数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 生命ダイナミクスの数理とその応用:異分野とのさらなる融合
採択番号 2014W07
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明 、計測・予測・可視化の数理 、最適化と制御の数理
キーワード 生命科学 、システム動態 、超離散系 、生体高分子構造 、トポロジー 、組紐理論
主催機関
  • 東京大学数理科学研究科
運営責任者
  • 井原 茂男
  • 栗原 裕基
  • 時弘 哲治
  • 富山 三弘
開催日時 2014/12/02 13:30 ~ 2014/12/04 12:00
開催場所 東京大学大学院数理科学研究科 大講義室 
東京都目黒区駒場3-8-1 
最終プログラム

運営・プログラム委員:

井原茂男(委員代表)東京大学先端科学技術研究センター・大学院数理科学研究科  
栗原裕基 東京大学大学院医学研究科
時弘哲治  東京大学大学院数理科学研究科
富山三弘  東京大学大学院数理科学研究科

和田 洋一郎 東京大学アイソトープ総合センター

金子邦彦  東京大学大学院総合文化研究科

松田道行  京都大学大学院生命科学研究科・医学研究科

楯 真一    広島大学大学院理学研究科

 

 

協力:

文部科学省 「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業」 生命動態システム科学推進拠点事業 :  

   「多次元定量イメージングに基づく数理モデルを用いた動的生命システムの革新的研究体系の開発・教育拠点」 京都大学

   「転写の機構解明のための動態システム生物医学数理解析拠点」 東京大学

   「複雑生命システム動態研究教育拠点」 東京大学

   「核内クロマチン・ライブダイナミクスの数理研究拠点形成」 広島大学

 

 

生命ダイナミクスの数理とその応用:異分野とのさらなる融合

異分野融合の専門家ワークショップ

 

日時:2014年12月2日(13:30から) - 4日(12:00)まで3日間

場所:東京大学大学院数理科学研究科 大講義室 

   東京都目黒区駒場3-8-1 

 

 

プログラム:

 

12月2日 (一日目) 

13:30-16:00

-開会挨拶

-輸送現象の数理と生命現象 

 柳澤大地(東京大学) 

                 セルオートマトンを用いた群集運動と待ち行列のモデ

 松木平淳太(龍谷大学) 

                 保存量を持つ1次元セルオートマトンのMax-Min-Plus 解析

 由良文孝(公立はこだて未来大学) 

                 2状態セルオートマトンによる拡散シミュレーション

 

 

 

(セッションとりまとめ 時弘、栗原)

 

16:30-18:30 チュートリアル講演

-生命科学と異分野との融合

 

 杉山雄規(名古屋大学)

                  非対称散逸系による生物集団運動の数理

 石黒章夫(東北大学)

                  動物の適応的運動機能に内在する制御原理を探る

 根本靖久(東北大学)

                  イノベーションに最適な国における大学基礎研究のゆくえ

 (セッションとりまとめ 栗原、井原)

  

12月3日 (二日目) 

10:00-12:00 

-生命システム動態の数理:応答、分化、可塑性、頑健性

 斉藤稔(東京大学)

                   化学反応における少数性効果

 畠山哲央(東京大学)

                   概日時計における周期の頑健性と位相の可塑性の互恵的関係

 中島昭彦(東京大学)

                   細胞の走化性応答にみられる時間空間情報の統合:数理と実験の融合的アプローチ

 Benjamin Pfeuty(フランス CNRS)

                   Developmental control of cell-type diversity and proportioning : a minimal modeling approach 

(セッションとりまとめ 金子)

 

13:30-15:00  

-生命現象の輸送・伝達の数理

 西森拓(広島大学)

                   アリの 集団採餌における意思決定とゆらぎ

 金井政宏 (東京大学) 

                   生命ダイナミクスの非平衡統計物理と非線形科学      

 本田直樹(京都大学) 

                   神経軸索誘導における誘引的および忌避的走化性の数理モデル

 (セッションとりまとめ 松田)

 

15:30-17:30    

-構造安定性と変化を伴うダイナミクスの数理

 李聖林(広島大学)

                   Mathematical Understanding on Remodeling of Nuclear Architecture of the Rod Photoreceptor Cell

 中田庸一(東京大学)

                   簡略化されたpath-preference modelのダイナミクスについて

 下川航也(埼玉大学) 

                   DNA組み換え酵素のタングル解析

 児玉大樹(東京大学)

                   円周上の C1 級微分同相写像の考察

(セッションとりまとめ  楯) 

 

12月4日 (三日目) 

10:00-12:00

プログラム委員および運営責任者を中心とした討論会:

「生命科学と数理の融合の今後の発展方向」

      生命動態システム科学4拠点の紹介と融合における問題点など

  松田道行、楯真一、和田洋一郎、栗原裕基、時弘哲治、井原茂男 他

 

    話題提供:

    松家敬介(東京大学):血管新生における伸長・分岐過程の数理モデリングを通しての融合研究の課題、 

    他

 

-閉会の辞

参加者数 数学・数理科学:37、 諸科学:11、 産業界:4、 その他:8
当日の論点

複雑な現象やシステム構造をもつ生命科学は、ヒトゲノム計画以降、遺伝子情報に関するビッグデータを扱うことで大きく発展をとげつつある。生命科学では、生命動態、すなわち時間軸の中の現象として生命をとらえるアプローチが今後の日本の生命科学における重要な柱として認識され、その発展が重要な課題になっている。そこで、生命動態の4拠点のメンバーを中心に拠点全体の活動状況、および研究の概要

