数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 数理医学体験ワークショップ~日仏数学者による秋の学校
採択番号 2014W05
該当する重点テーマ ビッグデータ、複雑な現象やシステム等の構造の解明
キーワード 数理医学 、細胞生物学 、医工学
主催機関
  • 日本応用数理学会数理医学研究部会 (CREST「生命動態」研究領域協賛)
運営責任者
  • 鈴木 貴
開催日時 2014/10/31 10:00 ~ 2014/11/02 17:20
開催場所 大阪大学国際棟(シグマホール、セミナー室)
最終プログラム

プログラム案

10月31日(金)

1000-1040 オープニング

1050-1140 特別講演、澤芳樹(大阪大学)再生医療の現況

1150-1230 Clair Poignard(Bordeaux大学)基調講演

1340-1510 講演者A

1520-1650 講演者B

1710-1750 近藤滋(大阪大学)Waves making skin patterns: An example of Turing pattern in organisms

1800-1900 交流会

11月1日(土)

0920-1050 講演者C

1100-1230 講演者A

1330-1410 市川一寿(東京大学)Oscillation Pattern of Transcription Factor NF-κB Regulated by Spatial Parameters

1420-1500 柴田達夫(理化学研究所)蛍光イメージと数理モデリングによる1細胞スケールの動態の解析

1520-1620 ショートコミュニケーション

齋藤卓(愛媛大学)蛍光イメージングと数理で観察するゼブラフィッシュの発生パターン

伊藤昭夫(近畿大学)Large-time behavior of tumor invasion with a chemotaxis effect

加藤毅(京都大学)A classification of Mealy automata with small states from the view point of tropical geometry

1630-1750 ポスターセッション、板野景子(大阪大学)、小林愛美(大阪大学)、Dhisa Minerva(大阪大学)、Nuanprasert Somchai(大阪大学)、岩見真吾(九州大学)、鈴木譲(阪大理)、Olivier Gallinato(Bordeaux)、松下 勝義(理化学研究所)、高橋大介(大阪大学)

11月2日(日)

0920-1050 講演者B

1100-1230 講演者C

1330-1410 長山雅晴(北海道大学)表皮構造の数理モデル

1420-1500 畔上秀幸(名古屋大学)形状最適化理論の骨格モデリングと側弯症成因解明への応用

1520-1720 パネル討論会「数理医学教育研究の現況と今後」

招聘研究者

Clair Poignard(Bordeaux)

"Mathematics for Medical Applications: how medical imaging can help in mathematical modeling?"

講演者A Vincent Calvez (Lyon)

researcher, cell polarization and Keller-Segel type models

"Propagation phenomena in structured models of population dynamics''

講演者 B Magali Ribot (Nice)

assistant professor, biofilms modeling

"Mathematical modeling for biofilms formation''

講演者C Sebastien Benzekry (Bordeaux)

tumor volume model from mice experiments

"Mathematical modeling of tumor growth and metastatic spread. Data, theories and predictions''

 

共催 : JST-CREST生命動態 bio-dynamics

参加者数 数学・数理科学:48、 諸科学:15、 産業界:2、 その他:0
当日の論点

本会議について主催者側は以下のコンセプトを提示した。生物科学における数理的方法には様々なものがある。基礎研究に近いものでは、理論生物学、生物物理学、生化学、また応用研究に重点を置いているものとして医工学、バイオインフォマティクス、システム生物学、生物統計が挙げられる。これらに背景となる学問領域があり、そのことに由来する決定論的、統計的、統合的な性格をそれぞれに残している。数理医学は、数学を用いた医学研究であり、そのミッションは3つある。ひとつはこれらの数理的方法の数学的基礎を確立して実用化と応用を促進すること、もうひとつは横断的、俯瞰的な視点を導入してモデリング法を革新すること、3番目は生命現象から新しい数学を創成することである。主催組織である日本応用数理学会数理医学研究部会は、グローバリゼーション以降の大阪大学基礎工学研究科数理教室の変遷や文部科学省による数学イノベーションと連動して活動してきた。今回は異分野研究との出会いを目的とした数学協働プログラムワークショップを開催する。データが示すように最近20年間の純粋数学を牽引してきたのがフランスとロシアであり、フィールズ賞受賞者はフランス全土に及んでいる。フランスの応用数学研究の在り方は、数理医学研究部会の目指すところと合致するもので、純粋数学、数理科学の橋渡しとして、特に若手研究者を中心に新しい研究の方向が打ち出されている。今回のワークショップでは日仏両国の数学者を講師として招き、生命科学、医療の革新、モデリングの進歩、現実に裏付けられた新しい数学を体験する「学校」として運営し、我が国の数理医学研究活性化を進めることを意図している。

