2016/10/31-11/1の二日間に渡って,研究会を開催した.参加者は,海外研究者2名を含む計19名である.人文学系と数理科学の協働を目指して行った研究会であり,参加者の専門分野は多岐にわたった(地理学や歴史人口学,歴史GIS学や郡村史研究などの人文学系と,応用数学や数理物理学の研究者,あるいは気象学や都市工学等の研究者が参加した).
研究会では,特に人文社会学系にこれまで蓄積されてきたデータの紹介とデジタル化処理などを紹介すると共に,幾つかのデータを対象に既に数理解析をスタートしている事例に関して発表があった.また数理解析手法としては,主にネットワーク解析が行われているため,その代表的な手法であるコミュニティ検出(グラフ分解)についてのレビュー発表があった.各発表の間には30分のインターバルを取っていたが,その間でも発表者を囲んで熱心な議論が継続され,今後の研究について多くのアイディアが提案された.具体的な研究会の実施経過については,以下の通りである。
始めに,Satomi Kurosu氏から歴史人口学データの紹介があった.日本各地には,宗門改帳や人別改帳といった各年毎の戸籍資料が現存している.そこには各人の出生,死亡,結婚,家族関係等の情報が記録されている.これらのデータをライフヒストリーとしてまとめ,人口と家族という視点から歴史・地域の理解を進めるのが歴史人口学という分野である.これまでの研究蓄積として膨大な手書きの資料が残されていたものの,デジタル化処理はされておらず分析は限定的であった.発表者はそのデジタル化処理を進めており,先行してデータ整備を進めた福島県の2か村について,女性の結婚年齢に関する家族要因や経済要因の影響について発表を行った.また誰がどこの村から嫁いできたかという,前近代としては世界的にも例の無いデータが記録されている.今後,婚姻関係に関する地域間の繋がりを分析することで,江戸期の地域社会の広がりが明確になることが期待される.
Kurosu
Juyong Park 氏からはアート,特に絵画における色彩について科学的分析の試みが紹介された.西洋絵画に関する大規模なデータセットを利用し,色彩利用のパターンを指標化し,その年次変化と絵画手法との関係性を明らかにした.また研究経緯として,どうすれば絵画史研究として意味ある定量情報を引き出すことができるかという問題に対して,科学者としての取り組みを紹介された.
Satoshi Murayama 氏からは近世江戸期における村落の叙述資料について,それらの資料は村落の持続性を主眼に記述されていることが紹介された.人々が生活を維持していくために必要な自然・社会資本に関する記述から,当時の人々の生き方を読み解くが期待できる.
Murayama
Tatsuro Kawamoto 氏は,ネットワーク解析の中でも主要な分析手法であるコミュニティ分解についてレビュー発表を行った.コミュニティの定義に関する議論と従来研究の議論の流れを整理すると共に,コミュニティ分解のアルゴリズムの紹介から検出限度の理論研究また統計的有意性についての研究発展を紹介した.またKawamoto 氏の研究として,アンケート調査に関してネットワークを利用した新手法を紹介した.アンケート調査には自由記述式回答方式と選択式回答方式の2種類があるが,どちらもメリット・デメリットがある.氏の手法は,従来の自由記述式のコード化問題を解決し,選択式のように統計的解析が容易にできる手法である.この方法は,従来は叙述的な記述(自由回答)に頼っていた研究分野に対して,新しい定量分析の手法になることが期待できる.
kawamoto
Tzai-Hung Wen氏は,人の移動データに関するOpenDataの紹介とその分析を紹介された.近年IoT技術の発展や衛星データの公開に伴い,地理情報や各種センサー情報を容易に手に入れることができるようになった.台湾ではOpen Dataとして入手可能であり,データの可視化と分析について発表があった.
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