・生命現象のダイナミクス:生命の複雑系の問題としての数理

・細胞のダイナミクス:細胞のイメージングの数理

・核におけるダイナミクス:クロマチンのひも構造の数理

・遺伝子のダイナミクス:転写過程の輸送問題の数理

・蛋白質・RNA:構造生物学の群表現の数理

について昨年度は、産業界からのニーズを紹介するセッション、数理モデルの特許化と産業界との連携、若手中心の発表というかたちでポスターセッションを行った。そのときすでに、一般的な各拠点の紹介、各拠点での研究の取り組み方、研究内結を紹介しあっており、同様な試みはより一般化され、3月の行われる会合:「生命動態システム科学四拠点・QBiC・CREST・PREST合同シンポジウム」も予定されている。そこで今回のワークショップでは、生命科学分野において今後モデリング手法のうち活用が期待されるセルオートマトンを中心テーマとして取り上げ、1)数理科学と様々な分野での応用中心のセッション、2)工学的なアプローチから生命科学にせまる手法、および3)会場の研究者と講演者が生命科学と数理科学の融合について議論できるようなセッションを設け議論を進めた。生命科学の理論家、実験家、数理科学、および一般の人が集い、セルオートマトンの数理を基軸として生命動態における新しいアプローチを模索した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

生命科学と数理科学はともに異なった方向に非常に専門化・特化が進んだ分野であり、ダイナミクスという切り口で議論を進めた。もともとの会合の趣旨は、セルオートマトンの数理は様々な分野でのダイナミクスを調べるところで利用されていることから、セルオートマトンを題材にして、専門化・分化した分野にいる生命科学の研究者と数理科学の研究者が全く異なる分野の応用例を知ることで、生命科学での新しい利用を見いだすことに期待があった。

  全く異なる分野の応用例を介することで、セルオートマトンの数理モデリングの重要さがあらためて認識され、生命科学と数理科学相互の分野での認識は深まり、連携を考える良い機会となった。特に、通常は生命科学では接する機会の少ない数理的内容の発表、また、数理では接することの少ない生命科学の発表が多く、個々の研究者が自身の興味を拡げていたことは多々あったようであり本会は有意義であった。ただ、用語が専門的であったこともあり、内容について全ての参加者、特に生命科学の実験研究者が理解できたかどうかは疑問であるが、興味のある内容であることは十分理解してもらえ応用の可能性は理解してもらえたと思う。(生命科学の用語についても諸科学の研究者にも、同様にあてはまることもあったとは思われる。)一方、数理関係者は生命科学での応用において、数理科学的な論理展開を追うことで満足しがちといわれるが、数理科学の発展における生命科学の持つ発展性の息吹を感じ取ってもらえ、生命科学のダイナミズムは理解してもらえたと思う。今後とも引き続きこの様な機会を通じてお互いの分野を理解することがお互いの分野を発展させることであることを理解し、多くの人に理解してもらう必要がある。今回、融合領域で有用な方法論であるセルオートマトンを中心に専門的に議論を掘り下げてみたが、すぐに新たな連携が生まれるところにはもっていけなかったものの、今後につながるような課題が多く見受けられたのは大きな収穫であった。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

より大きな成果にしていくためには、今後大きく発展する生命のダイナミクスという切り口は保持し、さらに広い範囲で(と同時に狭い範囲で)、両分野の研究者がお互いの分野に興味を持ち連携できるよう幅広く知見を広げる必要がある。今後とも生命のダイナミズムを記述できる新規の方法論の探求を具体的に進めたい。特に、

・数理研究者が生命科学研究者や産業が抱える問題を共有し、

・研究者同士のネットワークの構築、

・連携テーマの具体化、

を与える場をワークショップとして今後も形成し、生命のダイナミズムにおける空間的時間的パターンの形成などにおける新しい課題を、原子論的あるいは現象論的な方法論まで含む多様な立場で探索する方向で進んでみたい。講演会に参加することは受け身になりがちである。この解決のため、今回は、最終日に会場と講演者とのフリーディスカッションを行うことを試みた。一回だけでは十分ではないので、今後とも同じ様な試みをすることは重要だと感じた。さらに、参加者が問題意識をもって生命科学と数理科学の融合を進めるような別の施策を提案し実践して行きたい。今回は準備の関係でポスターセンッションや懇親会は行わなかったが、自由に議論できる場を提供し、ネットワーキングの意味では行うべきであったと感じた。

また連携に不可欠な知財権の獲得や維持などは今後とも検討すべき課題であるように思えた。さらに、民間企業、独立行政法人からのより多くの参加を促す様な施策も検討すべきであると感じた。

今後の展開・フォローアップ

今回の会議を起点とし、今後も引き続き、産学連携まで視野に入れた様々な異種分野の融合領域構築を図るべく、同様の会議を企画していく予定である。次回は関西地区と合同で引き続き開催を企画することで合意が形成されつつある。特に、今回は生命動態の4拠点が中心であったが、今後はCREST、さきがけ、およびJSTのデータベース構築においても生命のダイナミクスに関係する研究者を広く受け入れる会合にして視野を拡大していくことが今回の会の世話人一同で決定している。

 今回はセルオートマトンを中心に工学的なアプローチも取り入れて生命科学の中の数学モデリングの手法を探索したが、

セルオートマトンを継続していくことも重要であり、また全く別の数理分野で同様の研究会を開催することも重要であり、今後とも生命ダイナミクスの観点から様々な方法論を探索して行きたい。

生命のダイナミクスの探求は、生命科学と数理科学双方にとって極めて重要である。今以上に数学的な探求をさらに促す様な生命科学のあり方さらに改革することを念頭に、産学連携へと発展できるように進めてみたい。

 本会議の講演内容については既に、承諾が取られたものに限り、講演者のプレゼンのビデオを会議ウェブページ経由で数理科学研究科ビデオアーカイブにアクセスすることで一般公開をしていく予定である。