数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 MI^2(情報統合型物質・材料開発)と数学連携による新展開 チュートリアル
採択番号 2016T01
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、疎構造データからの大域構造の推論 、計測・予測・可視化の数理 、最適化と制御の数理
キーワード マテリアルズ・インフォマティクス 、蓄電池材料 、磁石材料 、スピントロニクス材料 、伝熱制御材料 、熱電変換材料 、統計的学習 、スパースモデリング 、トポロジー 、オントロジー 、逆問題数理 、データ同化 、数理論理学
主催機関
  • 国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)
  • 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)
運営責任者
  • 真鍋 明
開催日時 2016/07/25 13:30 ~ 2017/01/27 16:00
開催場所 第二回 JST東京本部 別館1階ホール(〒102-0076 東京都千代田区五番町7K’s五番町)
第三/四回 全日通労働組合 8F大会議室A(〒100-0013 東京都千代田区霞が関3丁目3番)
最終プログラム

*2017年 開催済みのチュートリアル*

1/27 第四回チュートリアルプログラム(終了 満員御礼)

13:00- 主旨説明

13:10- 「超基礎からのトポロジカルデータ解析(基本編)数学的基礎固めとソフトウェア紹介」平岡 裕章(東北大学 教授) 質疑・応答 Abstract_hiraoka

14:25-14:45 休憩

14:45- 「超基礎からのトポロジカルデータ解析(応用編)典型例を通じたデータの読み方と材料科学への展開」中村 壮伸(東北大学 助教) 質疑・応答 Abstract_nakamura

16:00 閉会

 

*2016年 開催済みのチュートリアル*

10/27 第三回チュートリアルプログラム(終了 満員御礼)

13:00- 主旨説明

13:10- 「超基礎からのベイズ最適化(基本編)」津田 宏治 (東京大学 教授) 質疑・応答 Abstract_Tsuda

14:25-14:45 休憩

14:45- 「超基礎からのベイズ最適化(応用編)」津田 宏治 (東京大学 教授) 質疑・応答 

16:00 閉会

************

7/25 第二回チュートリアルプログラム(終了 満員御礼)

13:30- 主旨説明

13:40- 「スパース性を用いた情報処理とその方法-LASSOを中心として-」池田 思朗 (統計数理研究所 教授) 質疑・応答 Abstract_ikeda

15:40-16:00 休憩

16:00- 「LASSOの適用事例:材料物性の予測及び関係構造」  DAM Hieu Chi (北陸先端科学技術大学院大学 准教授) 質疑・応答 Abstract_dam

16:30 閉会

参加者数 数学・数理科学:23、 諸科学:53、 産業界:226、 その他:302
当日の論点

・第二回 「超基礎からのLASSO」(講師: 池田思朗 統計数理研究所教授、DAM  Hieu Chi 北陸先端科学技術大学院大学准教授)20160725_seminar_F

多次元変数の多くが0である、いわゆるスパース性から生まれる、新たな情報処理の方法を議論した。具体的には、変数選択、情報圧縮、クラスタリング、ノイズ除去、画像認識、計測データ処理であり、広い分野(統計学、機械学習、情報理論、最適化理論、信号処理、画像処理、計測技術)で活用されている。

 材料科学への応用として、結晶形成エネルギーの予測、バンドギャップの予測、融点の予測など、様々な具体例が提示され、注目を集めた。Tutorial160725_概略

・第三回 「超基礎からのベイズ最適化」(講師: 津田宏治 東京大学教授)20161027_seminar_F

 「データ科学プロジェクトの進め方」「ベイズ最適化の基礎」「COMBOのプログラム構成」「ベイズ最適化の応用」の4部から構成され、クライアントとの対話からプロジェクトが仕上がってゆく過程、ベイズ最適化の数学的知識から公開ソフトCOMBOの紹介までの一連の基盤的側面、COMBOの詳細、dバンドセンター、熱伝導、融点の高速・高効率な予測などの応用的側面が紹介された。Tutorial161027_概要

・第四回 「超基礎からのトポロジカルデータ解析」(講師: 平岡裕章 東北大学教授、中村壮伸 東北大学助教)20170127_seminar_F

前半ではホモロジー入門として穴を使った形状解析が概説され、穴の発生と消滅を図示するパーシステント図の説明がなされた。更にトポロジーの予備知識なしパーシステント図が解析できるソフトウェアHomCloudの紹介があった。後半では、パーシステント図を使った気体、液体、結晶、ガラス構造の解析例など物質・材料研究への応用が議論され、本手法の潜在的展望を含めた広い議論がなされた。Tutorial170127_概要

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

 物質・材料研究を、いわゆるモノ(物質)から使える素材(材料)への醸成と考えるとき、次の4つのステージが考えられる:

第1ステージ:新物質創成  従来の特性限界を超える、新物質の探索

第2ステージ:物性極値化  元素置換やドーピングによる極限特性の探査

第3ステージ:材料最適化  材料化、プロセス・組織構造の最適化

第4ステージ:適用研究開発  システム設計、試作実証、信頼性向上

現在、それぞれのステージにおける研究手法は、個人の思いつき・閃き・経験・勘に頼っており、昨今の物質・材料ニーズの多様化、ユースの急変に対応できなくなっている。この状況は世界共通の問題であるが、その中で国際競争の主導権を握るには、これまでと異なる、客観的・系統的判断に基づく新しい研究手法の確立が必須である。

