数学・数理科学と共に拓く豊かな未来 数学・数理科学と諸科学・産業の恊働による研究を促進するための「議論の場」を提供
項目 内容
研究集会等の名称 多孔質媒体の移動と内部構造を考慮した流体モデルの構築
採択番号 2014S08
該当する重点テーマ 過去の経験的事実、人間の行動等の定式化 、計測・予測・可視化の数理
キーワード 多孔質媒体 、流体物理 、数理モデル 、計算力学 、数理工学(数理的解析・計画・設計・最適化)
主催機関
  • 明治大学
運営責任者
  • 池田 幸太
開催日時 2014/12/09 00:00 ~ 2014/12/11 00:00
開催場所 明治大学中野キャンパス
最終プログラム

 多孔質体における物質移動の理論的側面について、佐野吉彦(岡山大学)が数理モデルの成り立ち、及び方程式に含まれるパラメータの説明を行う。一方、事前準備段階で議論した内容に従って、末松 J. 信彦と池田幸太(明治大学)は研究集会実施前に珈琲成分の溶解速度測定実験を行ったので、その実験結果報告を行う。これらの知識・知見を共有する一方で、数理モデルの評価を行うための実験装置を設計する。さらに、研究集会中に装置を実際に組み立て、時間が許す限り実験を行い、実験装置の改善点や問題点を明確化する。

 数理モデルと実験方法における課題と問題点を明確にするため、両者の報告を比較検討し、深い議論を行う必要がある。そのため講演数と聴講者を少なく設定し、数理モデルと実験における課題を深く理解し、今後の研究の発展に注力する。各講演内容を共有した後、2日目午後、3日目の午前に行う討論セッションにおいて、共同研究で取り組む課題を定義する。

 

プログラム

129(

17:00-21:00 珈琲抽出実験装置設計

 

1210(

10:00-12:00 佐野吉彦(講演)多孔質体の物質移動~珈琲抽出のモデリングに向けて~その1

13:30-15:00 佐野吉彦(講演)多孔質体の物質移動~珈琲抽出のモデリングに向けて~その2

15:30-16:30 末松 J. 信彦・池田幸太(講演)珈琲成分の溶解速度測定実験結果報告

16:30-18:30 珈琲抽出実験装置設計

 

1211(

10:00-12:00 討論(まとめ・今後の課題について)

参加者数 数学・数理科学:8、 諸科学:0、 産業界:1、 その他:0
当日の論点

 研究集会開催前に研究の大まかな方向性について議論を行った。この議論において、数理モデルを評価するための実験で用いる、珈琲成分抽出装置の概要が議論され、佐野によってその試作品が設計された(参考画像:抽出装置 2014120912)。1日目は、まずこの抽出装置を用い、実験を想定通り実施可能か調べた。実際の実験では、多孔質体である珈琲粒子全体にお湯が浸透せず珈琲溶液を抽出できなかった。これは珈琲粒子から発生する気泡がお湯の浸透を阻害するためであると推論し、珈琲粒子を固定するためのメッシュのサイズを変更すべきであると結論した。また、実験の効率化のため装置の改良案も提案された。2日目は、まず佐野が数理モデルとパラメータについて詳細な説明を行った。さらに、珈琲成分抽出実験と符合させるため最も単純な1次元の定常流モデルを導出した。このモデルは珈琲成分の物質移動だけが考慮された線形の1次元移流方程式であり、解析的な取り扱いが比較的容易であろう。さらに、モデルに含まれるパラメータは全て実験から推定可能であると考えており、モデルの評価を実験で行うことが可能である。実際に、末松と池田が行った報告により、数理モデルのパラメータは部分的に推定された。これらの報告を受けて、3日目の討論では今後の研究において行うべき事項をまとめた。今後の目標として、(i)得られた微分方程式を解析的に解く、もしくは定常流れの速度と抽出成分量の関係性をモデルから得る。(ii)モデル評価に用いる実験装置を完成させる。(iii) (i)(ii)の後、モデルで予測した珈琲成分抽出量の時系列データと実験結果を比較し、モデル評価を行う。以上の3点を実施することで議論が収束した。

研究の現状と課題(既にできていること、できていないことの切り分け)

既にできていること:

 物質移動と多孔質体の性質を取り入れた数理モデルの構築は終了した。また、数理モデルにおけるパラメータの1つである珈琲成分の溶解速度を実験的に推定した。さらに、数理モデルを評価するための実験装置のプロトタイプを作成した。

 

できていないこと:

 数理モデルを単純化して得られた線形の1次元移流方程式について、現在解析的に解を求めるための計算を実施している。また、現在のところカフェインを評価すべき珈琲成分と定義しているが、クロロゲン酸も今後は評価対象にすることを視野に入れている。そのため、新たにクロロゲン酸に関する溶解速度を実験的に求めるべく、試薬を入手し実験を行う予定である。さらに、珈琲成分抽出実験で用いる適切なメッシュの選定に取り組む。

新たに明らかになった課題、今後解決すべきこと

1.今回対象としている現象では、円柱領域内で一様にお湯が浸透する状況を想定するため、水平方向は状態が平均化されるであろう。また、お湯の注入速度を調整し、定常流と見なせる状況を実現する。すると数理モデルは簡約化されるため、物質濃度に関する1次元移流方程式だけを考えればよいことが研究集会中の議論によって明らかになった。通常多孔質体内での物質移動を伴う流体運動の解析では数値解析手法を用いた研究が行われるため、本研究ではより詳細なモデルの解析が期待できる。今後はこのモデルの解のパラメータ依存性を明らかにする。

 

2.珈琲成分抽出実験では、珈琲豆から発生する気泡がお湯の浸透を阻害するためほとんどお湯が浸透しなかった。これは装置上部に設置したメッシュが細か過ぎたことが原因と考えている。今後はメッシュの変更を行い、実験装置を改良する。

今後の展開・フォローアップ

 今後の研究では、数理モデルを評価するための実験装置の完成をまず第1の目標とすることで研究集会中に合意した。装置が完成し、実験結果が得られた時点で再び議論を実施する予定である。本研究では実験結果を定量的に評価する手法が必須であるが、現在用いている分光法での評価が不十分であれば、液体クロマトグラフィーを使用できる研究者と新たにコンタクトを取ることで、数理モデルの評価を行いたいと考えている。