数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 数理科学者と実験科学者との融合研究による「時空間発展現象」の解明
採択番号 2015E04
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、計測・予測・可視化の数理 、最適化と制御の数理
キーワード 反応拡散 自己組織化 時空間パターン 自己駆動
主催機関
  • 広島大学 大学院理学研究科
運営責任者
  • 中田 聡
開催日時 2015/09/02 13:00 ~ 2015/09/04 17:00
開催場所 広島大学東広島キャンパス
最終プログラム

9月2日

13:00-14:00  講演者とのClosed meeting

14:00-14:30  受付

14:30-15:40 開会 主旨説明 中田 聡(広島大学)

「自己駆動によるパターン形成」

休憩

16:00-17:00  講演1  西 慧 (北海道大学)

「樟脳系でみられる集団運動の数理解析について」

9月3日

10:00-11:00  講演2  西森拓 (広島大学)

「アリの集団行動」

11:00-12:00  講演3  住野 豊(東京理科大学)

「記憶の効果を入れた駆動粒子集団の示す多様な運動相」

<昼休憩>

13:00-14:00  講演4 末松 信彦(明治大学)

「自己駆動粒子の集団運動と化学振動波列の振る舞いの対比」

14:00-15:00  講演5 田中 晋平(広島大学)

        「自己駆動液滴集団のパターン形成」

<休憩>

15:20-16:20  講演6 長山 雅晴(北海道大学)

「界面張力Profileに依存する液滴の特徴的自律運動」

16:20-17:00 フリーディスカッション

9月4日

 9:00-12:00 講演者とのClosed meeting

参加者数 数学・数理科学:5、 諸科学:20、 産業界:0、 その他:0
当日の論点

自己駆動系を用いた時空間発展現象について具体的な実験と数理モデルとの接点や相違点について議論した。パターン形成については化学振動反応であるBelousov-Zhabotinsky反応の数理モデルであるオレゴネーターについて議論した。これは酸化還元反応の状態を示す式である。これに対して群れのパターンはパターンの構成要素が状態ではなく物体の自律的な運動である点が大いに異なる。そのために反応拡散方程式に力学系の運動方程式を表面張力差を駆動力とした方程式と組み合わせた方程式で表現する系について議論した。例えば実験系で往復運動パターンが生じるメカニズムについて界面張力、接触角、対流、化学物質濃度依存性について実験結果を示した。それに対して上記数理モデルでは往復運動するには、表面張力と濃度の関係に極小値が存在する必要がある。これについて実験系では混合ミセル系での表面張力の低下と混合系による溶解と濃度低下が効いているのではないかという議論をした。また群れの自己駆動系によるパターン形成については、サリチル酸ブチル液滴の実験結果について、パターン形成の様相変化と短距離・又は長距離相互作用、及び現行の数理モデルへの改良点と問題点を議論した。自己駆動系の研究は、目には見えにくい又は手の届かない微小な空間に物質を輸送、または微小空間の欠陥を判断、修復することが目的で研究が行われている。しかしながら開発された研究の多くは単指向的な運動やランダム運動など運動様相が単調であった。それに対してバクテリアの運動は走性に見られるように、外部環境に多様な振る舞いで持って応答することができる。加えて、アリや魚のように群れをなして生命活動を営む生態系がある。これらは特に学習をしなくても群れという時空間パターンを形成して多様な環境に適合していると言える。一方パターン形成にはいくつかの種類がある。1つはメノウや貝殻などの空間パターンである。これらは結晶成長時に作成される空間パターンであるが不可逆的かつ収束的である。他には、Belousov-Zhabotinsky反応(BZ)反応である。これは酸化還元の振動反応であり、パターンの指標は触媒として用いられるフェロイン(鉄イオンと1,10-フェナントロリンの配位子の1:3の錯体)などの金属触媒中の鉄イオンが酸化剤(硫酸と臭素酸ナトリウム)と還元剤(マロン酸と臭化マロン酸)を同時に含んだ溶液で、酸化と還元が同時に起こるのではなく、交互に起こる振動反応である。これはビーカー中に撹拌した状態では溶液が均一になり時間変化を示すが、シャーレに薄く広げて撹拌せず静かに置くと、酸化と還元の同心円やスパイラルのパターンが形成される。これらは酸化還元の状態によるパターン形成であり、活性因子(HBrO2)と抑制因子(Br-)がカギを握る。しかしながらこれらのパターンの構成分子は通常の拡散をする。これらに対して、自己駆動によるパターンは、パターンを形成する素子が自律的に運動することが本質的に異なり、自己駆動体間の相互作用がパターン形成のカギを握る。また運動様相がそのままパターンに反映されることから、前述の2つとは異なるパターンである。これが今回の論点である。例えば細胞性粘菌が乾燥時に放出するサイクリックAMPのスパイラルパターンはBZ反応と類似反応と見なされているが、細胞性粘菌自体の自己駆動性が見失われている恐れがある。次にではあたかも生き物のようにふるまう自己駆動系の開発のポイントは単に生物をまねるということではなく、生物らしさを再現することに注目している。その1つが非線形性である。非線形性の導入により、振動・履歴・同調・パターン形成など生物特有の現象を発現させることができる。そこで単純な運動方程式にBZ反応で見られるような反応拡散の速度バランスを導入すると、運動様相に特異的な応答やパターンを発現させることができるということも今回の論点となった。とくに運動方程式と反応拡散方程式の間を結ぶ、駆動力のあり方と相互作用のあり方が運動パターンを決めるカギとなる。これについて実験系ではどのような反応系や分子をデザインするかを議論した。詳細は重要課題のため省略するが近日中に論文に手報告する予定である。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

