数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 生命ダイナミクスの数理とその応用:新規課題の探索と新しい方法論の探求
採択番号 2016W03
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、計測・予測・可視化の数理 、最適化と制御の数理
キーワード キーワード 数理生命科学提言課題(1) 、生命動態 、システム動態 、生体高分子構造 、トポロジー 、物理理論 、幾何学
主催機関
  • 東京大学大学院数理科学研究科
運営責任者
  • 井原 茂男
  • 時弘 哲治
  • 栗原 裕基
開催日時 2016/07/28 00:00 ~ 2016/07/30 00:00
開催場所 東京大学玉原国際セミナーハウス
最終プログラム

生命動態システム科学拠点を中心として2016年7月28日-7月30日の間の3日開催した。生命動態システム科学拠点とCRESTの成果を中心に、数理生命科学提言課題の「ダイナミクス」(「数理生命科学提言課題(1)」)のオープンプロブレムに生命科学の幅広い観点を取り入れ、物や計算物理学での最適化手法の数理を取り込んだ「生命ダイナミクスの数理とその応用:新規課題の探索と新しい方法論の探求」の最終プログラムを作成した。生命動態システム科学推進拠点事業: 東京大学 生物医学と数学の融合拠点(iBMath)のメンバー:児玉大樹、高村正志、小鳥居祐香の協力を得て会を運営した。

 

7月28日

15:00  挨拶:井原茂男、栗原裕基

    グループ分け、自己紹介

16:00-16:30 休憩

16:30-17:00 石原 海 (山口大学)

                     DNAの部位特異的組換えと絡み目のバンド手術

17:00-17:30 伊藤 昇(東京大学)

        実験で見え難い紐の一部を"観る"2つのアプローチ ―微分構造と線形代数―

 

話題提供 と グループ討議

17:30-18:00 穂坂 秀昭(東京大学)RNAの2次構造の数え上げ問題

20:00-21:30  小南 友里 (東京大学)  2件  

       農学生命科学における数理課題I: 魚類筋肉組織における動的タンパク質分解の実態を明らかにする

 

       農学生命科学における数理課題II:安定同位体 15 Nを用いたタンパク質ターンオーバーの定量解析

       

7月29日

  9:00-10:00 望月敦史 (理科学研究所)

        化学反応システムの摂動応答をネットワークだけから決定する

10:00-11:00 高村正志(東京大学)

        数理科学の諸問題と大規模計算

11:00-12:00 三石史人(学習院大学)

        アレクサンドロフ空間のはり合わせ

 

12:00-13:00   昼食

 

13:00-15:00   散策 およびグループ討議

15:00-16:00 中川 正基(広島大学)

                     触媒反応ネットワークにおける少数性効果の解析的枠組み

16:00-16:45 難波 利典(広島大学)

                     バクテリア走化性精度に関する定量的解析

16:45-17:00 休憩

17:00-17:30   寺口 俊介 (大阪大学)

                     最近接点の確率モデルに基づくトラッキングを行わない拡散係数の推定 

17:30-18:15 内村 直之

                     数学を面白がるとはどういうことか?

20:00-           グループ討議

 

 

7月30日

  9:00-10:00 木村 宏 (東京工業大学) 

                     生細胞における転写活性化キネティクスの制御

10:00-10:30 休憩

10:30-12:00 参加者からの発表

        比留間英 (東京大学)遺伝的プログラミングによる時系列データ解析

                    浅尾泰彦(東京大学)DNA組み換え酵素の活性化方向について

                    小南 友里、下野 祐輝、林 達也 (東京大学)  数理科学と生命科学の融合I:線形重回帰モデルを用いたタンパク質分解動態の解析

                  小南友里、浅尾泰彦 (東京大学)  数理科学と生命科学の融合II:15N含有飼料を用いた魚類のタンパク質ターンオーバー解析

         

    挨拶:栗原裕基、坪井俊、井原茂男

12:00-13:00   昼食 解散

参加者数 数学・数理科学:17、 諸科学:9、 産業界:、 その他:1
当日の論点

今回のワークショップは、会場の関係で、あらかじめ参加登録をした参加者のみで研究会を行い、下記を展開することを目標とした。

 

(1)プロジェクトの枠を超えて広く参加者を募集し、サマースクール形式を兼ねたワークショップを生命動態のテーマを軸に展開。

(2) 融合的な研究を進めている、熱意ある様々な年齢層の研究者にご講演いただきつつ、若手向けにサマースクール形式で課題を提示あるいは若手とともに解決方法を探ることで、お互いに十分に議論できる場を提供。

(3)さらには数理および様々な生命科学の分野の人材が数日間の成果を発表し、最新の数理解析を学ぼうとする生命科学の学生・研究者に今後の発展に資することのできる場を提供。

(4) 研究の結果の社会への還元、起業、産業界との連携についての議論の場を提供。

 

