機器によって測定されたデータに対する可視化処理手法の改善点が指摘された。そのため、可視化処理手法の開発および、それを踏まえた各現象の数理モデリングのあてはめが今後、必要になる。

3. ウェアラブル機器について、活用法の多様な提案があった。これらの実応用のためには、基礎データの蓄積とフィードバックを行い、信頼性の高い数理モデルを作成する必要がある。

今後の展開・フォローアップ

 今回のスタディグループによって、一定の成果が得られたものや議論の方向性が定まったものなどについては、上記のスタディグループ終了後も定期的に議論を重ねており、今後、IEEE ICCSE等の国際会議や日本電気学会等の学会誌で論文掲載に向けて努力する予定である。運営責任者は形の科学出版幹事であり、国際誌Formaの編集委員⻑を兼ねている。昨年度に引き続き、本研究会の講演者を中⼼に特集号を組み、その記録を残す予定である。形の科学会では合宿型の研究集会を企画することもできるため、次年度以降も、福井⼤学⼤学院⼯学研究科次世代プロジェクト「数理科学と生体医⼯学・産業との連携による数学イノベーションの推進エンタプライズ」および福井⼤学COC事業「国際的視点に⽴った福井県における⾼⼤連携数理教育の検討と実践」等の支援を受けて、本研究会を継続させていく。今回議論できなかったシステムを構成する各要素の数理モデル化やデータの信頼性評価手法と言った視点も加えながら、セミナーやワークショップなどの会合を開催し、継続的な課題解決の討議を行う。