 我々は、いわゆるビッグデータの活用など、情報・数理を活かした新奇研究手法、マテリアルズ・インフォマティクス(情報統合型物質・材料研究 MI^2)の確立を目標に活動している。MI^2は特定の事象に対する手法ではなく、上記のどのステージでも使えるため、その確立は「国際競争に勝つための効率的な研究の進め方」の一般的なガイドラインの完成を意味する。一方で最大の障壁は、物質・材料研究者と情報・数理学者の接点がこれまで無く、MI^2を確立するうえで必須の協働作業の場の形成や、知識の共有が図られていなかった点にある。

 この障壁の克服には、思い切った基礎部分からの認識・知識の共有が効果的である。そのため我々は情報・数理の基礎的内容のチュートリアルの開催し、物質・材料研究者が段階的に関連の知識を修め、更に現場で指導に当たることで、関係機関全体がMI^2の手法を取り込んでゆく流れを作ることを狙った。昨年度開催の第一回から内容の刷新を図り、「超基礎からの」シリーズと銘打ち

第二回 「超基礎からのLASSO(講師: 池田思朗 統計数理研究所教授、DAM  Hieu Chi 北陸先端科学技術大学院大学准教授)

第三回 「超基礎からのベイズ最適化」(講師: 津田宏治 東京大学教授)

第四回 「超基礎からのトポロジカルデータ解析」(講師: 平岡裕章 東北大学教授、中村壮伸 東北大学助教)

を開催した。いずれも満席の受講者を集めた。明らかに広い分野でのMI^2への興味の高さを示している。当日行ったアンケートでも満足度は全ての回で70%を上回り、情報科学の知識獲得への要求に応えるチュートリアルを開催できた。また段階的学習を狙った点についても、毎回約100名の受講者のうち三回連続受講者が40名ほどいることを考えると、十二分に達成している。更に、数学協働の支援により教育用DVDを作成し(撮影+編集+マスター作製)、その複製を毎回200部作成した。その送付先内訳は

・MI^2Iコンソーシアム(法人会員43社 アカデミア会員6名)*1 約50部

・計算物質科学人材育成コンソーシアム(PCoMS)*2 25部

・MI^2I関係者 関係機関 約20部

・外部希望者(教育目的に限り 無償配布) 約20部 

である。120~130部は作製後直ちに配布し、その後は希望が寄せられ次第、逐次配布する体制を続けている。

 一方で、MI^2で活用が期待される手法は上記の「LASSO」「ベイズ」「位相解析」以外に、Deep learningや、サポートベクトルマシン、カーネル法等数多く存在する。これらを今後何らかの形で取り上げてゆく必要がある。

 

*1 MI^2Iコンソーシアム

http://www.nims.go.jp/MII-I/news/index.html

はMI^2の導入を考えている企業や教育・研究機関の集まりである。NIMSが運営し、チュートリアルの受講のほか、NIMSデータプラットフォームを試用しMI^2手法を実感する活動などを行っている。

*2 PCoMS

http://pcoms.imr.tohoku.ac.jp/

はNIMSと連携協定を結んでおり、DVDは主に大学院の学生、ポスドクや助教など同コンソーシアムの支援を受けている若手研究者に無償で配布されている。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

 「超基礎から」の想いには、取り上げる手法はいずれも最先端的な手法でありながら、できるだけ数式展開による難解な説明は避け、馴染のある従来の統計手法を出発点として手法の理解を促す狙いが込められている。この狙いは、上記の通り一定の成果を得た一方で、学究的な深い理解とは必ずしも合致しないスタイルを求める声が少なからず聞かれた:チュートリアル開催ごとに集計したアンケートによると、材料開発における成功事例の紹介や、受講者が自ら手法を駆使する実習など、応用や実用重視の企画を求める声が、コンスタントにかつ高割合で聞かれた。「超基礎からの」より「超具体的な」を求める潮流に対して、何らかの改善または別の企画による受け皿を準備し、解決を図る必要である。

 今回取り上げた3テーマ「LASSO」「ベイズ」「トポロジカル解析」は、各所でよく聞かれる手法であるが、各回が1テーマに特化した内容となった。これらの手法以外を含めた統計解析全体におけるそれぞれの位置づけ、様々な問題に対する得手不得手や適用時の精度の検証など、いわゆる「総説」にあたる講義が欠けていることは、課題として挙げられる。

今後の展開・フォローアップ

 上記「新たに明らかになった課題」で述べた、MI^2の実応用に対する高い期待に応える必要がある。2017年度中にポスト数学協働として、新シリーズ「MI^2新材料探査のためのデータ科学」を統計数理研究所と共同で開催する予定である。概ね、年度内に3回開催し「全体像と最新事例ベンチマーク」「手法選択:計算系事例」「手法選択:実験系事例」といった内容で検討している。この新シリーズは、これまでのチュートリアルと同様に各講義をDVD化し、教育目的を条件に希望者に頒布する計画である。

 また実習については、MI^2Iコンソーシアムのイベントの一環として、あるいは公益財団法人計算科学振興財団

http://www.j-focus.or.jp/

との共同事業として、2017年度内の実施を予定している。

 なお、今年度開催したチュートリアルの当日配布資料は、作成したDVDに収蔵してある。この報告書では、データ保護のため公開を控えるが、

http://www.nims.go.jp/MII-I/event/tutorial.html

の各ページにある、申請書と誓約書を提出いただくことにより、無償で提供されている(20174月現在)。興味がある方は、本数学協同プログラムの成果として、あるいは学術的な興味としてご高覧頂きたい。