本研究会を通じての発表と議論から、DNAの部位特異的組換えと絡み目のバンド手術、転写における組紐、絡み目、ネットワーク解析など数学的にはかなり高度な立場から、具体的な分子生物学への応用について進展があることがわかり、数学的にも生命科学を題材にした大きな発展が期待できることを参加者全員が納得した。

転写活性化キネティクスなど、実験からも生命現象の数理モデル化に必要な情報が得られてきており、今後とも生命科学と数理科学の融合が多いに期待できるとも明らかになった。今後の生命科学と数理科学の融合について、医学、薬学のほか、食品科学、農学、水産学での応用についても積極的な議論がなされた。

 一方で、本研究会は融合研究推進のために立案し、参加者は学生や研究者は融合研究に従事している人達が多かったが、一般の参加者からは応用も良いが、応用ではなく純粋数学の分野で大きな仕事をすることも大事という意見もあった。今まで最大限の努力をし、融合研究での成果を挙げてきたつもりであったが、生命科学と数理科学を融合分野として育成することは思いの他多難な大事業であることも認識できた。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

生命科学のうちで基礎に相当する分子生物学での分子過程、分子間の相互作用ネットワーク、ネットワークのトポロジーからの安定性解析、細胞の運動過程などでは、生命動態プロジェクトの成果も含め現在でも数理科学の応用が進んでいる。上記プロジェクトなどで進展がある転写や分裂過程での分子相互作用の時系列変化、分子相互作用ネットワークの時系列変化はこれからのテーマであり今後の発展が期待される。今回の出席者からの指摘にもあったが、生命科学の基礎から踏み出した生命科学の応用面、医学、臨床、農学、水産などの課題において具体的な数理科学からの貢献については十分ではなく、その方向で数理科学が大きく寄与していけるような体制の構築が望まれる。

情報解析の分野では当たり前の手順であるようなデータ解析が、数学者にも、また実験をする人にも困難であり、数理、特に数学者と生命科学の実験研究者との間には議論する上で大きな隔たりがあると感じられた。異分野の人へのわかりやすいプレゼンの仕方を今後学ぶ必要があるように感じた。また、両者をつなぐために、大規模なデータや特異的なデータに対しても解析可能であるようなデータ処理の自動化、および情報解析の研究者の育成が急務であることも浮き彫りになった。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

生命科学の基礎から踏み出した応用志向の臨床医学、農学、水産などにおいて数理科学が大きく寄与していけるような多くの課題があり、数理科学研究者の参画への意識付け、新たな体制の構築も必要である。特に今回、農学生命科学の分野での積極的な問題提起があった。食品科学などで新たな課題があることが参加者からの発表、議論を通して実感できた。

(会の様子、および会の終了後、一ヶ月後をめどに提出された課題に対する検討結果の報告書は添付のPDFを参照されたい。)プログラム抄録と報告書2016_まとめ

一方、これまで数学の中で応用分野で課題を見つけ進めてこられた方々の内容、例えば、転写におけるクロマチンの紐構造、DNAのトポロジー解析、ネットワーク理論、転写の数理モデル、細胞の遊走などからは、これらの応用においてより積極的に数理科学の観点からアプローチしていけば、さらに大きく発展できる課題が多く見られた。面白い共同研究につながるような課題も多く、今後のさらなる探求が期待される。

数理研究者が生命科学研究者や産業が抱える問題を共有し、

・研究者同士のネットワークの構築、

・連携テーマの具体化、

するために、連携に不可欠な知財権の獲得や維持について議論の予定であったが、当初に予定していた発表者がこれなくなり、こ今後の検討すべき課題として残った。今回はサマースクールの形式をとったために、民間企業からの参加は少なかった。企業からの参加を積極的に促す開催方式の検討が必要であった。

今後の展開・フォローアップ

クロマチンの紐構造、DNAのトポロジー解析では、参加者から斬新なアイデアが提出されたので、本研究会は、今後、幾つかの研究機関からなる共同研究の形などをとっていけるようなきっかけとなった。今後ともさらに交流を深め、成果につなげたい。

若手の参加者からは生命動態融合拠点(iBMath)やCRESTで進めている研究へ大変興味を持っていただき、研究への参画も打診されている。また、フォローアップのための半年後の本研究会の開催も参加者から望まれるなど予想以上に具体的な成果に直結する流ようなポジティブな活動につなげることができた。

また、この会を通じて検討した課題について、一ヶ月でまとめ上げる作業を参加者に依頼したところ、質の高い結果が得られた。

これらは本会の目的が予想以上に達成できたのではないかと主催者としては考えたい。今後とも現在の参加者の結果を継続的に発展させる共同作業を続けることで幾つもの大きな成果に繋がっていけそうである。今後とも継続して発表の場を提供しするなど、融合研究の環境を提供して行きたい。

本会議の講演内容については、講演だけにとどまらず、講演とその後の経緯も記載し、取り上げた課題の結果の進展の様子を記述した冊子としてまとめ、各所に配布する予定である。