数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 因果推論の基礎
採択番号 2016T02
該当する重点テーマ リスク管理の数理
キーワード 因果推論
主催機関
  • 統計数理研究所
運営責任者
  • 黒木 学
開催日時 2017/02/16 10:00 ~ 2017/02/17 16:30
開催場所 統計数理研究所 大会議室
最終プログラム

【2月16日】
10:00-11:30
大塚淳(神戸大学)
「因果性の哲学」
13:00-14:30
田栗正隆(横浜市立大学)
「潜在反応モデルと交絡調整の方法」
15:00-16:30
鈴木越治(岡山大学)
「How could the sufficient-cause model deepen our understanding of causality?」

【2月17日】
10:00-11:30
千葉康敬(近畿大学)
「因果推論で分割表正確検定を考える -Principal stratificationの応用」
13:00-14:30
林岳彦(環境研究所)
「建設性のある議論のために:バックドア基準の入門とその使用例」
15:00-16:30
清水昌平(滋賀大学)
「因果構造探索の基本」

参加者数 数学・数理科学:51、 諸科学:29、 産業界:28、 その他:13
当日の論点

因果関係に関する問題は、数理科学・統計科学というフレームの中だけでは解決することはできず、医学・工学・社会科学・人文科学といった実質科学の諸分野と有機的に連携していくことが不可欠である。しかし、このことを理解し、何が障壁となっているのかを認識している数理科学・統計科学の研究者・実務家は多くはない。一方、近年の因果推論に関する理論研究を眺めてみると、いまやback door criteria(conditional ignorability)を共通知識として、principal stratification、sufficient causeなどといった新たな概念が次々と現れており、個々人のレベルでその全体像をキャッチアップすることが難しくなっている。また、因果推論を理解するうえで科学哲学的な知識も不可欠となるが、このことも因果推論の概念を実質科学に適用する際の大きな壁となって立ちはだかる。このようなことを踏まえて、最先端の因果推論研究を理解するうえで必要となる知識を共有しつつ、科学哲学、数理科学、データ解析、実務への応用可能性といった観点から、「因果推論のこれまでとこれから」について議論した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

理論的な観点では、back door criteria(conditional ignorability)が因果推論研究を進める上でのスタンダードな概念として定着しつつある。しかし、実務的な観点から言えば、そもそも見えない変数に対してどのように対処していくのか、そして実質科学のニーズに応えうる因果構造をどのように構築すればよいのかという問題が残ったままである。たとえば、本研究集会で紹介のあったLiNGAMも因果的構造探索問題を解決する有力な統計解析法の一つであるが、前提条件の厳しさをはじめとして、実質科学に適用する上で解決すべき問題がある。Back door criteriaにしても、その有用性は認められつつあるものの、実際の運用方法については十分議論されているとは言えない。また、科学哲学に目を向けた場合でも、sufficient cause、actual causeなど、因果推論に関する概念は大きく発展しており、個々人のレベルで因果推論の全体像をキャッチアップすることは難しくなりつつある。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

本研究集会をとおして、因果推論は、医学・工学・社会科学・人文科学といった実質科学への応用を想定しながらも、科学哲学と数理科学を融合させた研究分野の一つであることがあらためて認識されたところである。したがって、実質科学、科学哲学、数理科学という3つの観点から因果推論を洗練させていくことが研究の方向性の一つとなるであろうが、現時点においては、この課題が取り組まれているとは言い難い。もう一つの課題は、構造的因果モデルや潜在反応モデルといった、概念的に異なるアイデアが独立に理解され、両者の結びつきに関する議論が進んでいないことがあげられる。

今後の展開・フォローアップ

今後も定期的に研究集会やチュートリアルセミナーを開催したいと考えている。