以上のコンセプトの下で研究会では3日間にわたり口頭発表、ポスター発表による研究報告を実施し、最後にパネルディスカッションを行った。パネラーは細胞生物学、統計学、数学、医学・数理科学を専門とする4名で、それぞれビックデータとモデルの融合による生命現象の解明への期待、生命科学研究に統計を持ち込むことが不可避であること、数学がもつ広がりと制約の2面性、医学研究における数理的方法のステータス向上について問題提起があり、フロアーも交えて意見交換を行った。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

フランス側による1件の基調講演と3件の連続講演はデータ、モデリング、数学、生物学研究がリンクした目覚ましいもので、医学(癌悪性化)、農学(バイオフィルム)、環境科学(生態系)それぞれの前線に数学者が立っている。特に癌悪性化予測でのデータとモデルのマッチング、バイオフィルム研究でのモデルを用いたパラメータ感度分析や光の透過についての非線形効果のモデリング、外来生物侵入におけるカイネティック効果に関する理論研究と生態学との協働が注目された。日本側講演からも臨床医療、細胞や細胞分子動態の最前線の研究において、数理科学の必要性と適用例が広がっていること、一方で生命現象を題材とした数学研究も増えていることが明らかになった。パターン形成に関するチューリングのモデリングの要である、短距離での抑制と遠距離での亢進という現象が細胞分子レベルで観察されるなどの報告もあったが、全体として我が国ではまだ数学と生命科学が融合した段階にはなく、今後の大きな可能性が示されたものの具体的な計画までには進んでいないことも推察された。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

上述したように、我が国においても医学、生命機能科学、細胞生物学研究での数理的方法の適用例、その必要性や可能性が認識されている。しかし実際の数理医学研究では実用性や従来のパラダイムの権威づけに重きを置く傾向が強い。この点については実験観察データと明確な理論根拠に基づいた数学モデリングと、シミュレーションだけに頼らない大胆な数学解析を実行し、諸科学、産業の前面に数学を置いて、数学本来のもつ自由な発想を展開するフランス側との相違が顕著であった。フランス側の研究発表の背景に応用数学の伝統があり、一方で純粋数学、一方で数理科学として開花していることも垣間見られた。応用数学という立場から今回の研究会で課題として捕えられたのは以下の項目である。

1.生命現象をマクロなメカニックな視点で見たモデリングと数学の必要性。医学応用という観点から細胞分子、信号伝達レベルとは別に吟味しておくべきことが多い。そのような題材として、今回の発表の中では外科や整形外科の立場から見た心臓と血流、骨格形成の生体力学的記述が注目された。

2.時空のマルチスケール性を統合的に扱う数学の必要性。例えば細胞と細胞分子動態はマルチスケールで連動している。モデリングにおいてそのことを議論しているにもかかわらず、シミュレーションではブラックボックスとなり、その有効性と適用範囲が吟味されていない場合も多い。モデリングとシミュレーションは別物であり、様々なシミュレーション法自体を検証する必要がある。これは数値解析学の研究領域であるが、我が国におけるこの分野の研究も伝統的な枠組みに縛られている。ハードの進展に伴い数理科学において新しいシミュレーション法が続々と提示されている現況では、我が国の数値解析学も大きく変貌するときである。

今後の展開・フォローアップ

数学イノベーションの機運を逃さず、行政と協力して制度を整え、教育と研究を融合した長期的な運営を行って応用数学研究の基盤を構築したい。大阪大学では現在の金融保険教育研究センターを改組し、来年度中に数理・データ科学教育研究センターを発足させる計画が進んでいる。ここでは大学院の高度副プログラムとして応用数学コースを取り上げ、数理医学もその柱として取り上げる。対象者は他大学を含めた学部生、大学院生、数学、数理科学、医学、生物学などの広範囲の研究者、高校や高専教員を含む社会人、企業の研究者である。今回の研究会では、数学、数理科学、統計学、生命科学、医学の様々な専門家が参加して、それぞれの在り方を理解し、パートナーシップを打ち立てる必要を確認した。具体的な方策については今後より細かく企画していく必要がある。数理医学研究はようやく広がりを見せている。シミュレーション、モデリングについては他研究部会との連携を模索したい。また研究を継続して進展させるために、幹事間の意見交換の機会を増やし研究部会組織をより充実させていきたい。