数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 生命ダイナミクスの数理とその応用:理論からのさらなる深化
採択番号 2015W08
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、計測・予測・可視化の数理 、最適化と制御の数理
キーワード 数理生命科学提言課題(1) 、生命動態 、システム動態 、生体高分子構造 、トポロジー 、物理理論 、幾何学
主催機関
  • 東京大学数理科学研究科
運営責任者
  • 井原 茂男
  • 時弘 哲治
  • 栗原 裕基
開催日時 2015/12/09 13:00 ~ 2015/12/11 18:00
開催場所 東京大学大学院数理科学研究科 大講義室
最終プログラム

生命動態システム科学四拠点を中心として2015年12月9日−12月11日の間の3日開催する。生命動態システム科学四拠点を中心に集い、数理生命科学提言課題の「ダイナミクス」(「数理生命科学提言課題(1)」)のオープンプロブレムに挑戦する。

 

生命ダイナミクスの数理とその応用:理論からのさらなる深化

 

日時:2015年12月9日−12月11日まで3日間

場所:東京大学大学院数理科学研究科 大講義室 

   東京都目黒区駒場3-8-11 

 

12月9日(水)(一日目)

 

13:00-13:15

 

開会の挨拶

 

セッション 1:粒子・離散系での生命ダイナミクス

 

13:15-14:15 離散方程式の数理 薩摩順吉(武蔵野大学)

内容:数理モデルの多くは微分方程式を用いて構成されるが、シミュレーションや直感的な理解の容易さでは、離散方程式あるいはセルオートマトンを用いた数理モデルが便利であることが多い。この講演では離散方程式による数理モデル化について、さまざまな観点から解説を行う。

 

14:15-15:15 分子動態解析-多粒子力学系と接続の微分幾何学 谷村省吾(名古屋大学)  

内容:分子の動態解析を行う上で、多体力学系と接続の幾何学との関係は振動運動と分子の大きな変形を扱う上で重要な視点である。この講演では接続の幾何学の基礎を丁寧に解説する。

 

15:15-15:30 休憩

 

セッション 2:複雑系としての生命ダイナミクス

Multilevel Evolution

 

15:30-17:30                                             座長  斉藤稔、(金子邦彦)(東京大学)

内容:生命は、分子、細胞、多細胞個体といった階層を形成する。各レベルはダイナミックに変化し、また進化しうる。こうした階層をまたがる進化動態の特徴的な性質を明らかにし、細胞、多細胞生物の起源、進化発生対応など生命の基本問題を議論する。

 

竹内信人 The origin of genes through spontaneous symmetry breaking(東京大学)

上村 淳 Diversification by resource limitations in a catalytic reaction network(東京大学)

山岸純平 細胞の触媒反応ネットワークモデルにおける相補的分化(東京大学)

香曽我部隆裕 Evolution-Development Congruence in Pattern Formation Dynamics:   Bifurcations in Gene Expression and Regulation of Networks Structures(東京大学)

 

 

12月10日(木)(二日目)

 

セッション 3:生命進化のダイナミクスと細胞運動の数理

 

10:00-11:00 遺伝子系図の確率モデル 能登原盛弘(名古屋市立大学)

内容:木村資生以来の伝統的な集団遺伝学の数学的な理論を研究する人口が日本ではなかなか増えていない。ここでは分子生物学の基礎、集団遺伝学の基礎、およびその数理理論について解説する。

 

11:00-12:00 微生物の運動と帆立貝定理 山田道夫(京都大学)

内容:流体中の微小生物の運動については、生物がゆっくりとしかも往復的に形状を変化させるときは、形状変化の一周期において生物の移動距離がゼロとなるという「Purcell の帆立貝定理」が知られており、微小生物はこの制約を避けるためにさまざまな運動形態を工夫している。この定理およびその周辺の話題について解説する。

 

12:00-13:30 昼食

 

セッション 4:細胞機能のダイナミクス

 

13:30-14:30 特別講演

 Transcription factories: genome organization and gene regulation  Peter R Cook(University of Oxford)

内容:転写ファクトリーの提唱者が真核生物の転写ファクトリーモデルについて実験およびモデル計算から解説する。

      

14:30-15:30 細胞の動態と遊走のダイナミクス                       座長  栗原裕基(東京大学)

内容:血管新生の機構の解明をめざした細胞の動態と遊走の動態実験から数理モデリングまで一連の解説を行う。

田久保直子 in vitro血管新生のタイムラプスイメージングと細胞トラッキング(東京大学)

時弘哲治 血管新生の数理モデル(東京大学)

 

セッション 5:生命ダイナミクスの今後の展望

 

15:30-17:30 ポスターセッション           座長  時弘哲治(東京大学)、栗原裕基(東京大学)

内容:数理分子生物学の最近のトピックスに関して、特に若手研究者(学生,ポスドク)の研究発表の場を設け、活発な研究討論の場と共同研究を開始する機会を提供し、本研究会の内容をより深く理解する目的で行う。

 

石本健太 精子遊泳ダイナミクスの流体数理モデリング(京都大学)

