数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 日本血管生物医学会数学セッション
採択番号 2016W12
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 血管新生 、数理モデル 、数値シミュレーション
主催機関
  • 日本応用数理学会数理医学研究部会
運営責任者
  • 鈴木 貴
  • 牧野 恭子
開催日時 2016/12/09 09:00 ~ 2016/12/09 11:00
開催場所 長崎ブリックホール
http://www.brickhall.jp/

〒852-8104 長崎市茂里町2-38
TEL.095-842-2002
FAX.095-842-2330
Mail.info@brickhall.jp
最終プログラム

開催時期:2016年12月9日(金) 9:00~11:00

座長:鈴木貴(大阪大学), 高倉伸幸(大阪大学)

演者:

Jayashree Kalpathy-Cramer(マサチューセッツ総合病院)

 Drug delivery in brain tumors: mathematical modeling and in-vivo validation with multimodal imaging 

金井政宏 (東京大学) 金井  

 Mathematical analysis of cellular directional movement: application for angiogenesis research

Dhisa Minerva(大阪大学)   

 Mathematical Studies on Angiogenesis

西山功一(熊本大学) 西山   

 Coordinated angiogenic movement of tip endothelial cell revealed by experiments combined with mathematical modeling

三浦岳(九州大学)   

 Modeling vascular pattern formation in retina vasculature

参加者数 数学・数理科学:5、 諸科学:45、 産業界:、 その他:
当日の論点

最初に、本セッションの概要を座長の一人である鈴木が説明した。数学を用いた生命機能研究プロジェクトの例として、全米で展開しているIntegrative Cancer Biology Programについて、A. Friedmanなどの著名な数学者がプロジェクトの中核を担っていること、ロゴが2重らせんと走化性方程式の組み合わせであることなどを交えて紹介した。次いで、複雑に関係する生命に係る出来事と生体の階層に対して、データ科学と数理科学の両方向からのアプローチが必要であること、とりわけシステム生物学から数理モデルを構築するところがミッシングリンクであり、そこを埋め、さらに先に進めて生命現象に回帰するために、数理モデリングと数値シミュレーションのパラダイムを変更する必要があることを具体的に論じた。次いで研究発表に移り、脳腫瘍悪性化について血液の流量、透過率、拡散によって微小環境をモデリングし、MR・PETを併用した動画による臨床デーによってパラメータを定めた生体病理を予測する方法、個別細胞の速さに異方性を与えて細胞遊走における異常拡散を再現する研究、走化性と走触性を記述する血管新生モデルから先端細胞の動態を再現する離散・確率シミュレーション、細胞接着によって信号が伝達されて個別細胞が性格を変えることについて、細胞生物学実験によるエビデンスに基づく数理モデルの構築、また網膜における血管網のパターンの形成についてマレー則を含む数理的な法則をシミュレーションによって吟味した研究が報告され、それぞれについて数理科学、生命科学双方の研究者による質疑を行った。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

生命現象研究における数理科学の役割としては、数理モデリングと数値シミュレーションの2つの側面があり、これらはそれぞれに独自の立場で発展させる必要があることが明確になってきている。数理モデリングで中心となるのは、生命科学研究に基づいて、観察される現象を種々の量のバランスとして記述する方法で、本セッションでは常微分、偏微分の他に中間的なものとしてコンパートメントやセルオートマトンを使った研究方法も討議した。モデリングで重要なもう1つの観点はマルチスケール性で、様々な階層の出来事を数理モデリングに統合するときに不可欠な技術であり、成功例を検証することによって対象と適切な数学的記述とが明確になりつつある。一方、数値シミュレーションについてはモデルに忠実な離散化と、モデルが記述する法則を直接規則として与える2つの方向があることが明確に意識されるようになっている点は新しいパラダイムの登場と言える。セッションでは特に前者として上流差分の方法、後者として粒子の存在確率を2値化するブーリアン変数の方法、環境勾配を粒子位置の遷移確率に変換する離散・確率シミュレーションの方法を吟味した。今後、これらの方法が自在に展開していくことが予想される。数理科学と生命科学の協働では血管生物医学が特に著しく発展している。個別の問題で成果を上げるだけでなく、モデリングやシミュレーションにおいて上記のような新しい考え方を生み出し、生命科学と数理科学の融合を進めるエンジンともなっている。今後の課題として、階層的なモデリングと適合的なシミュレーションがあるが、両者はいずれも血管生物医学研究で期待されているもので、すでに先駆的な研究も始まっていることから、今後多方面で応用され、重要な課題となってくるものと考えられる。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

今回の討論によって、モデリングで重要な流束の概念については、リュービルの公式から質量と速度の積であること、従って粒子速度を決めればブーリアン変数や離散・確率シミュレーションが可能であることが明確になってきた。この考え方を用いると、数値シミュレーションのスキーム構成の理論基盤が構築できるので、機を逃さず細胞遊走について研究を加速させる必要がある。とりわけ血管新生において先端細胞と茎細胞の相互作用が、蛍光を用いた計測技術の進展によって明確になっており、数値シミュレーションによって理論的な仮説を検証する機運が高まっている。また血管新生において、細胞は単なる遊走をしているのではなく、細胞間のシグナル伝達による相互作用やECM分解によって運動抵抗を消滅させていることも論じられており、自由境界を用いて個別細胞を記述するなどの、より進んだ数理的方法の開発が求められている。

今後の展開・フォローアップ

血管新生については、特に大阪大学、熊本大学を中心として、数理科学と血管生物医学の研究室が協力して、種々の数理的方法を吟味しつつ、細胞生物学実験との融合研究を進めていくこととなった。当面はいくつかのプロジェクト研究を足場として、海外も含めた複数の研究室をネットワークとして、共同研究網を活性化していきたい。