ビッグデータを活用したパンデミックの予兆・予測の研究がJST-CRESTプロジェクトとして始動します

ISM2014-04

2014年9月吉日

今日,感染症流行に関わる情報は,患者の発生に関する疫学情報だけに留まらず,病原体の遺伝子情報やヒトの接触や移動に関するデータ,伝播に関わる気象データなど多岐に渡ります.これら大規模データを活用し,数理モデルとデータ同化技術を駆使することにより,パンデミックの予兆や予測を実現することは未だ人類の科学的課題であり続けています.一方,実験医学的な検証手法を用いて病原体のミクロ情報が感染症伝播というマクロ現象に及ぼす影響は少しずつ明らかにされつつあり,また,現実的な接触の異質性などを取り込んだ数理モデルを利用して感染症流行のリアルタイム予測を実施することも少しずつ可能になりました.

本研究は病原体のゲノム情報や実験データを含む大規模な生物情報を利用したパンデミック予兆の捕捉と流行予測を実現し,それに基づいて最も望ましい感染症対策を明らかにします.具体的には(1)大規模生物学的情報を取り込んだ流行予測モデルの構築,(2)パンデミックの予兆の探知,(3)これら2つのモデルに基づく感染症対策の改善 を行います.大規模データを効率的に分析することで,パンデミックの予兆捕捉と流行拡大の予測を世界で初めて日常的に実現します.予測計算には,本年4月から稼働中の世界最大の共有メモリ領域を持つ統計数理研究所のデータ同化スーパーコンピュータシステム(愛称「A」)を最大限に活用します.また,病原体のアミノ酸置換を加味したパンデミックの予兆可能性を検討し,あわせて実験医学的検証を実施します.

予測と予兆の各々が一定の妥当性を確保して可能となるため,関連する感染症対策の社会的インパクトが定量的に記述されるものと期待され,予測は医療体制の整備やワクチン等医療資源の優先的配分に役立てられます.また,ウイルスのヒト-ヒト感染の獲得を予兆で捉えることによって,パンデミックの警戒度の設定に利用することはもちろん,ワクチンの早期生産開始や事前封じ込め策の有効性の検討にも利用することを計画しています.本研究は「大規模生物情報を活用したパンデミックの予兆,予測と流行対策策定」と題して,科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業CRESTのプロジェクトとして開始されます.東京大学,北海道大学,統計数理研究所,京都大学で共同研究として実施される学際的プロジェクトで,本研究所の樋口知之所長がデータ同化を統括する主たる研究者を務め,斉藤正也特任助教がその実装にあたります. 

[より詳しい説明及び連絡先 ]

 

 

●プレスリリース「パンデミックなどの際にワクチンの配付戦略を評価する感染症シミュレーターを開発」

●データ同化スーパーコンピュータシステムのGraph 500ベンチマーク結果について、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所、日本SGIと合同プレス発表

樋口 知之 (情報・システム研究機構 統計数理研究所 所長)
斎藤 正也 (情報・システム研究機構 統計数理研究所 特任助教)