数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 環境数理スタディグループ
採択番号 2016S06
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、計測・予測・可視化の数理 、リスク管理の数理
キーワード 汚染予測 、放射線被爆 、環境物質動態 、環境モデリング
主催機関
  • 東京大学大学院数理科学研究科
運営責任者
  • 山本 昌宏
  • 河野 俊丈
開催日時 2017/02/22 10:30 ~ 2017/02/28 16:00
開催場所 東京大学大学院数理科学研究科
最終プログラム

課題は以下の通りであった:
和田洋一郎(東京大学アイソトープ総合センター・教授):放射線生物医学の見地からみた福島における放射線被爆の数理モデル
羽田野祐子(筑波大学機能工学系・教授)、川西 琢也(金沢大学 理工研究域 自然システム学系 准教授):セシウムの空間線量率の長期予測のための数理モデルの構築と数値手法の開発

プログラムは以下の通りであった:
2月22日(水)10:30-12:00:課題提起と説明
2月22日午後-28日(火)午前:
各課題ごとに分かれて解決に向けたワーク
 主体は院生、若手のポスドクで、各グループごとに経験のある特任助教がコーデネーターとして議論や作業を組織化する。週末も会期に組み込んだ理由は、時間に余裕をもたせて参加者の自由な討論とアイデアの提案を促すためである。

2月28日14:00-16:00:得られた成果の報告会。課題を提示者からの成果の評価。

参加者数 数学・数理科学:27、 諸科学:5、 産業界:1、 その他:2
当日の論点

和田洋一郎(東京大学アイソトープ総合センター):福島県広野町では、2011年3月の原発事故後に、おおむね住民の帰還が実現している。そこで、同広野町役場の放射線対策課と共同で大気中のセシウム137濃度の測定データを住民の協力で集めている。身体につける計測機の配布などもあり、広野町において莫大なデータが取集されている。データの統計処理のほかに、その数理科学的な評価が未解決であり、モデルの構築などを議論した。データの提供などのために広野町の町役場の担当者など3名も参加した。

羽田野祐子(筑波大学機能工学系)、川西 琢也(金沢大学 理工研究域 自然システム学系):福島原発事故後に各地で大気中のセシウム137の濃度が観測されている。雨天時には雨粒とともにセシウムが地面に沈着するので、通常は大気中のセシウム濃度は低くなるはずであるが、逆に濃度が高くなることがしばしば観測され大きな問題となっている。理由の1つとしてきのこの胞子の放出が考えられている。すなわち、きのこは内部にセシウムを吸収し、雨天時に多くのきのこが一斉に胞子を放出し、胞子とともにセシウムが大気中の出ていくというものである。胞子の放出の数学モデルを議論した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

和田教授のグループ:多くの課題が手つかずである。データからのホットスポットの推定(逆ソース問題)やドローンを用いた地表面に沈着したセシウム濃度に関する測定データから実際の密度分布の計算方法などの研究が進んでいない。

羽田野・川西グループ:胞子の流れの偏微分方程式の数学的な考察を行った。数値シミュレーションはまだできていない。計測データを線形モデルで解釈するボックスモデルとよばれる手法について数学的な観点から検討した。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

和田教授のグループ:データからホットスポットの推定方法や、ドローンを用いた地表面に沈着したセシウム濃度に関する測定データからの実際の密度分布の計算方法が提案された。実データとのさらなる照合と方法の検証が今後の課題である。

羽田野・川西グループ:胞子の流れの偏微分方程式の数学解析は議論できたが、数値シミュレーションは今後の課題である。ボックスモデルの改良と行った。

今後の展開・フォローアップ

和田グループ:より大規模なドローンによる計測データでの提案された手法の検討など、広野町を関係者と交えた議論を継続する。

羽田野・川西グループ:引き続き議論を続けるが、相互に関連した課題であるので、和田グループのワークにも適宜合流し、数学手法、データの共有を図る。