数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 日本細胞生物学会大会 数学セッションプログラム
採択番号 2016W02
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 細胞生物学 、生命動態 、数理モデリング
主催機関
  • 日本応用数理学会数理医学研究部会
運営責任者
  • 鈴木 貴
開催日時 2016/06/16 09:30 ~ 2016/06/16 12:00
開催場所 京都テルサ(京都市南区東九条下殿田町70番地)
最終プログラム

開催時期:2016年 6月 16日

開催場所:京都テルサ(京都市南区東九条下殿田町70番地)

プログラム: 第68回日本細胞生物学大会S9「生命動態の定量化~数理科学とデータ科学からの提案」

座長 鈴木貴(大阪大学)、浅井潔(東京大学)

講演者

郡宏 (お茶の水女子大学)「時差ボケの東西移動に対する非対称性・実験と数理の協働アプローチ」

井上康博(京都大学)「頂端収縮調整に関する細胞メカノフィードバックの数理モデル」

齋藤卓(愛媛大学)「細胞周期ライブイメージングとゼブラフィッシュ形態形成の定量解析」

西塚哲(岩手医大)「がん研究における定量生物学」

吉田亮(統計数理研究所)「生命科学におけるベイズ統計の先端応用」

鈴木貴 (大阪大学)「次元解析を用いた薬剤耐性モデリング」鈴木貴

参加者数 数学・数理科学:15、 諸科学:45、 産業界:10、 その他:
当日の論点

細胞生物学における定量的な生命動態の予測のために、数理モデリングとデータ分析の方法がどのように可能であるかについて、理論生物学、生物物理学、数理科学、情報科学、統計学、数学の立場から最新の研究を報告した。生命現象としては生体リズム、細胞間接着力、細胞周期同調、がん悪性化、遺伝子ネットワーク、薬剤耐性をとりあげ、数理科学とデータ科学の有意義な適用についてフロアーからの発言も含めて詳細を検討した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

バイオインフォマティクスやベイズ統計による機械学習など、データ科学が急速に進展する中で、データに基づくモデリングと数式を用いたモデリングのそれぞれの役割を明確にし、融合を図る試みが打ち出されている。数理モデルを用いた生命動態研究では、これまで実験からの知見によるモデル構築が一定の成果を上げてきたが、より定量的な予測を目指して、次元解析や画像データ分析を用いて係数や初期値などのパラメータを設定する方法が検討されている。これらは個別の問題に対して開発されたものであるが、今後の展開によっては汎用性をもつ可能性がある。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

がん細胞に関する臨床データ分析では、ビッグデータを用いて数理モデルを導出する必要性が問題提起された。データと数式を結びつけるためには、情報科学的な方法を用いたシステム生物学的解析によって、現象論的な数理モデルを導出すること、数学解析を適用して得られた数理モデルから生命動態の原理を抽出することが必要である。実験の知見に基づく直接的な数理モデリングも依然として有効な方法であるが、その場合でも生命動態の定量化のためには次元解析などの基本的なツールを適用していくことが有効である。これまで細胞分子動態を記述するために結合・解離やリン酸化などの反応系列をネットワークで記述し、その上に質量作用の法則等を用いて常微分方程式系を導入する数理モデリングが行われ、一定の成果を上げている。しかし細胞生物学の実験結果を実時間で再現したり予言したりするためにはパラメータの同定が必要で、これらは実験値に頼ってきた。今回の発表と討論によって、これらのパラメータが次元解析によって理論的に関連付けられることが提案され、実験値の不備を補い、生命科学の知見の正当性を評価するときの目安になることが確認された。また画像や動画から、様々な基礎パラメータを抽出していくことは、統計的に新しい問題を提起する可能性があり、今後の魅力的な研究テーマである。

今後の展開・フォローアップ

基礎研究の枠組みを越えて、臨床と協働した研究が継続できるために、引き続き日本応用数理学会や日本細胞生物学会において数理的な研究発表の場を設定する。