数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 第75回 日本癌学会学術総会国際セッション「統合数理腫瘍学の方法」
採択番号 2016W05
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 基礎医学 、数理腫瘍学 、システム生物学 、バイオインフォマティクス 、画像解析
主催機関
  • 日本応用数理学会数理医学研究部会
運営責任者
  • 鈴木 貴
  • 牧野 恭子
開催日時 2016/10/06 09:00 ~ 2016/10/06 11:30
開催場所 パシフィコ横浜 第2会場
http://www.pacifico.co.jp/
〒220-0012 横浜市西区みなとみらい1-1-1
TEL 045-221-2155 (総合案内)
最終プログラム

2016年 10月6日(学術総会は10月6日~10月8日)

日本癌学会学術総会

http://www.congre.co.jp/jca2016/

インターナショナルセッションI

「統合数理腫瘍学の方法」 Methods of integrative mathematical oncology

 

10月6日(木)0900-1130

座長:鈴木貴(大阪大学)Yu Shyr(ヴァンダービルト大学)

講演:

伊東剛(東京大学)
Mathematical analysis of the role of CADM1 in the MET-driven resistance against gefitinib in lung adenocarcinoma

 

板野景子(大阪大学)
Mathematical segmentation methods for visualization ns and its application and analysis to detecting lesions


Yao-Ting Huang (国立中正大学)

Early Detection of Lung Adenocarcinoma via 3D Structure Reconstruction from Low Dose Computed Tomography

 

久米 浩平(岩手医大)

Protein dynamics in response to genotoxic drugs regulated by proteasome system

久米浩平


Chen-Hsin Chen(国立台湾大学)

Statistical Modeling for Progression to Cancer, Targeted Therapy and Cure


Luonan Chen (上海生物科学研究所、中国科学院)

Molecular biomarkers, network biomarkers and dynamical network biomarkers for complex diseases


Yu Shyr(ヴァンダービルト大学)

Statistical Aspects of Omics Data Analysis Using the Random Compound Covariate

参加者数 数学・数理科学:10、 諸科学:40、 産業界:10、 その他:10
当日の論点

癌研究における数理的な方法の導入は国際的な潮流である。ヨーロッパ各国において研究拠点が構築され数理モデルを用いた研究が活発に行われる一方、米国では政府が数十億ドルを投下し、12大学を拠点とする統合癌生物学プログラム(ICBP第2期)が運営されている。我が国でも日本学術振興会拠点形成事業、科学研究費補助金など個別のプロジェクトが進行し、日本応用数理学会では数理医学研究部会による継続的な活動も行われている。生命科学、数学の研究水準を考えると、我が国の統合数理腫瘍学の潜在的な活力は高く、諸外国の研究状況を把握するために日本癌学会学術総会において国際セッションが企画されたことは画期的であり、今後の研究の動向を考えるために非常に有意義である。本総会において、特に東アジア諸国との連携が重視されていることに鑑み、台湾出身でICBP拠点の1つであるヴァンダービルト大学定量がんセンター所長のYu Shyr教授を外国人座長兼招待講演者、上海生命科学研究所Luonan Chen教授、中国学術院(台湾)Chen-Hsin Chen教授を招待講演者として招聘した。3名に加えて国内、国外からの招待講演者、一般応募者も含め、総勢7名の演者によるセッションを組み、膜タンパクの相互作用、複雑系ネットワーク解析、CTからの3D画像再構成、臨床画像の統計的処理法、ビッグデータ(RPPA)援用プロテオゾーム解析、オミックスデータの統計について現況の報告を受け、臨床データの統計的処理、常微分方程式・偏微分方程式を用いた細胞分子動態や血管新生の数理モデリングとその数値解法、システム制御と非線形力学系を用いた生活習慣病の病態予測の理論、積分幾何学を用いたCT画像分析法の改善について数学的な方法が提案され、質疑を行った。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

統合数理腫瘍学は理論、実験、シミュレーション、データの4つの方法が融合した科学であるが、大きく分けるとデータ科学と数理モデリングの2つの要素から構成されている。全体的に数学の果たす役割は大きいが、データから生命科学理論(モデル)を構築した後で、数式で表す部分が鍵となる。この部分はいくつかのプロジェクトを核として基礎研究が急速に進展中で、数学と癌研究の協働が漸次広がっている状況にある。しかし癌研究における数学の位置づけとしては、依然としてデータ分析のツールとしてのみの需要も大きく、全体を統合する出発点として実験と理論の融合、とりわけ人材の育成が急がれる。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

データ科学に比べて、数理モデルを用いた研究をもう少し振興する必要があることが、複数の参加者から表明されている。統合数理腫瘍学ではシステム生物学はデータ科学の出口にあり、両者を仲介する役割を担うが、機械学習や情報理論など、ビックデータを用いて複雑系システムを分析する手法自身が先進的な研究の対象となっているため、現在の多くの研究室で実施されている研究とのギャップも見受けられる。一方 実験と理論を直接結ぶ数学の需要は高く、生命科学者のハードルを低くするための数理モデル研究を展開していく必要がある。当セッションは我が国におけるがん研究者が一堂に会する大きな会議で、参加者も5000人を越える。その殆どが臨床や基礎医学の研究者であり、数学の用語や概念に習熟しているわけではないが、数理的手法の開発に寄せる大きな期待が寄せられている。とりわけ実験医学の研究者は複雑なデータから生命動態を説明する明確な原理を、医療に関わる医師は通常では判定不可能な診断を求めている。とりわけ前者については細胞膜分子動態について遺伝子解析と蛍光技術で予想されるできごとを、質量作用の法則や物質濃度の空間分布についての拡散や走化性を用いて数式で書く方法、後者については混合ガウス分布と前処理を用いた顕微鏡写真の分析法が、医学応用可能な新たな数理的方法として注目された。

今後の展開・フォローアップ

各種のプロジェクトや研究部会を基盤として、薬剤耐性をはじめとするがん研究における重要事項について、数式を用いた数理モデル研究を加速させたい。そのために、来年度もセッションを運営することを考えている。当面の研究では、予想通り臨床画像の統計的処理法は注目を集めている。病理研究者からの診断困難な画像提供の申し出もあり、特許申請、商業誌(実験医学増刊号)での論文発表も絡めて研究を進展させたい。