医薬品・医療技術の治療効果を正確に予測する統計手法を開発

ISM2018-03
2018年5月吉日

大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所(所在地:東京都立川市、所長:樋口 知之)の医療健康データ科学研究センター 長島健悟特任准教授、同研究所 データ科学研究系 野間久史准教授(同副センター長兼任)および京都大学大学院 医学研究科 古川壽亮教授の共同研究グループは、複数の臨床試験によるエビデンスを統合し、治療効果の大きさを評価するメタアナリシスにおいて、治療効果の集団内での異質性を適切に評価し、正確に予測する統計手法を開発しました。

医療分野におけるメタアナリシスとは、過去に行われた臨床試験の結果を統合し、関心のある薬剤・治療法の治療効果や副作用の大きさを評価するための研究手法です。メタアナリシスでは、「変量効果モデル」と呼ばれる方法を用いて、試験間の平均治療効果と、異質性(治療効果の違い)の大きさを評価することが重要であり、そうした評価を行うことが一般的となっています。そして、平均治療効果の信頼区間(平均治療効果の値など、推測対象の正しい値を含む可能性が高い区間)を正しく解釈するために、平均治療効果の信頼区間や異質性の評価指標とともに、予測区間(将来試験を実施した際に観察される治療効果の値など、将来観察される推測対象の値を含む可能性が高い区間)を示すことが推奨されています。

従来の予測区間は、統合する試験の数が少ない場合に、区間の幅を過小評価してしまうことが知られていました。しかし、そうした過小評価が起こる原因に加え、区間幅を正確に計算する方法は解明されておらず、区間の幅を過小評価すれば、治療効果の過小評価と過大評価の両方が起こりうるため、正確な予測区間の評価方法の開発が必要とされていました。

そこで本研究では、これまでの過小評価の原因の大部分が、各試験間の異質性の影響を過小評価している点であることを明らかにし、予測区間を正確に計算する方法を開発しました。シミュレーションによる性能評価により、統合する試験の数が少なく、標準的な方法で大幅な過小評価が起こる場合においても、新手法ではほとんど過小評価が起こらないことを示しました。さらに、線維筋痛症におけるプラセボ治療に対する抗うつ薬の痛みの低減効果を検討した実際の医学研究に適用したところ、標準的な方法と新手法でまったく違う結果となり、従来の方法では予測区間を過小評価し、より狭い範囲として公表していた可能性があったことを明らかにしました。

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大部分のメタアナリシスは統合する試験数が20未満であるという調査結果があり、既存の予測区間を適用するとうまく評価できないケースが数多く存在すると考えられます。今回提案した新手法を用いることで、医療政策や診療ガイドラインの策定、実臨床の現場に、より正確な科学的エビデンスを提供できると期待されます。

 

統計数理研究所について
 統計数理研究所は昭和19年に文部省直轄の研究所として設置され、統計数理研究の中心的な研究機関として、その発展のための先駆的役割を果たしてきました。平成16年からは大学共同利用機関法人情報・システム研究機構の一員となり、共同利用を推進する立場として、研究所内外の研究者の交流の場を提供しながら、統計科学の理論と応用における多面的な発展に寄与しています。また総合研究大学院大学の基盤機関として、若手研究者の育成に取り組みながら、一般社会人等を対象とする統計科学の知識・技術の普及活動や国際的な研究協力・交流促進の機能を果たすよう積極的に研究教育活動等を推進しています。(http://www.ism.ac.jp ) 

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