数理モデルから示唆されることが実験的に再現できるか、あるいは実験結果に基づいて数理モデルが構築できるか、必要条件が何で必須条件が何かを切り分けることが重要である。既にできていることとしては、「運動方程式」+「反応拡散系」の数理モデルを用いて、2個の自己駆動系により、複数個の運動パターンを発現することであり、実験結果と相対的な定量的にも再現することである。また往復運動時に液滴の形状が判定することも実験では再現された。一方、できていないこととして、駆動力分子の濃度と表面張力の関係に極小値が存在することについて、実験系で相当する結果が現在取れていないことから、さらなる実験系の確認を行う。例えば数理モデルでは往復運動は境界条件に依存しないが、実験では確認されていなかった。この示唆に基づき、実験系ではセルのサイズに依存しないことを確認したことから、往復運動が境界ではなく内部条件によるものであることは確認できた。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

 机上の数理モデルと本質不明の実験結果をすり合わせることで新たな物の見方が現れることが重要である。具体的には駆動力分子の全体の表面張力差により運動パターンがどのように働くのか、マランゴニ流の効果があるのかなど、実験系で確認すべき事項が明らかになった。また振動運動パターンの周期・振幅・速度プロファイルを解析することにより、同調周期パターンの解明へとつながると考えている。またパターンを形成する駆動力である表面張力の関数形についても普遍的に言える系や制御パラメータとして逆にパターンを分子レベルからあるいは反応ダイナミクスから構築することも今後の課題である。 

今後の展開・フォローアップ

 今後とも継続的に情報交換や共同研究を発展させていく。今回のワークショップにより共同研究を進めることが決まり、10月に北海道・東京・旭川、11月に東京で既に議論を行い、2016年2月にも札幌で打ち合わせを行う予定である。共著論文については、液滴の往復運動パターン等、今回の参加者の中で作成中である。日本応用数理学会(2015年度年会:金沢)における実験化学者の講演は数学協働として本格的な活動といえる。また非線形反応と協同現象研究会は数学者と諸科学研究者との交流の実績がある。今後も今回のワークショップを起点とした共同研究を発展させた内容を報告する予定がある。加えて、ハワイでの国際化学会議(2015年12月)では数学共同事業として、数学者2名に講演を依頼しており、ゴードン会議でも数学協働に関するセッションも計画している。このように、今回の数学協働プログラムをはるかに超えた画期的な国際レベルの企画を進め、長い目で真摯に取り組んでいるのでぜひ「数学協働」を本格的に運営されている方々には是非参考にしていただきたい。以上のようにこれまで通り継続的な研究を行っている。