所長挨拶

樋口知之

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2017年7月4日

統計数理研究所長 樋口知之

統計数理研究所第8代所長の故 赤池広次先生は、統計モデルを比較するための情報量規準AICを提案され、統計学そのものに大きなインパクトを与えると同時に、モデルの永続的な改良を通じて知識獲得を目指す研究スタイルを広範な研究分野において確立することに成功されました。IEEE-ACに出版された1974年の論文は、AICの思想とその有効性が明確に示されたものとして人口に膾炙しており、その年毎の引用数は発表から40年以上に渡って増え続けています。このことは、統計数理の研究成果が評価されるには20~30年程の長い時間が必要であること、またその影響が長期間に渡って継続することを示しています。WoS(Web of Science)およびScopusの2大論文情報データベースで、この引用数が2015年以降頭打ちになっています。AIC の典型的な利用法の一つとして(説明)変数選択がありますが、それがスパースモデリングと深層学習により代替されはじめたためではないでしょうか。AICの誕生からほぼ半世紀、統計数理にも新しい時代が到来した予感がしています。

このような時代の転換期に、私は最後の所長任期(平成29および30年度の2年間)を勤めます。任期中には、研究力、人材育成機能、そして社会連携の3つを特に強化していくつもりです。運営交付金が毎年確実に減っていく中、さらには法人の本部機能の充実・拡充が優先される状況で、研究所独自に採用計画を立てることが困難となっています。しかしながら、優れた人材を集積し研究コミュニティをリードしていくとともに、将来を担う人材を絶え間なく排出することは、大学共同利用機関としての最重要なミッションです。よってこの局面に、むしろ積極的な採用人事をすすめ、さらに基幹的研究組織を改革することで、次世代に対応できる多様性と柔軟性に富む組織体制を整備するつもりです。今年度は若手助教を5人採用し、女性常勤教員比率も私の所長在任中に4% から18% へと格段に向上させるなど、着手している改革の成果が出はじめています。

人材育成機能の強化も、社会から求められている最優先事項の一つです。今年度には、全国の6つの国立大学に数理・データサイエンスに関わる全学教育を振興する拠点が設置されます。日本においては長らく、統計学をはじめとしてデータサイエンスを体系的に学べる組織が本研究所を除いて皆無でしたので、人材育成を担う拠点ができたことは誠にうれしい限りです。6大学拠点が見習いから独り立ちレベルの層をターゲットとしている一方、本研究所はプロジェクトチームを引っ張っていけるような棟梁レベルの人材を育成していく予定です。この一環として昨年度の終わりに、理化学研究所革新知能統合研究センター(AIP)と連携して、機械学習速習コースの開講・教材開発を行いました。産業界との協業については、相談の窓口を一本化した共同研究スタートアップの整備、社会人研究者が腰を落ち着けて学習・研究ができるデータサイエンス・リサーチプラザの設置など、これまでも力を注いで参りました。組織レベルの機関連携講座の提供や、比較的大きな規模の民間との共同研究の呼び込みなど、外から見える形の民間との協業を発展させていきたいと考えています。

北川源四郎 前所長から所長職のバトンを引き継いだのは、東日本大震災直後の平成23年4月でした。社会の混乱と不安の中、若輩の身でありながら大きな期待に応えねばならない重圧にどうにか持ちこたえてこられたのも、諸先輩方のご助言、全職員の力強いサポート、そして研究コミュニティ等のご支援があったからです。これまで以上に研究所および社会への貢献に努めていく所存ですので、引き続きご指導およびご鞭撻をよろしくお願いいたします。