数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 工学と現代数学の接点を求めて(1)
採択番号 2015W11
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 最適形状設計 、第1原理計算 、揺らぎ
主催機関
  • 大阪大学数理・データ科学教育研究センター
運営責任者
  • 鈴木 貴
  • 牧野 恭子
開催日時 2015/12/22 09:20 ~ 2015/12/24 14:30
開催場所 大阪大学基礎工学研究科
J棟1階セミナー室(22日、23日)、J棟6階J617(24日)
最終プログラム

【趣旨・目的】:計算機が発達した現在,工学における理論研究はモデリングとシミュレーションを用いた数理的方法が主体となっている.しかし,背後にある普遍的な法則や構造を摘出し,理論を精密化し,実用性を高めて現実により近づくという研究のループを完成するためには,記述法も含めた数学的な整理と,数理構造の明確化が必要不可欠である.現代の工学の進展は著しく,数学者の絶え間ない関与の必要性は,指数関数的に増大しているといえる.例えば有限要素法は土木工学,レベルセット法は材料科学において提案され使われてきたものであるが,その数理構造と数学基礎が解明されたことで普遍的な道具となり,数学研究の源泉ともなって,適用範囲が広がってきた.工学において様々な分野で用いられてきた数理的方法や理論を,現代数学の立場から見直すことが,科学技術を実用化するために重要である.このことは一方で,専門的な高等数学の研鑚を積んだ学生や,純粋数学研究に携わる研究者に広い視野を提供する場を与え,数学を豊かにし,人材を育成するという,数学イノベーションの趣旨に適合するものである.本ワークショップでは,構造解析,第1原理計算,揺らぎの3つに焦点を絞り,工学で展開されている数理的方法と,高度に抽象化された現代数学との接点を探っていく.

 

日程: 

12月22日(火) 最適形状設計の大域解析学

9:20~10:20   [クラッシュコース1(鈴木貴)] 動的自由境界計算法と非線形関数解析学~Chernovの公式

10:30~12:00  田中正夫  (大阪大学)  骨の再構築シミュレーションと廃用性形態変化

13:00~14:30  畔上秀幸(名古屋大学) 最適形状設計問題における評価関数の2階形状微分と Newton 法

14:40~16:10  土屋卓也  (愛媛大学)「ラプラシアンのグリーン関数のHadamard変分について」

 

12月23日(水) 物質階層と第1原理計算

9:20~10:20   [クラッシュコース2(鈴木貴)] 数理モデルに現れる階層の循環~点渦と物質輸送について

10:30~12:00  尾方成信(大阪大学)「材料の強さと階層性」

13:00~14:30  吉田博 (大阪大学)  多階層量子シミュレーションによるナノマテリアルデザインと実証

14:40~16:10  中野雅由(大阪大学)「開殻性を持つ光機能性分子系の理論設計」

16:30~18:00  澤田謙 (気象大学校)  「点渦系緩和方程式とその周辺」

 

12月24日(木) 揺らぎの数理モデル

9:20~10:20  [クラッシュコース3(鈴木貴)] ハイブリッドシミュレーション~数理腫瘍学の基本ツール

10:30~12:00  松林伸幸(大阪大学)ソフト分子集合系における物質分配の溶液理論による解析

13:00~14:30  馬越大 (大阪大学)モデル生体膜によるバイオ分子の認識

 

講演は、解説(30分)研究報告(30分)質疑討論(30分)で構成します。

主催機関  :大阪大学数理・データ科学教育研究センター(MMDS) モデリング部門

運営責任者: 鈴木貴、牧野恭子(大阪大学基礎工学研究科)

連絡先     :大阪大学数理・データ科学教育研究センター モデリング部門 特任助教 宮西吉久

         E-mail: miyanishi@sigmath.es.osaka-u.ac.jp

参加者数 数学・数理科学:24、 諸科学:5、 産業界:1、 その他:
当日の論点

シミュレーション科学として、現在の工学で用いられている様々な数理的手法を統括する視点の必要性を論議した。主として機械工学、材料工学、化学工学を取り上げ、現実の問題を解決するために工学で開発された計算法を吟味した。これらのシミュレーションでは、数理的に興味深く、重要な問題が内在していることを改めて確認することができた。より高度な発展と普遍性を付与するために、シミュレーション科学が理論科学やデータ科学とどのように協働していかなければならないか議論し、模索した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

最初に機械工学における自由境界や形状最適化の問題を検討した。骨形成の再構築問題では粗視化したモデルから動的な予測が得られ、形状最適設計理論では領域第2変分が導出され、数値計算への応用が検討されている。いずれも現実問題に有効に機能しているが、データ科学や理論科学の裏付けを明確にすることが必要である。次に材料工学を取り上げた。固体工学、物性工学、量子化学におけるシミュレーションでは、分子動力学と第1原理計算が基本的なツールとなり、さらに、それぞれの方法の有効領域と組み合わせによって材料設計が飛躍的に発展していることが改めて示された。シミュレーション科学が著しく進展している一方で、実用性を越えた数学理論との交叉や、創成の可能性も期待されていることがわかったのは大きな収穫である。最後に取り上げた化学工学では、疎水性・親水性などが典型例であるが、対象となる分子や構造が環境とどのような相互作用をもつかの見極めや制御が重要な課題であり、網羅的な実験に加えて自由エネルギー計算が有効な手段になっていることを確認した。しかし実験科学の要請に対してシミュレーションのツールは必ずしも万能ではなく、個別の問題に応じて連携を進めて工夫していく必要があることが了解された。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

現在のシミュレーション科学の1つの動向として、基礎方程式の直接的な使用だけでなく、そこから発展して新しいモデルを使用していくことが自然に行われるようになっている。この場合、大きく分けると現象に立ち戻って粗視化したモデルを構築する立場と、基礎方程式の組み合わせを「丸めて」より簡明なシステムに移行する立場があるように思われる。工学で粗視化した現象論的モデルを使う場合には、アダプティブなシミュレーションを組み込んでいく必要がある。その場合、データ科学との協働が有望であり、今後検討していかなければならない。一方で後者の立場からは理論科学との密接な連携が必要不可欠であり、ツールとして使うだけでは大きな発展は望めない。人材育成を含めた学術交流を活発化する必要があり、逆に言えば、厳密な取り扱いをすることで数学理論の発展に寄与できるものがいくつかあることを、今回の研究会でも確認した。

今後の展開・フォローアップ

工学の分野でも、純粋数学を中心とした理論科学と応用数学を主体とするシミュレーション科学が解離する傾向があり、計算機が発達すればますますその方向に進みかねない。それだけに、現時点において一歩立ち止まり、双方の見方で見直してみることが大変に有効である。大学院での高度副プログラム、本研究会とともに、理論的な側面を自由に議論する場を継続的に確保することを考えていきたい。