数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 ウェーブレット理論と工学への応用
採択番号 2016W09
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、計測・予測・可視化の数理
キーワード ウェーブレット解析 、音声・画像処理
主催機関
  • 大阪教育大学
運営責任者
  • 守本 晃
  • 芦野 隆一
開催日時 2016/11/22 13:20 ~ 2016/11/23 15:00
開催場所 大阪教育大学 天王寺キャンパス
西館 第1講義室
最終プログラム

ウェーブレット理論と工学への応用プログラム
平成 28 年 11 月 22 日(火)13:20 -- 18:00

13:30--14:30
章 忠, CHONG HUEI SHAN, 戸田 浩, 秋月 拓磨, 三宅 哲夫 (豊橋技術科学大学)
2次元複素数離散ウェーブレット変換による上咽頭粘膜病変部位の抽出

15:00--16:00 鈴木 俊夫, 善甫 啓一, 木下 保 (筑波大学)
ウェーブレットを用いたディストーションサウンドの特徴量抽出

16:30--17:30 芦澤 恵太 (舞鶴高専), 森田 雅貴 (名城大学)
DCTとウェーブレット変換を縦横に組み合わせた直交変換を
ブロック毎に用いる適応的画像圧縮法


平成 28 年 11 月 23 日(水)9:30 -- 15:00

9:30--10:30 井川 信子 (流通経済大学), 守本 晃, 芦野 隆一 (大阪教育大学)
他覚的聴力検査に用いる誘発脳波のウェーブレット解析についての考察

11:00--12:00 新井 康平 (佐賀大学)
ウェーブレットによるポラリメトリックSAR画像分類

13:30--14:30 滝口 孝志 (防衛大学校)
コンクリート建造物に対する超音波CT開発と窓関数の応用


詳しくは,
http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~morimoto/TENWS/ws2016HP/index.html
参照.

予稿集を up load する.wavelet2016proceedingsR1

参加者数 数学・数理科学:21、 諸科学:3、 産業界:、 その他:
当日の論点

今回のワークショップ「ウェーブレット理論と工学への応用」では,以下の6件の講演があった.それぞれの概要と論点を載せる.
1.「2次元複素数離散ウェーブレット変換による上咽頭粘膜病変部位の抽出」
上咽頭粘膜病変は臨床的に特徴的な所見が乏しく,診断に苦慮する疾患である.これまで,経験のある医者は内視鏡の画像により,上咽頭粘膜に特徴的な変化を観察し,診断を行っている.本研究では,客観的な診断方法を支援するために,2次元複素数離散ウェーブレット変換を用いて内視鏡検査によりで得られる画像から粘膜の病変部位を抽出し,数値化することを試みた.さらにこの手法の問題点と改善について議論した.
2.「ウェーブレットを用いたディストーション・サウンドの特徴量抽出」
ディストーション・サウンドが用いられている音楽の耳コピの精度は,個人の能力や経験に大きく依存する.しかし,ディストーション・フィルターはクリッピングを含む非線形変換であるため,Fourier変換を用いた解析は難しい.今回我々はウェーブレットを用いて,ディストーション・サウンドの歪みの特徴量を提案した.さらに,提案手法を用いた耳コピへの応用について紹介した.
3.「DCTとウェーブレット変換を縦横に組み合わせた直交変換をブロック毎に用いる適応的画像圧縮法」
現在,普及している非可逆画像圧縮方式の多くは,ブロック単位の離散コサイン変換DCTに基づいている.平成25年の本ワークショップにおいて,最も単純なウェーブレット変換であるハール変換を利用することで,DCTに由来するJPEG標準の代表的な視覚的歪を軽減するアイデアを紹介した.本講演では,その後の研究成果を報告し,ハール変換を画像圧縮に用いた最近の研究について報告し,議論した.
4.「他覚的聴力検査に用いる誘発脳波のウェーブレット解析についての考察」
自分の意思できこえを応えることができない場合,他覚的聴力検査が実施される.その中でも耳から音刺激を与えて誘発される脳波を用いる検査がある.この検査はMRIなどに比べると安価で行われる検査なので健診などでの活用が望まれるが,脳波解析の難しさのために検診レベルの実用化が遅れている.計測時即時診断の実現を求める目的で,我々はこれまで聴性誘発脳波解析にウェーブレット解析を適用してきた.これまでの成果と課題についてまとめ,問題点を明確にし,その解決策について議論した.
5.「ウェーブレットによるポラリメトリックSAR画像分類」
地表面とマイクロ波とのインタラクションメカニズムを偏波情報から解析することにより,画像分類する手法を紹介した.その際,偏波情報の分解による散乱メカニズムの解明を用いる方法も紹介した.さらに,これに離散ウェーブレット変換を考慮することにより,新たな情報抽出が可能になって分類制度向上が期待できることを検討した.
6.「コンクリート建造物に対する超音波CT開発と窓関数の応用」
コンクリート建造物に対するtomographicな非破壊検査技術は未開発であるというのが現状であるが,近年,三田紀行(職業能力開発総合大学校)と滝口の協働により,コンクリート建造物に対する超音波CT開発のアイデアを提案した.本講演では,コンクリート建造物に対する超音波CT開発のアイデアを紹介し,この問題に対する窓Radon変換の応用に関して議論した.

