数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 工学と現代数学の接点を求めて(2)
採択番号 2016W14
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、最適化と制御の数理
キーワード システム数理 、数理科学 、流体工学 、バイオメカニクス 、情報通信工学
主催機関
  • 大阪大学数理・データ科学教育研究センター
運営責任者
  • 小林 孝行
  • 宮西 吉久
開催日時 2016/12/20 10:00 ~ 2016/12/22 18:00
開催場所 大阪大学基礎工学研究科 国際棟 (豊中キャンパス)
最終プログラム

趣旨・目的: 計算機が発達した現在,工学における理論研究はモデリングとシミュレーションを用いた数理的方法が主体となっている.しかし,背後にある普遍的な法則や構造を摘出し,理論を精密化し,実用性を高めて現実により近づくという研究のループを完成するためには,記述法も含めた数学的な整理と,数理構造の明確化が必要不可欠である.現代の工学の進展は著しく,数学者の絶え間ない関与の必要性は,指数関数的に増大しているといえる.例えば,大規模数値シミュレーションにおける数々の手法は,その数理構造と数学基礎が解明されたことで普遍的な道具となり,数学研究の源泉ともなって,適用範囲が広がってきた.工学において様々な分野で用いられてきた数理的方法や理論を,現代数学の立場から見直すことが,科学技術を実用化するために重要である.このことは一方で,専門的な高等数学の研鑚を積んだ学生や,純粋数学研究に携わる研究者に広い視野を提供する場を与え,数学を豊かにし,人材を育成するという,数学イノベーションの趣旨に適合するものである.本ワークショップでは,システム数理,流体工学,情報通信工学の3つに焦点を絞り,工学で展開されている数理的方法と,高度に抽象化された現代数学との接点を探っていく.

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構成 (1時間講演+30分質疑&議論)

第1日目:(担当:潮俊光,乾口雅弘) (講演の写真 初日1   )
セッションテーマ:「システム数理と現代数学の接点」

10:00-10:20  Opening (鈴木貴 MMDSセンター長挨拶)
10:30-12:00
「模倣関係を用いたシンボリック制御器設計法」
大阪大学大学院基礎工学研究科 潮俊光
13:00-14:30
「超準解析を用いたハイブリッドシステム検証手法」
京都大学情報学研究科 末永 幸平
14:50-16:20
「逆凸2次計画問題に対するFJ点列挙法を用いた大域的最適化手法」(仮題)
新潟大学理学部 数学科 山田 修司
16:30-18:00
「ファジィ共クラスタリングと協調フィルタリング」
大阪府立大学大学院工学研究科 電気・情報系専攻 本多 克宏

第2日目:(担当:小林孝行,後藤晋) (講演の写真    
セッションテーマ:「流体工学と現代数学の接点」
10:00-11:30
「混相流について」
早稲田大学基幹理工学部 数学科 柴田良弘
13:00-14:30
「圧縮性 Navier-Stokes 方程式の Poiseuille 流の不安定性と分岐進行波解」
九州大学大学院数理学研究院 数理科学部門 隠居良行
14:50-16:20
「スパコンを用いたオイラー型流体構造連成シミュレーション」
大阪大学大学院基礎工学研究科 機能創成専攻 杉山和靖
16:30-18:00
「計算バイオメカニクスにおける逆問題事例の紹介と大規模計算によるアプローチ」
大阪大学大学院基礎工学研究科 機能創成専攻 伊井仁志

第3日目:(担当:丸田章博)(講演の写真   )
セッションテーマ:「情報通信工学と現代数学の接点」
10:00-11:30
「客の待ち時間に制約のある待ち行列モデルの解析」
大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 井上文彰
13:00-14:30
「通信ネットワーク計測への数理的アプローチ」
大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 松田崇弘
14:50-16:20
「光ファイバ中で生じる非線形現象の固有値に基づく解析」
大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 丸田章博

16:30-18:00 

「循環器系疾患の患者個別治療にむけた計算力学解析の試み」

大阪大学大学院基礎工学研究科 機能創成専攻 大谷智仁

 

プログラムについては、

http://www-mmds.sigmath.es.osaka-u.ac.jp/structure/activity/workshop.php?id=34

も参照。ポスター

参加者数 数学・数理科学:58、 諸科学:24、 産業界:2、 その他:0
当日の論点

現在の工学で用いられている数理的手法や数値シミュレーションを統括する視点の必要性を論議した。主としてシステム数理、流体工学、情報通信工学を取り上げ、現実の問題を解決するために工学で開発された数理的手法や数値シミュレーションを吟味した。これらの手法やシミュレーションでは、数理的に興味深く、重要な問題が内在していることを改めて確認することができた。より高度な発展と普遍性を付与するために、シミュレーション科学が理論科学やデータ科学とどのように協働していかなければならないか議論し、模索した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

総括:最初にシステム数理における数理的手法及び最適化の問題を検討した。いずれも現実問題に有効に機能しているが、データ科学や理論科学の裏付けを明確にすることが必要であることが了解された。二日目には流体力学を取り上げ、Navier-Stokes方程式に基づいた理論背景、シミュレーションにおけるツールも議論し、さらに、それぞれの方法の有効領域と組み合わせによって流体工学が飛躍的に発展していることが改めて示された。シミュレーション科学が著しく進展している一方で、実用性を越えた数学理論との交叉や、生体への応用の可能性も期待されていることがわかったのは大きな収穫である。特に厳密な数学研究,数値シミュレーション, 実験が3身一体となった研究がイノヴェーションを推進していくうえでの核となることが確認された。最後に取り上げた通信工学では、光ファイバーなどが典型例であるが非線形偏微分方程式の構造の見極め、さらに確率過程の扱いや網羅的な実験に加えて、数値シミュレーションの重要性も確認された。しかし、実験科学の要請に対してシミュレーションのツールは必ずしも万能ではなく、個別の問題に応じて連携を進めて工夫していく必要があることが了解された。

個別に提起された、研究の現状と課題:(PDF参照)

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

現在のシミュレーション科学の1つの動向として、基礎方程式の直接的な使用だけでなく、そこから発展して新しいモデルを使用していくことが自然に行われるようになっている。この場合、大きく分けると現象に立ち戻って粗視化したモデルを構築する立場と、基礎方程式の組み合わせを「丸めて」より簡明なシステムに移行する立場があるように思われる。工学で粗視化した現象論的モデルを使う場合には、アダプティブなシミュレーションを組み込んでいく必要がある。その場合、データ科学との協働が有望であり、今後検討していかなければならない。一方で後者の立場からは理論科学との密接な連携が必要不可欠であり、ツールとして使うだけでは大きな発展は望めない。人材育成を含めた学術交流を活発化する必要があり、逆に言えば、厳密な取り扱いをすることで数学理論の発展に寄与できるものがいくつかあることを、今回の研究会でも再確認した。

今後の展開・フォローアップ

工学の分野でも、純粋数学を中心とした理論科学と応用数学を主体とするシミュレーション科学が解離する傾向があり、計算機が発達すればますますその方向に進みかねない。それだけに、現時点において一歩立ち止まり、双方の見方で見直してみることが大変に有効である。大学院での高度副プログラム、本研究会とともに、理論的な側面を自由に議論する場を継続的に確保することを考えていきたい。 以上を踏まえ、次年度は数理・データ科学教育研究センターの数理モデルコースにおいて、数理工学コースを新規開設し副プログラムにも反映することになっている。