骨粗鬆症の診断は、若年成人の平均骨密度との比較により行われているが、これらの診断方法では個人差に対応できない。 現在、破骨細胞と骨芽細胞の制御関係が明らかになりつつあるが、加齢に伴い各骨代謝マーカー(骨形成:P1NP/骨吸収:TRAP)や 関連因子(RANKL/OPG/SOST)がどの様に変化するかは明らかにされていない。 また、時間変化する情報が不足しているため、診断後の将来予測を行う事も困難である。 つまり、患者個別に早期診断・予後予測を行うためには本研究の特色である骨代謝マーカー動態を記述する数理モデルを援用したシミュレータの開発が必須である。 スタディーグループでは、血中の骨形成マーカーであるP1NPと骨吸収マーカーであるTRAPを測定する事で「形成と吸収の状態」を微分方程式を用いた数理モデルで記述した。 特に、破骨細胞分化因子RANKLとその阻害因子OPGによる破骨細胞と骨芽細胞の相互抑制・促進の形成と吸収の制御メカニズムも組み込んだ。 これは、RANKLやOPGの継時的測定が実験的に可能であることによる。また、数理モデルにより記述した形成と吸収の状態から計測する「骨」を定式化する事も行った。 結果として、骨は形成と吸収を表す2つの変数のリニューアル方程式で記述する事が出来た。 このような数理モデル研究を通して、骨代謝マーカーの変化と骨状態との関連が明らかになれば、骨密度に代わり骨代謝マーカーを用いる検査を提案できるようになる。 リアルタイムな骨代謝を反映した骨代謝マーカーの計測は簡便であり、全身骨の平均的な評価が可能になる事より、従来の骨密度による診断と比べて様々な利点がある。 特に、患者毎の骨代謝マーカーの時系列データから骨粗鬆症が予測できる事になれば、先制治療や予後予測に直結するので本研究が持つ意義は極めて大きくなる。
この様に3日間のスタディーグループを通じて、実験科学者が納得できる数理モデルを構築する事ができた。また、参加者全員の意識共有を図る事も達成された。 スタディーグループを終えた後、次に取り組んでいく事は開発した数理モデルに実験データを定量的に予測する事ができるかという点である。 具体的に取り組んでいく課題は、年齢の異なるマウスを用いて上述した変数を継時的に測定し、数理モデルのパラメータを推定する事である。 また、測定したマウスの骨量の時系列データがリニューアル方程式により予測されているかどうか検証していく。 パラメータ推定がうまくいかない場合は、例えば、数理モデルに使われているネガティブフィードバックやポジティブフィードバックの項を別の関数に書き換える事を想定している。 また、リニューアル方程式で用いられているハザード関数に適切な確率密度関数を選ぶ事も今後の課題である。 |