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

とおりである.

1.上咽頭粘膜画像の高輝度部分を外した切り出しとグレースケール化,2次元複素数離散ウェーブレット変換を用いた画像の鮮鋭化とノイズ除去,モルフォロジーによるうろこ模様抽出を経て,病変部のうろこ模様を抽出することができた.今後,抽出精度を上げることが必要である.
2.ディストーション・エフェクタの定義とディストーション・サウンドの解析方法として従来から用いられている全高調波歪み率の問題点の提示と改善手法を3通り示した.しかしながら,どの改善方法も一長一短有り,もう少し総合的な解析方法の構築が必要である.
3.画像のブロック毎に,縦横方向それぞれに,離散コサイン変換・ハール変換・アルバートウェーブレットによるマルチウェーブレット変換から適当な基底を選び画像圧縮を行う方法を提案した.ブロックサイズの選び方,基底の選び方,量子化行列の取り方などに改善の余地がある.
4.脳波で行う他覚的聴覚検査の診断処理にウェーブレット解析を利用することにより,診断速度の向上を試みた.速度の数倍の向上は確認されるが,多くの被験者による実験や用いるウェーブレット関数の選び方の改良など今後行う研究課題は多い.
5.多偏波干渉合成開口レーダーからの画像データを用いた土壌検出(田,林,ビルなどの分類)において,レーダー画像から得られた特徴点を圧縮してある程度の精度で分類することはできた.画像から得られた多くの情報を巧く組み合わせて,分類精度を向上させる必要がある.
6.鉄筋コンクリートに磁場をかけて,磁場を解除するときに鉄筋から発生する超音波を利用して,コンクリートの内部構造(劣化具合)をコンピューター・トモグラフィーの要領で調べようという研究である.トイモデルに対して,最初に到達する波の時間から最短経路を推定することはできた.今後の課題として,内部状態を推定するための窓ラドン変換などの理論の構築とより複雑なモデルを用いた実験が必要である.

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

6件の講演について,「新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと」は,以下のとおりである.

1.上咽頭粘膜画像の撮影時のコントラスト・反射などの影響が,病変部のうろこ模様を抽出の成否にかなりの影響を与えることが分った.高輝度部分の削除・グレースケール化のコントラスト調整・ノイズ除去・モルフォロジーによるうろこ模様抽出の各段階を適切に設計し,ロバスト性を向上させる必要がある.
2.ディストーション・サウンドの解析方法として,ハールウェーブレットを用いた波形の連続ウェーブレット変換による微分法,波形の局所エネルギーを調べる積分法,波形の絶対値の1/4乗の連続ウェーブレット変換を積分する微分積分法が提案されたが,どれもディストーション・フィルターを推定する用途には不十分であり,この後の研究が期待される.
3.今後,4K, 8K などサイズの大きな画像に対して,ブロックサイズの選び方,基底の選び方,量子化行列の取り方などのパラメータを改善すること.画質の評価法(psnr,ssim)を巧く組み合わせれば,標準画像に対してのパラメータの取り方を自動学習する.
4.聴性脳幹反(ABR)の低周波数領域の位相が揃う現象についての数理モデルによる裏付けを行って,高周波数領域のみを使った診断法の妥当性を示す必要がある.また多くの被験者による実験を行うことにより,提案手法を検証する必要がある.解析に用いるウェーブレット関数の選び方の改良も必要である.ハードウェア化も必要である.
5.多偏波干渉合成開口レーダーからは,土壌を決めるときのエリア一つ当たり 160 種類ほどの観測値が得られる.これらの観測値を使って,エリアの土壌を決定するのであるが,正答率が不十分なので,分類精度を上げる必要がある.
6.トイモデルに対して,最初に到達する波の時間から最短経路を推定することのみできたので,今後の課題として,内部状態を推定するための窓ラドン変換などの理論の構築とより複雑なモデルを用いた実験が必要である.

今後の展開・フォローアップ

ホームページに予稿集を載せる.進展があれば,応用数理学会のウェーブレット研究部会のセミナーで講演してもらう.このような研究集会を定期的に開催する.学会や国際会議などをオーガナイズして,研究発表や情報交換の機会を設ける.ウェーブレット研究者のメーリングリストを活用して,研究者の相互紹介・共同研究の提案などを行う.