数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 生命ダイナミクスの数理とその応用:異分野とのさらなる融合ー実践編 生命動態の分子メカニズムと数理
採択番号 2014W12
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 動態システム
主催機関
  • 東京大学大学院数理科学研究科
  • 京都大学大学院医学研究科
運営責任者
  • 井原 茂男
  • 栗原 裕基
  • 時弘 哲治
  • 富山 三弘
  • 松田 道行
開催日時 2015/03/16 00:00 ~ 2015/03/17 00:00
開催場所 京都大学芝蘭会館(稲盛ホール)
最終プログラム

生命動態システム科学四拠点・QBiC・CREST・PREST合同シンポジウム「生命動態の分子メカニズムと数理」
が、本プログラムと協賛で、京都大学において2015年3月16日−3月17日の2日間にわたり開催された。


この合同シンポジウムはもともと生命科学の観点から生命の動態に関する研究を発表する場として、京都大学の松田道行教授を中心に開催準備を1年程かけて進めてきた。

下記が最終プログラムである。

3月16日(月)
10:20-10:25 松田道行(京都大学)
10:25-10:30 来賓あいさつ 文部科学省

セッション 1:In vivo dynamics
10:30-10:54 猪股秀彦(理研CDB)
10:54-11:26 松田道行(京都大学)
11:26-11:58 岡田康志(理研QBiC)
11:58-12:30 近藤 滋(大阪大学)
 
12:30-13:30 昼食

セッション 2:Dynamics in cytoplasm and nucleus
13:30-13:54 島本勇太(遺伝学研究所)
13:54-14:26 冨樫祐一(広島大学)
14:26-14:58 武田洋幸(東京大学)
14:58-15:30 高橋恒一(理研QBiC)
 
15:30-16:30 ポスターセッション

17:30- 懇親会 場所:カフェレストランカンフォーラ(時計台前)

3月17日(火)
セッション 3:Theory of dynamical living systems
9:00- 9:24 前多裕介(京都大学)
9:24- 9:56 大田佳宏(東京大学)
9:56-10:28 望月敦史(理化学研究所)
10:28-11:00 小林 亮(広島大学)
 
11:00-12:00 ポスターセッション

12:00-13:00 昼食

セッション 4:Dynamics in cellular signaling
13:00-13:24 戎家美紀(理研CDB)
13:24-13:56 上田昌宏(大阪大学)
13:56-14:28 時弘哲治(東京大学)
14:28-15:00 黒田真也(東京大学)
 
15:00-15:30 休憩
セッション 5:Rhythmic dynamics in living systems
15:30-15:54 竹内春樹(福井大学)
15:54-16:26 澤井 哲(東京大学)
16:26-16:58 影山龍一郎(京都大学)
16:58-17:30 上田泰己(東京大学・理研CDB)
17:30-17:40 閉会の挨拶

生命動態システム科学四拠点・QBiC・CREST・PRESTといった生命科学の中心的な活動拠点が集った上記合同シンポジウムにおいて、数学協働プログラムとしては、下記を行った。(1)上記会合のポスターセッションに数理科学関係の研究者の発表枠を設け、生命ダイナミクスの数理とその応用での異分野とのさらなる融合を実践する目的で発表を行った。(2)同時に異分野との協働を推進するため、関係者全員でポスターセッションだけでなく全てのセッションに参加し活発な議論を行った。


上記シンポジウムにおけるポスターセッションでの本プログラムの数理科学の発表および実行に関しては、下記の東京大学の数理関係者と京都大学のシンポジウム責任者が本プログラムの推進委員として共同で進めた。
井原茂男(東京大学)
松田道行(京都大学)
栗原裕基(東京大学)
時弘哲治(東京大学)
富山三弘(東京大学)

参加者数 数学・数理科学:58、 諸科学:146、 産業界:13、 その他:13
当日の論点

出席者数(講演者およびポスター発表者を含む)が230名の盛会となった。物理と情報を含めた数学・数理科学では58名(数学に限定すると25名)、生命科学(ここでは諸科学と分類)から159名の参加があった。12名が研究支援機関から、不明は1名であった(これらはその他と分類)。産業界からの参加者は生命科学からの参加者であり13名であった。講演者は20名、ポスター発表者は86名であった。

 

複雑かつ階層的なシステム構造を扱う生命科学は、ヒトのゲノム配列の決定を契機として、遺伝子、エピジェネティック情報、蛋白質構造、蛋白質相互作用に関するビッグデータを扱うことで大きく発展を遂げつつある。生命の動態、すなわち時間軸の中の現象として生命をとらえるアプローチは、今後の日本の生命科学における重要な柱として認識され、数理科学との融合によるその発展が重要な課題となっている。そこで、生命動態の4拠点に加え、CREST、さきがけ、QBiCのメンバーを中心に合同シンポジウムを行い、そのタイトルにあるように、下記の課題を生命科学の観点および数理科学の観点から議論した。

