数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 サービス科学を拓く数理モデルとアルゴリズム
採択番号 2014W10
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、過去の経験的事実、人間の行動等の定式化 、計測・予測・可視化の数理 、最適化と制御の数理
キーワード エネルギーマネジメント 、観光 、センシング 、最適化 、制御 、データマイニング 、機械学習 、信号処理
主催機関
  • 大阪大学大学院情報科学研究科
運営責任者
  • 梅谷 俊治
  • 蓮池 隆
開催日時 2014/12/12 10:20 ~ 2014/12/12 17:20
開催場所 大阪大学吹田キャンパス銀杏会館
http://www.office.med.osaka-u.ac.jp/icho/icho-jp.html
最終プログラム

10:20〜10:30 主催者挨拶

 

10:30〜11:30 岡本 正吾(名古屋大学)「多階層かつ多次元なヒトの質感空間の計算」

これからのサービス科学は,従来は敬遠されていたような曖昧かつ個人差の著しいヒトの感覚や主観に果敢に取り組んでいくことが望まれる.本講演では,ヒトの多階層かつ多次元な質感空間を構築する実験・計算手法を議論する.第一に,多階層性に焦点を当て,特定のモノの体験である知覚・感性・嗜好の意味的な階層構造を構築する.第二に,バーチャル・リアリティ分野で特に課題となる,本物と仮想刺激の品質を比較する方法として,それらを多次元の知覚空間に配置する手法を議論する.

 

11:30〜12:10 堀崎 遼一(大阪大学)「複眼光学系を使った撮像・表示システム」

複眼光学系と信号処理を組み合わせることで,多様な撮像・表示システムが実現できる.
対象のスパース性を用いた多次元光学情報取得システムや,多次元の光学情報を提示できるディスプレイを紹介する.

 

 13:30〜14:30 斉藤 和巳(静岡県立大学)「ICT技術による静岡県観光・産業活性化に関する連携研究」

地方自治体,地元産業協会,地域通信会社などと連携し, 観光案内や誘導情報の充実,災害時の情報提供や避難誘導などの高度化に向けた研究を展開している.本講演では,観光スポットに関するオープンデータ,その周辺の道路網データから,複雑ネットワーク解析アプローチと,サブモジュラ最適化技術により,道の駅,観光案内所,デジタルサイネージ,Wi-Fiスポットなどの観光リソースの適切な配置候補地を検出する方法とともに,地域イベントにおける実証実験評価などの取組について紹介する.

 

14:30〜15:10 蓮池 隆(大阪大学)「移動手段の特性を考慮した観光経路設計」

本発表では,観光者が観光地を巡る際の移動手段を考慮した観光経路構築,観光プランニングに関する数理的考察を行う.特に次の2点に着目する.(1)グリーンツーリズムやエコツーリズムの観点から,電気自動車を利用した観光が各都市で行われていることから,多数の観光者が電気自動車を利用した際の特徴を示し,個人観光経路作成システムを提案する.(2)観光バスを利用した観光においては,観光バスが1点集中、駐停車することによる交通混雑が問題となっているため,観光地混雑緩和を目指した観光プランニングを数理的観点から考察する.

 

15:10〜15:40 休憩

 

15:40〜16:40 稲垣 伸吉(名古屋大学)「車の使用予測と車載蓄電池の充放電に基づくエネルギー管理システム」

昨今の電力をはじめとするエネルギー関連の変革の波は,我々の生活を巻き込みながら大きく広がりつつある.大きく変わるエネルギー環境にロバストで持続可能でありかつ効率的なエネルギー管理システム(Energy Management System: EMS)の実現は喫緊の課題である.その中で,EV(Electric Vehicle),PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)の車載蓄電池を利用したEMSの実現は, EMSへの蓄電池の導入コストを低減できると共に,電気代の削減効果や緊急時の非常用電源としてのEV・PHVの価値を付加することもできる.本発表では車載蓄電池の充放電制御を利用したEMSについて課題と取り組み,展望について概説する.

 

16:40〜17:20 和田 孝之(大阪大学)「ロバスト最適化の確率的解法とその最適潮流計算への応用」

日本では,風力,太陽光など供給量が気象に左右されるエネルギーを大量導入可能な電力サービスの実現が求められている.そのため,供給側では,供給の不確定性を考慮して発電計画を立てる必要がある.本講演では,事前に見積もった全ての状況について制約条件を満足させつつ,発電コストを最小化するロバスト最適化問題へと帰着し,ランダマイズドアルゴリズムを導入すると,問題の構造を簡単化することなく,確率的保証をもつ解を,現実的な時間で得られることを,解法の基本的な考え方から紹介する.

参加者数 数学・数理科学:50、 諸科学:7、 産業界:3、 その他:0
当日の論点

情報処理・通信・センシング技術の発展により,現実社会における人間の活動データを収集・蓄積するためのインフラが整備されつつある.一方で,これらの大規模データが公共・企業サービスに即座に利活用できるわけではなく,実用に耐えるサービスを実現するためには,収集から解析や可視化に至るまで多くの技術的な課題を解決する必要がある.しかし,これらの課題は情報・数理科学の側面に限定しても,単一の手法や技術で解決できるものではなく,各々の研究者が持つ基盤技術を有機的に結びつけることで初めて解決が可能となる.本ワークショップでは,エネルギーと観光の応用分野において,大規模データの利活用に基づくサービスを実現するための技術的な課題とその解決策を議論した.

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

人の質感を表現する多階層・多次元モデルの構築(岡本),観光施設の効率的な配置計画(斉藤),電気自動車の特性を考慮した観光経路設計(蓮池),車の使用予測と車載蓄電池の充放電に基づくエネルギー管理システム(稲垣)など,いずれの講演においても現実的なサービスの実現に必要な数理モデルと解析手法が提案されている.一方で,提案したモデルや解析手法の妥当性や実用性を検証するためには,十分な質と量の実データが必要であるが,自治体や企業の協力を得て順調に実証実験を進めている研究はまれで,多くの研究が実データを収集する方法を検討する段階にとどまっている.

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

提案した数理モデルや解析手法を現実的なサービスとして実現するためには,実データを用いたシミュレーションや実証実験を通じて妥当性や実用性を検証する作業が必要である.しかし,現状では個々の研究者が個人的なチャネルを頼りに自治体や企業にコンタクトを取っており,検証実験を効率良く実施するための環境が整っていると言うにはほど遠いのが現状である.実データのリポジトリの整備,研究者と自治体や企業とのマッチングなど,研究者が検証実験を効率良く実施するための環境の整備を推し進めることが今後最も重要な課題である.

今後の展開・フォローアップ

本ワークショップと同じ趣旨の集まりを関連学会や研究部会など開催形態には拘らずにできる限り多く開催することを目指す.また,研究者が検証実験に利用する実データの情報を交換するための場を形成することを目指す.