数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 ゆらぎと遅れを含む力学の数理と応用2
採択番号 2015W10
該当する重点テーマ 最適化と制御の数理
キーワード ゆらぎ 、遅れ 、バランス制御 、カオス制御
主催機関
  • 名古屋大学大学院多元数理科学研究科
運営責任者
  • 大平 徹
  • 木村 芳文
開催日時 2015/12/17 00:00 ~ 2015/12/18 00:00
開催場所 名古屋大学大学院多元数理科学研究科 理学部A館3階317号セミナー室
最終プログラム

委細は下記のサイトに掲示

https://sites.google.com/site/ohiratorue/home/correction1/programmathWS.pdf

DAY1 (Titles are Tentative)


13:00- 14:00 野村泰伸 (大阪大学大学院 基礎工学研究科 機能創成専攻,教授)
"Modeling long-range correlated movement variability during bipedal standing and walking using an intermittent delayed feedback controller"


14:30- 15:30 宮崎 倫子 (静岡大学大学院工学研究科 数理システム工学科 教授)
"Stability induced by time delays and its analysis"


16:00-17:00 木村芳文 (名古屋大学大学院多元数理科学研究科 教授) 
"Vortex Dynamics with Delayed Interaction

 

 


Day 2


10:00- 11:00 
Tamas Insperger, (Department of Mechanical Engineering, Budapest University of Technology and Economics, Associate Professor ) 
"Intermittency and delay compensation in human stick balancing"


11:30- 12:30  社本英二(名古屋大学大学院工学学研究科 教授)

" Suppression and Utilization of Vibrations in Metal Cutting "

16:00- 17:00 盛田洋光(プロジェクト・ダブリュー株式会社)
" Tracing and Studying Chatter on Cutting Metals and Delayed Dynamics with Some Simulations "


15:30-16:00 大平徹 (名古屋大学大学院多元数理科学研究科 教授)
       "Noise and Delay in Pursuit and Escape Models"
16:00- 17:00  会議参加者による研究討議

参加者数 数学・数理科学:8、 諸科学:4、 産業界:1、 その他:
当日の論点

 研究会においては、昨年度より広がりと深化をさせた形での講演を行い、下記のような研究討議を行った。

 野村泰伸教授は生体におけるバランス制御に関しての研究を紹介した。特に、いかに脳における制御が、安定性と柔軟性を併せ持つかという点を議論した。遅れと揺らぎを含むシステムにおける制御として、連続ではなく、間欠的なフィードバック制御が有効である可能性を提案した。

 宮崎倫子教授は通常は不安定な力学につながる遅れフィードバックを逆手にとり、不安定な周期軌道を安定させる効果があることを示した。これまでは主に数値解析で行なわれてきた、このアプローチに対して、数理的な解析による知見を得たことを紹介した。

 木村教授は昨年度に続き、流体における渦糸の相互作用における遅れの効果について調べた。数値的、数理両面のアプローチ画から通常の安定解が周期的な解となり得ることを示した。

 Insperger准教授は人間による倒立棒制御の例からはじめ、知覚のできない「Dead zone」の概念を用いることで、遅れと揺らぎの効果を取り込んだ。このような状況においては連続的なフィードバック制御ではなく、act and waitと名付けられた断続的な制御が有効であることを主張した。

 社本英二教授は、金属の切削加工を遅れを含む2階微分方程式でモデル化し、切削刃の回転数と力学の安定性の関係を示す相図を構築した。この相図に基づき、不安定で滑らかな切削を妨げる状況で回転数を制御して、安定な切削領域にいたるシステムを現実に構築したことを報告した。また、丁寧な数理の組合せにより、切削場の楕円的な動きや、角度の調整により、より効率的な切削が可能になることを示した。

 盛田洋光氏は企業における金属切削とそのシステムの安定な稼働のための工夫について紹介した後、比較的計算力の小さいシステムをもちいても遅れ力学や切削状況のモデル化ができるような環境を紹介した。

 大平徹教授は遅れランダム・ウォークの紹介に続いて、数学の伝統的な問題である追跡と逃避の問題における遅れやゆらぎの影響について述べた。この問題においては特に二者の間の距離に比例して遅れが大きくなるが、それに伴う複雑な挙動が現れることを数値計算によって示した。数理的な理解は課題として残されていることも指摘した。

 

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

 昨年度のワークショップに比べて、今回は講演者も増やし、分野についても工学・産業の内容を厚くした。理論においては宮崎教授の講演にあったように数学的な遅れフィードバック制御の条件などが明らかにされつつある。また、Insperger准教授の講演にもあるように連続的な制御よりも断続的な制御が遅れフィードバックを含むシステムにおいては有効であるような知見も得られている。現実システムへの応用としては、野村教授による生体制御、そして、社本教授による金属切削加工制御に対する事例などが具体的に現れている。また、これらを支えるツールは盛田氏によるプログラム環境の講演などでも紹介をされた。物理・数理的なレベルでの応用は、木村教授の渦力学、大平教授の遅れランダム・ウォークや追跡と逃避の問題の関係での進展がみられてた。

 一方、課題としては、これらのそれぞれの方向において幾つか明らかになった。例えば、金属切削においては、回転数の制御は理論に基づいて成果をあげているが、刃の角度の制御などについてはまだ課題が残っている。生体においても複数のフィードバック経路をどのように制御するかは不明である。理論としては、遅れの値が一定ではなく、対象となる二体の間の距離に比例したり、関数になるような場合には、渦力学においても、追跡と逃避の問題においても、より複雑になり数理的な解析に困難があることが明らかとなった。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

上記でも述べたが、幾つかの課題が数理的にも応用としても明らかになった。

1.生体の制御などでは複数の知覚チャンネルよりの情報が違った遅れやゆらぎを伴って、脳において処理される。このような複数チャンネルのフィードバックの問題については理論的も応用としても未開拓である。

2.切削加工における制御においても、遅れ力学の安定性解析が有用に活用されていることが示された。切削刃の回転による制御においては現実に活用されているが、角度などの制御などの現実化は、まだ課題として残されている。オンラインで制御計算のできるシステム開発も開発の余地は多い。

3.遅れが状況によって変化するようなばあい、例えば二体の相互作用の遅れが、その間の距離に依存するような場合、現象としては複雑になることが示せたが、数理的な理解はまだ困難である。特にゆらぎを共に伴うばあいにおいては状況はさらに複雑になり、まだ未開拓であり、数学的な課題として残されている。

今後の展開・フォローアップ

「ゆらぎ」や「遅れ」に関する数理が、数学の枠を超えて活用されていることについての具体例や議論は、昨年、そして今年度のワークショップで取り上げることができた。今年度も昨年度に比べると、工学や産業への応用に重点をおいたが、今後はこれらの要素を含む数学の応用と活用についてのスタディグループを立ち上げる方向で準備をすすめている。特に、小型航空機や、物流IT関連、など、次世代産業に関する数理と応用を議論する場を設けたい。