梅田高呂  Particle Filter法のNext Generation Sequencer データへの適用の検討(東京大学)

大里直樹 遺伝子転写カスケード解明のための統合解析(東京大学)

児玉大樹 測度論的基本領域を持つ円周上の極小微分同相写像(東京大学)

小鳥居祐香 ハンドル体絡み目のHBLホモトピーとMilnor不変量(東京大学)

林達也 心筋細胞の同期現象に関する不応期をもつ積分発火モデル(東京大学)

鮑園園 向きづけられた二部空間グラフのHeegaard Floer homology(東京大学)

中田庸一   Path-preference modelの特殊な場合の解析について(東京大学)

中村伊南沙 RNAの2次構造のダイナミクスの数理(東京大学)

中村伊南沙 曲面絡み目上の2次元ブレイド(東京大学)

李聖林 非対称細胞分裂におけるパターン配置決定の仕組みについて(広島大学)

Holger Flechsig Evolutionary optimization of simple polymer networks: Models of synthetic allosteric proteins(広島大学)

 

18:00- 懇親会 

 

 

12月11日(金)(三日目)

 

セッション 6:核内運動とクロマチンのダイナミクス

 

10:15-12:30                                   座長 楯真一(広島大学)

内容:核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点からオムニバス形式で主に核内クロマチン・ライブダイナミクスについて実験から数理解析まで一連の解説を行う。

菅原武志  Stagnant, itinerant chromatin dynamics in fission yeast(広島大学)

粟津暁紀   Coarse-grained models of micro and macro chromatin dynamics in nucleus(広島大学)

新海創也 クロマチンドメイン構造と一分子ヌクレオソーム動態の関係(広島大学)

冨樫祐一 分子機械系の粗視化モデルとクロマチン構造への応用(広島大学)

 

12:30-14:00 昼食

 

セッション 7:確率過程の数理と生命ダイナミクス

 

14:00-15:00 ダイナミカルなランダム行列と棲み分けの問題 香取眞理(中央大学)

内容:数理分子生物学では、非常に大きな自由度の系を必要とし決定論的な記述は現実的には不可能であり、代わりに少数自由度系の確率過程を導入することが必要となる。この講演では、数理生物学に関わる確率過程の解析的および数値的な取り扱いについて解説を行う。

 

15:30-16:00 休憩

 

セッション 8:クロマチン構造変化と転写過程の分子ダイナミクス

 

16:00-18:00                                 座長  和田洋一郎(東京大学)

内容:転写の機構解明のための動態システムについて実験から数理モデリングとシミュレーションまで一連の解説を行う。

 

和田洋一郎   Dynamic chromatin movement in stimulated endothelial cells suggested by interactome analysis(東京大学)

大田佳宏  Cellular-automaton model of the cooperative dynamics of RNA polymerase II during the transcription process in human cells(東京大学)

柳尾朋洋 柔らかい高分子軸の宙返り運動と生体分子モーターの回転機構(早稲田大学)

 

 

 

閉会の挨拶

 

 

 

上記ワークショップの実行に関して、下記の東京大学のシンポジウム責任者が共同で進めていく。

井原茂男(東京大学)

栗原裕基(東京大学)

時弘哲治(東京大学)

プログラム委員として

楯 真一(広島大学)

松田道行(京都大学)

金子邦彦(東京大学)

和田洋一郎(東京大学)

が詳細化する。

 

また、今回の予算執行時期の関係で本提案には入らないが、生命動態システム科学四拠点・QBiC・CREST・PRESTの研究者は、より広範囲の研究分野を対象として、2016年3月25日−3月26日の間の2日開催する。生命の動態に関する研究を発表する場として広島大学の楯真一教授を中心に開催準備が進んでいる。ここは包括的な発表の場で、機会があれば上記研究会にも数学協働プログラムとして参加を模索したい。

参加者数 数学・数理科学:52、 諸科学:15、 産業界:4、 その他:7
当日の論点

複雑な現象やシステム構造をもつ生命科学は、ヒトゲノム計画以降、遺伝子情報に関するビッグデータを扱うことで大きく発展をとげつつある。生命科学では、生命動態、すなわち時間軸の中の現象として生命をとらえるアプローチが今後の日本の生命科学における重要な柱として認識され、その発展が重要な課題になっている。前回、前々回と、すでに生命動態拠点のメンバーを中心に拠点の活動状況と主な研究の概要についての講演はすでに行ってきており、その成果として数理と生命科学の融合も盛んになりつつある。今回も、例年同様にいくつかの生命動態拠点のメンバーを中心とした活動状況と研究の進展について下記の内容について報告を行って議論を進めた。

