1.セミナー開催の趣旨
情報通信技術の飛躍的進展のように社会が大きく変化するなか、数学をコアとする専門職種は大きな拡がりを見せている。これを受け、いくつかの教育研究機関では、社会のニーズに適合した数学専門職を養成する教育プログラムを実践している。本セミナーでは、東京大学、明治大学、大阪大学が取り組んでいる革新的な数学教育プログラムを中心に紹介する。
2.講演の概要
【講演1】グルーバルな視点をもつ数理科学博士の養成
― 数物フロンティア・リーディング大学院の取り組み ―
東京大学大学院数理科学研究科 教授 カブリ数物連携宇宙研究機構 主任研究員 河野 俊丈 氏
文部科学省「博士課程教育リーディングプログラム」事業の一つとして2012年に採択された数物フロンティア・リーディング大学院(FMSP)の取り組みが紹介された。FMSPは東京大学大学院数理科学研究科、理学系研究科物理学専攻および地球惑星科学専攻が連携し、カブリ数物連携宇宙研究機構をブリッジとして遂行しているプログラムである。現在、約160名の学生が参画している。本プログラムでは、先端数学の諸科学への展開を見据え横断的な視点をもった人材の育成に向けて様々な工夫がなされている。その例としてコースワーク「数物先端科学」「社会数理先端科学」、産業界等からの課題解決のためのスタディ・グループワークショップ、企業等への長期インターンシップが紹介された。
【講演2】金融業務における数理スキル
明治大学/三菱東京UFJ銀行 教授 青沼 君明 氏
金融業界においては、デリバティブのような不確実なリスクに対処できる商品の開発が必要とされる。この商品開発にあたっては、確率論を利用して将来の不確実性の分布を表現し、そのパラメータを推定するという数学的アプローチを必要とする。本講演では、大学の教育プログラムで取り上げている事例をもとに、金融業務を遂行するにあたって必要とされる数理スキルが紹介された。
【講演3】データサイエンス教育と数学
大阪大学大学院基礎工学研究科 教授 狩野 裕 氏
大阪大学は、大学院レベルの学生が幅広い領域の素養や複眼的視野を得ると共に新しい分野について高度な専門性を獲得するために、学際融合的な「副プログラム」を数多く提供している。本講演では、その中の一つの副プログラムである「データ科学(データサイエンス)」が紹介された。本プログラムは、クオンツ、アクチュアリー、生物統計家のような統計学を主要スキルとする数理専門職に加え、データサイエンティストと呼ばれる高度な統計的手法を使って意思決定に携わる数理専門職の育成を目的に設置された。統計数理コースやビッグデータ&データサイエンスコースなどの特色あるコースが紹介された。
【講演4】日本数学会におけるキャリア構築支援活動
東京大学数理キャリア支援室 キャリアアドバイザー 早稲田大学理工学術院 研究院客員教授 池川 隆司 氏
数学・数理科学分野での博士後期課程修了者の進路調査状況や2015年11月に東京大学にて開催された「数学・数理科学専攻若手研究者のための異分野・異業種研究交流会2016」の模様を中心に、日本数学会において実践されているキャリア構築支援活動について報告された。研究交流会2016のアンケートの分析結果から得られた数学人材の弱み等の課題や、それを克服する支援活動方針について紹介された。

講演模様(講師: 青沼 君明氏) |