1. セミナー開催の趣旨
数学・数理科学を活用した異分野融合研究は高度化社会において大きな期待をされている。それに応えるために、数学・数理科学の若手研究者の社会への輩出を目指して、人材育成教育や企業での実際の数学・数理科学を活用した研究開発を紹介することを目的にしている。
2.講演の概要
【講演1】 現象数理学が拓く数学・数理科学者の新しい活躍の場
明治大学先端数理インスティテュート特任教授 杉原厚吉氏
この講演では、数学・数理科学を活用した異分野融合研究の一つが紹介された。異分野融合を達成するためには、現実の世界での問題を数理モデルとして、定式化を行い、それを数学の問題として解析する。それを現実の問題へとフィードバックすることにより、汎用性の高い応用手法が得られる。これを一つのサイクルとして、次に新しいサイクルへと発展させていく。このようなポジティブなスパイラル的手法が現象数理学の意図することである。現実の問題では、数学として扱えるかどうか分からない問題も多い。自然現象の問題では、支配法則の下で支配方程式を見出せる可能性が高いといえるが、社会問題等では必ずしも支配法則が確立されているというわけではない。しかしながら、そのような問題でも、数学・数理科学を活用するという信念を持ち続ける必要があるということを、ご自身が行っている錯視の研究を例にとり、ここには説明をするのは困難であるが、とてもきれいなビデオを使ってご説明いただいた。
【講演2】純粋数学が築く最先端心臓シュミレータの実用化への挑戦
-数学・数理科学人材への期待-
富士通株式会社 ヘルスケアシステム事業本部 エクゼクティブリサーチャー
熊本大学名誉フェロー
門岡 良昌 氏
この講演では、富士通で開発されたスーパーコンピューターの社会へ貢献するアプリケーションとして、どこでもやっていない医学への応用を進めることを選び、心臓シミュレータの開発に携わったことについて、今までから将来へむけた研究についてお話しいただいた。門岡氏は、大学では、多変数関数論に魅せられ、高校教員を希望しており、企業で研究をするなどとは全く考えていなかったこと、そののち、企業へ就職されたことから企業での仕事を通じて、純粋数学の基礎を学んだことが大きな力になっていたことなど、数学から社会へ出ていく若手研究者にとってはとても参考になるお話しであった。同氏は、富士通での入社試験面接のときに、ここでどのようなことをやりたいのかという豊富を聞かれたときに、「富士通のためならなんでもやります」と答えられたことで採用されたという逸話についてもご披露してくださったことは大変印象的であった。
【報告】数学・数理科学専攻若手研究者のための異分野・異業種研究交流会2016
日本数学会社会連携協議会幹事
東北大学知の創出センター副センター長
前田 吉昭氏
2016年11月に明治大学中野キャンパスで行われた研究交流会(数学協働プログラムが共催となっている)についての報告を行い、数学・数理科学の融合研究や若手人材の企業とのマッチングについて説明を行った。

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