・生命現象のダイナミクス:生命の複雑系の問題としての数理

・細胞のダイナミクス:細胞のイメージングの数理

・核におけるダイナミクス:クロマチンのひも構造の数理

・遺伝子のダイナミクス:転写過程の輸送問題の数理

・蛋白質・RNA:構造生物学の群表現の数理

今回は、これらに加え、新たな試みとして今後の生命科学のデータを数理的に解析する上で有用になると考えられる方法論、モデルなどに参考になるような領域:離散数理、ホロノミー、パーセルの定理、集団遺伝学、生命の棲み分け問題等でご活動されている方々に数理に焦点をあててご講演いただいた。その結果、新しい観点から数理科学と生命科学の融合領域の発展について議論を進めることができた。数理科学専門の方からは内容が面白いと大変好評であった。一方でプログラムが理論的になったため、純粋の生命科学の実験家の出席は少なかった。全体としては会場の研究者と講演者が生命科学と数理科学の融合について新しい観点を含め議論できたと思われる。特に、海外の有名な実験家を特別に招待しご講演いただいたが、数理モデリングを用いたシミュレーション結果から実験結果の解釈などの議論を進めていた。今後の生命科学、特に生命のダイナミクスの解明には、実験結果をもとにした数理モデリング、第一原理的な計算機シミュレーションにおいて、新しい数理科学的アプローチを模索することがもはや不可欠であることを痛感した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

生命科学と数理科学による融合の課題として、生命のダイナミクスという切り口で議論を進めた。ある程度は数理モデリングとして、数理科学の生命科学への応用も定着してきた感があるが、まだ現象論モデルの範疇をでてはいないと考えられる。もともとの会合の趣旨は、物理学において用いられる回転、ホロノミー、ゲージ理論の実問題への適用例を知ることで、生命科学での新しい利用を見いだし原理的な理解を進めることに期待があった。ご講演者の方々がわかりやすくお話をしてくださったこともあり、純粋に数理科学をしている方々、生命科学の数理解析をしている方々には新鮮で刺激的であったように思う。今後のより原理的な理解への発展に期待したい。一方で、プログラムが理論的になったため、純粋の生命科学の実験家の出席は少なかったのは残念であった。今後は実験家も面白いと思ってくださるような数理理論、確率、統計、誤差論、あるいは今後期待されると考えられる全くの新技術をテーマとしていれるのもよいかもしれない。

 全体としては、会場の聴講者と講演者とによる生命科学と数理科学の融合についての議論も進み、更に専門的にも議論を掘り下ることができた。今後につながるような課題やアプローチが多く見受けられたのは大きな収穫であった。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

開催時期がノーベル賞授賞式、惑星探査機、小惑星探査機の軌道修正、COP21等の日本の科学界の大きなイベント、数多くの学会と重なってしまったので今回は参加者数が極度に少なくなるかと心配したが、いままでご参加いただいていない企業の研究者の方にもご参加いただくことができるなど、登録参加者数としては昨年よりも20人も多く80人と盛会であった。今回は数理関係、生命科学の中で数理を担当されている方に多くご参加いただけた。より大きな成果にしていくためには、今後大きく発展する生命のダイナミクスという切り口は保持し、さらに広い範囲で(と同時に狭い範囲で)、両分野の研究者がお互いの分野に興味を持ち連携できるよう幅広く知見を広げる必要がある。本ワークショップは、

・数理研究者が生命科学研究者や産業が抱える問題を共有し、

・研究者同士のネットワークの構築、

・連携テーマの具体化、

を与える場として定着してきた感がある。今後も引き続き、活動を続け、生命のダイナミズムにおける空間的時間的パターンの形成などにおける新しい課題を、原子論的あるいは現象論的な方法論まで含む多様な立場で探索する方向で進んでみたい。特に原子論手法をベースにして現象論的に問題を定式化する方法論がアドホックに行われ実験の説明に成功しているように見える。この問題の周辺に多くの新しい課題がありそうである。

 前回は、講演会で聴講することだけでは受け身になりがちであることを解決するため、最終日に会場と講演者とのフリーディスカッションを行うことを試みたが、今回は前回希望の多かったポスターセンッションや懇親会を行なった関係で、時間が足りなく実行できなかった。今後とも、全ての参加者が問題意識をもって生命科学と数理科学の融合を進めいけるような新たな施策を模索し、実践して行きたい。また、民間企業、独立行政法人からより多くの参加をいただける様な施策も検討していきたい。

今後の展開・フォローアップ

今回の会議を起点とし、今後も引き続き、産学連携まで視野に入れた様々な異種分野の融合領域構築を図るべく、同様の会議を企画していく予定である。本ワークショップの流れを汲むシンポジウム「生命動態の4拠点・CREST、PREST、理研QBiC合同シンポジウム」が本年度末の3月25日と26日に広島で開催が予定され、より生命科学の研究者が多く集う中で数理科学との融合研究の成果発表が予定されている。

 今回は理論をより深化させることに主眼をおいたが、引き続き理論の深化を続けることが生命ダイナミクスの理解では重要である。今後は、今以上に数学的な探求をさらに促す様、また生命科学のあり方をさらに改革することを念頭に産学連携へと発展できるように進めてみたい。

 本会議の講演内容については既に、承諾が取られたものに限り、講演者のプレゼンのビデオを会議ウェブページ経由で数理科学研究科ビデオアーカイブにアクセスすることで一般公開をしていく予定である。