・生命現象のダイナミクス

・細胞のダイナミクス

・核におけるクロマチンのダイナミクス

・遺伝子のダイナミクス

シンポジウムでは、生命の動態について我が国の代表的な研究成果の紹介を中心に行なった。中心的な生命科学研究者の発表の中でも、実験により蓄積したデータを数理モデルから検証、予測を行う例が多く示され、生命科学と数理科学の融合の有用性は実感できた。

数学協働プログラムとしては上記シンポジウムに協賛し、ポスター発表者のなかで下記若手研究者10名について、「生命動態合同シンポジウム 数学協働プログラムポスター賞」として旅費および滞在費を支援した。

神永 祐貴 (東京大)

森谷 孟史 (東京工業大)

西田 暁史 (東京工業大) 

林 達也  (東京大)

東島 佳毅 (東京大)

神吉 康晴 (東京大)

桂 真理 (東京大)

野村 典正 (東京医科歯科大)

寺薗 英之 (東京医科歯科大)

小田 有沙 (東京大)

上記の参加者は、ポスター発表だけでなく講演会にも参加し、生命の動的振舞に関して活発に議論した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

生命科学と数理科学はともに異なった方向に専門化・特化が非常に進んだ分野である。そこで過去2回の生命のダイナミクスとその応用と題したワークショップでは、生命科学の研究者と数理科学の研究者がお互いに専門化した分野での応用例および全く異分野の状況を知ることで、それぞれの分野での新しい道筋を見いだすことに努めて来た。今回は、若手の数理科学研究者に生命科学研究者主体のシンポジウムでのポスターセッション形式での発表の機会を与え、主に生命科学の研究者の発表現場で異分野融合を実践してもらうことを念頭に企画した。

上記シンポジウムでのポスターセッションにおける本企画による若手の数理科学研究者の発表および実行に関して、プログラム運営委員が共同で調整作業、公募作業を行い、「生命動態合同シンポジウム 数学協働プログラムポスター賞」の受賞者の厳正な決定を行った。応募者のうち、数理科学分野の若手の数より、数理科学に興味を持っているか、あるいは実際にモデル計算に携わっている生命科学分野の若手からの応募が多かった。熱心な発表が多く、今後の融合に必須な人的コネクションの形成、今後につながるような課題の発見も多く見受けられた。若手に限らず数理科学研究者も大いに刺激を受け、本企画の当初の目的は十分に達成でき成功であったと思われる。ただ、年度末でもあり、また募集期間が短かったこともあり、応募者数は多くはなかった。年度末を避け時間に余裕をもって公募することで、本企画をさらに広く告知することはできたはずであるので、予算との兼ね合いもあるが、工夫すべき点であった。予想外に数理科学分野の若手からの応募が少なかったので、今後は、彼らがより積極的に参加できるような試みと興味を喚起するイベントとを継続して行うべきであることを痛感した。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

シンポジウムでの発表内容は高度であり示唆的であった。今回も含め、今までの活動から、数理科学の生命科学への応用は発展させるべき余地が多く残されており、今後ともさらに発展させるべき分野であることは明確である。大きく発展する生命のダイナミクスという切り口は保持し、生命科学と数理科学の分野とがより緊密に融合していくことで、より大きな成果につながると思われる。今回のシンポジウムでの発表にも散見された生命のダイナミズムにおける空間的時間的パターンの形成などの新しい課題について、原子論的あるいは現象論的な方法論まで含む多様な立場で探索する方向で今後は進みたい。また、若手の数理科学の研究者が、今後ともより積極的に生命科学の分野に進んでいけるような努力は継続的に必要であり、さらなる取り組みが必要である。

・数理研究者が生命科学研究者や産業が抱える問題を共有し、

・研究者同士のネットワークの構築、

・連携テーマの具体化、

を与える場は引き続き形成すべきであり、今後とも生命科学と数理科学の融合を進める多様な方策を提案し実践すべきである。今回は、文部科学省関連の生命動態科学の研究拠点の合同シンポジウムへの参加であったため、産業界からの接点は少なかった。今後は産業界との接点も増やす方向でも検討したい。

今後の展開・フォローアップ

上記の課題を解決するための施策を実践していく。産学連携まで視野に入れた様々な異分野の融合領域構築を図るべく、同様のワークショップを今後も引き続き企画していく予定である。次回も、関西地区同様の会合を企画することで合意が形成されつつある。生命のダイナミクスの探求は、生命科学と数理科学双方にとって極めて重要なテーマであり、今以上に数学的な探求を促す様な生命科学のあり方へと生命科学を改革することを念頭に、数理科学を発展させ産学連携へと発展もできるように進めていく。