物質・材料研究を、いわゆるモノ(物質)から使える素材(材料)への醸成と考えるとき、次の4つのステージが考えられる:
第1ステージ:新物質創成 従来の特性限界を超える、新物質の探索
第2ステージ:物性極値化 元素置換やドーピングによる極限特性の探査
第3ステージ:材料最適化 材料化、プロセス・組織構造の最適化
第4ステージ:適用研究開発 システム設計、試作実証、信頼性向上
現在、それぞれのステージにおける研究手法は、個人の思いつき・閃き・経験・勘に頼っており、昨今の物質・材料ニーズの多様化、ユースの急変に対応できなくなっている。この状況は世界共通の問題であるが、その中で国際競争の主導権を握るには、これまでと異なる、客観的・系統的判断に基づく新しい研究手法の確立が必須である。
我々は、いわゆるビッグデータの活用など、情報・数理を活かした新奇研究手法、マテリアルズ・インフォマティクス(情報統合型物質・材料研究 MI^2)の確立を目標に活動している。MI^2は特定の事象に対する手法ではなく、上記のどのステージでも使えるため、その確立は「国際競争に勝つための効率的な研究の進め方」の一般的なガイドラインの完成を意味する。一方で最大の障壁は、物質・材料研究者と情報・数理学者の接点がこれまで無く、MI^2を確立するうえで必須の協働作業の場の形成や、知識の共有が図られていなかった点にある。
この障壁の克服には、思い切った基礎部分からの認識・知識の共有が効果的である。そのため我々は情報・数理の基礎的内容のチュートリアルの開催し、物質・材料研究者が段階的に関連の知識を修め、更に現場で指導に当たることで、関係機関全体がMI^2の手法を取り込んでゆく流れを作ることを狙った。昨年度開催の第一回から内容の刷新を図り、「超基礎からの」シリーズと銘打ち
第二回 「超基礎からのLASSO」(講師: 池田思朗 統計数理研究所教授、DAM Hieu Chi 北陸先端科学技術大学院大学准教授)
第三回 「超基礎からのベイズ最適化」(講師: 津田宏治 東京大学教授)
第四回 「超基礎からのトポロジカルデータ解析」(講師: 平岡裕章 東北大学教授、中村壮伸 東北大学助教)
を開催した。いずれも満席の受講者を集めた。明らかに広い分野でのMI^2への興味の高さを示している。当日行ったアンケートでも満足度は全ての回で70%を上回り、情報科学の知識獲得への要求に応えるチュートリアルを開催できた。また段階的学習を狙った点についても、毎回約100名の受講者のうち三回連続受講者が40名ほどいることを考えると、十二分に達成している。更に、数学協働の支援により教育用DVDを作成し(撮影+編集+マスター作製)、その複製を毎回200部作成した。その送付先内訳は
・MI^2Iコンソーシアム(法人会員43社 アカデミア会員6名)*1 約50部
・計算物質科学人材育成コンソーシアム(PCoMS)*2 25部
・MI^2I関係者 関係機関 約20部
・外部希望者(教育目的に限り 無償配布) 約20部
である。120~130部は作製後直ちに配布し、その後は希望が寄せられ次第、逐次配布する体制を続けている。
一方で、MI^2で活用が期待される手法は上記の「LASSO」「ベイズ」「位相解析」以外に、Deep learningや、サポートベクトルマシン、カーネル法等数多く存在する。これらを今後何らかの形で取り上げてゆく必要がある。
*1 MI^2Iコンソーシアム
http://www.nims.go.jp/MII-I/news/index.html
はMI^2の導入を考えている企業や教育・研究機関の集まりである。NIMSが運営し、チュートリアルの受講のほか、NIMSデータプラットフォームを試用しMI^2手法を実感する活動などを行っている。
*2 PCoMS
http://pcoms.imr.tohoku.ac.jp/
はNIMSと連携協定を結んでおり、DVDは主に大学院の学生、ポスドクや助教など同コンソーシアムの支援を受けている若手研究者に無償で配布されている。 |