数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 がんゲノム解析の数理
採択番号 2015E02
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード がんゲノム  、医療ビックデータ 
主催機関
運営責任者
  • 白石 友一
開催日時 2015/09/30 10:20 ~ 2015/09/30 19:00
開催場所 東京大学医科学研究所
最終プログラム
10:20 - 10:30
はじめに
 
10:30 - 11:00
藤本 明洋 (理化学研究所・統合生命医科学研究センター)
「がんゲノム変異解析とドライバー遺伝子の検出」
 
11:00 - 11:30
新井田 厚司 (東京大学医科学研究所)
「がんの進化シミュレーションによる腫瘍内不均一性生成原理の探索」
 
11:30- 12:00
加藤 護 (国立がん研究センター)
「臨床シークエンス、一細胞シークエンスの生物情報学」
 
12:00 - 13:15
昼食
 
13:15 - 14:00
(特別講演)
小川 誠司 (京都大学大学院・医学系研究科)
「がん研究の今と展望」 
 
14:00- 14:30
島村 徹平 (名古屋大学大学院・医学系研究科)
「がん悪性化に寄与する発現制御調整因子のイン・シリコ探索」
 
14:30 - 15:00
瀬々 潤 (産業技術総合研究所)
「ゲノム配列解析に潜む統計・情報〜構造変異の同定と、変異の相乗効果の検出」
 
15:00 - 15:20
休憩
 
15:20 - 15:50
吉田 亮 (統計数理研究所)
「生命科学におけるデータサイエンス駆動型アプローチの開拓と実践」
 
15:50 - 16:20
上田 宏生 (東京大学先端研・ゲノムサイエンス / 富士通株式会社)
「ビックデータ解析フレームワークを用いたがんゲノム解析」
 
16:20 - 16:50
白石 友一 (東京大学医科学研究所)
「がんゲノムシークエンスデータからの変異の検出とマイニング法」
 
16:50 - 17:00
終わりに
 
17:20 - 
懇親会 (総合研究棟8Fにて)
参加者数 数学・数理科学:25、 諸科学:35、 産業界:10、 その他:
当日の論点

がんゲノム、バイオインフォマティクス、数理統計学の研究者が集まり、それぞれの研究分野についての講演がなされた。ワークショップには予想より多くの参加者が集まった(約70名)。

理化学研究所の藤本氏は検出した変異のリストから重要ながん遺伝子を同定する方法論について講演した。東大医科研の新田氏はがんゲノムにおける変異のプロファイルを説明する数理モデルと、そのシミュレーションについて講演した。がんセンターの加藤氏は一細胞解析における課題、またクリニカルシークエンスについてがんセンターにおける取り組みについて講演した。


京都大学の小川誠司教授はがんゲノム研究者の立場から今後のがんゲノム研究の課題を概観した。名古屋大学の島村氏は遺伝子発現プロファイルから、有用な発現モジュールを同定する方法について講演した。産総研の瀬々氏は機能的な変異の組み合わせを、組み合わせ爆発の問題を数理的に首尾よく回避しつつ同定する方法論について講演した。

統数研の吉田氏は転写伸張速度を予測する数理モデリングについて講演した。東大先端研の上田氏は、大量データを分散処理を用いてシークエンスデータを効率的に解析するプラットフォーム構築の試みについて講演した。東大医科研の白石は変異リストをマイニングする新しい統計手法について講演した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

これまで、日本のがんゲノム研究は、新規がん遺伝子を網羅的な解析によって発見ことについては、十分な実績を上げてきた。しかし、今後ますますデータが蓄積していく上で、やはり膨大なデータから、数理統計的な技術を駆使しつつ、様々な観点からの生物学的知見を発見することについては、今後の重要な課題である。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

がんゲノム研究に携わろうとする数理統計学系の研究者が不足していることが改めて浮き彫りになった。また、共同研究をする上で、ある程度目的意識や価値観の共有が必要であり、定期的に同じ職場で働くことなどの重要性も議論された。さらに数理統計系の研究者ががんゲノム研究に関わることのインセンティブを明確にすることが必要ということも議論された。

今後の展開・フォローアップ

今回のワークショップでは、「がんゲノム」と、応用分野を比較的制限して、様々なバックグラウンドの研究者を集めた。目的意識の共有という意味では成功し、多くの参加者が集まった反面、技術的なことを議論する際に、それぞれの分野の方々が有する「言語」を統一することが少し難しかった。継続的に同様のワークショップを開催することでフォローアップを図りたいが、その際に、例えば「がんゲノム」研究にまださほど馴染みがない人のための入門的なチュートリアルをプログラムに加えるなどの工夫が必要であろう。

あとは、若い研究者のリクルートが必要であり、統計学会やバイオインフォマティクス学会のワークショップを利用することも検討したい。